第27話 改めて確認
水琴が眠りについたのを確認してから、アリスと茜はリビングに戻った。
「本当に水琴は大丈夫なのよね?」
「うん。大丈夫だよぉ。愛しい妹弟子なんだから、ちゃんと診察したしねぇ」
「そう。なら、良いわ。水琴用の軟膏は作っておいたから、しっかりと塗ってあげてちょうだい」
「うん。それより、あの子に何か特別な事を教えた?」
茜の質問に、アリスは水琴との日々を思い出す。だが、思い当たる節がなかった。
「いいえ、特に特別な事は教えていないわよ」
「そうなの? それにしては、魔力の濃度が異常に濃かったんだけどぉ」
「ああ、日常的に魔力増加をさせているからだと思うわよ」
「この二ヶ月の間ずっとぉ?」
「そうよ。起きている時には、基本的に魔力増加をして貰っているわ。今の私じゃ、まともな戦闘に参加出来ないもの。せめて、もう少し魔力がないとね」
アリスの話を聞いて、茜は納得したように息を吐いた。
「なるほどねぇ……さすが、師匠の修行法は厳しいねぇ。普通の人は魔力増加を常に続けるなんて無理だよぉ? 私が教えてあげた子の中で、ちゃんとサボらずに出来たのは恵ちゃんだけだもん」
「そうね。基本的に集中力と忍耐が必要になるものね。水琴の場合、根が良い子だから、言われた事を守ろうとするのよね。だから、愚直に魔力増加を続けてくれるのよ。最近じゃ、身体強化との併用が出来るようになっている程よ」
「嘘っ!? 私でも魔力増加と身体強化の併用は難しいのに……」
「ジルは、運動をしないから身体強化をしないものね」
「……」
茜は、何とも言えない表情になりながら、アリスを見ていた。事実なので何も言い返せないからだ。
「でも、この魔力の量と濃度にしては、魔法に威力がないみたいだねぇ。ブラックベアとの戦闘場所をもう一度見に行ったんだけど、石を破壊させるくらいの威力が最大みたい。よくブラックベアに勝てたなぁって思うよぉ」
「威力がない? 確かに、今までは物体を使った攻撃がほとんどだったから、魔法で生じさせる威力は、あまり見てなかったわね。それに関しては、魔力が混じっている事が原因と考えて良さそうね」
「うん。魔力増加をし続けているから、その内解決しそうだけどね」
「まぁ、そうね。それより、茜に訊きたいのだけど、アレの封印が解けそうなら、あなたはここにいても大丈夫なの?」
戦闘よりも絵画魔術の方が得意な茜でも、現状であれば貴重な戦力になる。日本に封印されている化物の小兵が出て来ている以上、茜が日本にいた方が安心なのではという風にアリスは考えていた。
「大丈夫。まだ出て来たわけじゃないし、小さいのは、私達じゃなくても倒せるから。それに、ちゃんと冷音ちゃんの許可と白の君の許可も貰ってるから。今回の封印が解けた影響で裏世界に飛ばされた人は、調べた範囲で水琴ちゃんだけだからぁ」
「まぁ、タイミング良く……いえ、タイミング悪く魔力の放出が重なる事なんてそうそうないものね。後は、クライトンの支持者達が封印に対して手を加えてくるって事はないのかしら? あれを慕っていた馬鹿も多かったでしょう?」
これに対して、茜は腕を組んで考え込む。
「確かに、裏ルートで生命の石を取り寄せれば転生は出来るかもしれないしなぁ」
「つまり、調べられていないって事ね」
「さすがに、今の世界の人口を全て調べる事は出来ないしねぇ。一応、魔法学校に入学する子達は魂を調べられているけど、クライトンのシンパはいなかったみたいだよ」
「裏で動いている可能性はあるって事ね。そっちの専門もいるでしょう?」
「私は関わってないから分からないかもぉ。冷音ちゃんなら知ってるんじゃないかなぁ」
「本当にビビは働き者ね。ジルが向いていないだけかもしれないけれど」
事実なので、茜は黙り込むしかなかった。そのまま話していると、小言が続くだろうと考えた茜は話題を変える。
「そういえば、水琴ちゃんは、これからどうするの? 魔法学校に入学してもらう?」
「そもそも魔法学校が何か知らないのだけど」
「そのままだよ。魔法を学ぶ場所だよぉ。集団に教える事で一気に戦力を作ろうって感じ。魔法だけじゃなくて、魔術とかも学ぶ事になるけどねぇ。私も絵画魔術の先生をしてるよぉ」
「ジルが先生……大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だよぉ! これでもちゃんと先生をしてるんだから」
「そう……まぁ、これに関しては、水琴自身に確認しないといけないわ。私への弟子入りも元々裏世界から表世界に帰るためのものだから」
アリスは、水琴を表世界に帰すために魔法を教えていただけで、優秀な魔法使いにしようとは考えていなかった。表世界に帰った後は、水琴の選択に任せるつもりだったのだ。
「そうなんだ。じゃあ、仕方ないか。素質はあるから、良い魔法使いになると思ったんだけどなぁ」
「あの子にはあの子の人生があるのよ。無理強いは出来ないわ。そういえば、表世界でのあの子扱いは大丈夫?」
「表向きには行方不明になってる。でも、ご家族には説明しておいたよぉ。実際に魔法を見せて、何とか納得してくれたよぉ」
茜は、水琴の捜索に移る前に、水琴の両親への説明をしていた。なので、水琴の両親も水琴が家出をした訳では無いと理解している。そして、水琴が危険な状況にいるという事も。それらを承知して、茜に捜索を頼んでいた。
「そう。仮に水琴が魔法の学校に入るとして、転入は出来るのかしら?」
「うん。そこは白の君がいるからねぇ。手続きは面倒だけど、普通に出来ると思うよぉ」
「問題はいつ頃帰れるかよね」
「だねぇ。今の水琴ちゃんの負担とかも考えて、一ヶ月はここにいた方がいいと思うよぉ」
「そうね。まともに動けるようになるまで時間が掛かりそうだものね」
傷という点で言えば、既にほぼ治っているが身体の機能が元通りに戻るまでは時間が掛かる。それほどまでに深い傷だったという事だ。
「そんな長い間、留守にしておいても平気なの?」
「大丈夫だよぉ。そっちも許可は取ってるからぁ」
「大丈夫なら良いわ」
「うん。というか、仮に大丈夫じゃなくても、今の水琴ちゃんを置いて仕事に帰りはしないよぉ。そこまで非情にはなれないしねぇ」
「本当にありがとうね。せっかくだから、久しぶりにジルも修行しましょうか」
「えっ!? 良いの!? やったぁ!!」
アリスから修行を付けて貰える事に、茜は素直に喜んでいた。元々嫌々アリスの弟子になったわけではないので、アリスが自分を見てくれる事は嬉しい以外の気持ちはない。例え、その修行が厳しいものだとしてもだ。
「それじゃあ、魔力増加からやるわよ。何事も基礎から固めないとね」
「はぁい」
茜は慣れているように服を脱いで、魔力増加を始めた。それを見ていたアリスは、
(脱ぐと、より一層大きいのが分かるわね……それに全体的なスタイルも良いし……この子、運動しないのに何でこう成長するのかしら。ビビに強制的に運動でもさせられているのかしら)
と思っていた。
「そういえば、師匠。水琴ちゃんには手を出さないの?」
「猫の状態で、どうやって手を出すのよ。せめて、人に変身できないとね。言っておくけど、水琴に手を出しちゃ駄目よ?」
「分かってるよ。恵ちゃんに色々な意味で怒られるだろうし……」
そこからは、久しぶりの師弟の時間を過ごしていた。アリスとしても、改めて自身の弟子の成長を見る事が出来たので、少し楽しいと感じていた。その片隅で、水琴の事を心配しながら。
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