巨乳死すべし

武功薄希

巨乳死すべし



 私は巨乳だ。だが、世界の終わりに巨乳なんてものは何も意味がない。しかしながら、この巨乳にはこれまでずいぶんといい思いをさせてもらった。


 麗子は窓の外に広がる赤い空を見つめながら、そう思った。警報が鳴り響いてから3日が経ち、世界は静かに終末を迎えようとしていた。

 彼女はラウンジ嬢として稼いだ金で借りた高級マンションの一室に立っていた。派手な装飾が施された部屋も、今となってはむなしく感じられる。整形で少し良くなった顔と天然の巨乳を武器に、夜の世界で生きてきた麗子。お金も、贅沢な暮らしも手に入れたが、その華やかな表面の下には常に空虚さがあった。

 突然、爆発音が鳴り響き、建物が大きく揺れる。麗子は慌ててバルコニーに出た。街は炎に包まれ、人々の悲鳴が聞こえる。これまで自分の体を武器に他人を利用してきた自分が恥ずかしくなった。

 ――最後くらいつつましやかに最期を迎えよう

 そう思った瞬間、麗子の心に奇妙な好奇心が芽生えた。

 ――こんな世の中の状態でも、果たして巨乳に威力はあるのだろうか?

 思い立ったが吉日。麗子は急いで町内放送の設備がある建物へと向かった。

 「これは緊急のお知らせです。本日午後3時、中央公園に集まってくださった方全員に、私の胸を触らせていただきます。興味のある方は、ぜひお集まりください」

 麗子の声が町中に響き渡る。彼女自身、この呼びかけにどれほどの人が応じるか半信半疑だった。

 時間が経つにつれ、中央公園には予想を遥かに超える数の男性が集まり始めた。午後3時、麗子が姿を現すと、そこには100人を超える男性たちが待ち構えていた。

「おっぱい!おっぱい!」

 群衆から沸き起こるコールに、麗子は自尊心が満たされるのを感じた。世界が終わろうとしているこの瞬間でさえ、自分の魅力が健在であることの証明。それは彼女にとって、最後の勝利のように思えた。

「皆さん、順番に触らせていきますね」

 麗子は冷静を装いながら、まるで握手会のように一人一人に胸を触らせていった。男たちの熱気に押されながらも、彼女は淡々とその行為を続けた。

 しかし、群衆の後方にいた一人の男が、いつまでも順番が回ってこないことにいら立ちを募らせていた。その焦りは次第に怒りへと変わり、ついには制御不能なまでに膨れ上がった。

 突如として、銃声が響き渡る。

 麗子は胸に鋭い痛みを感じ、その場に崩れ落ちた。彼女の目の前で世界が回り始める。

「なぜ...」

 最後の言葉を紡ぎ出そうとしたが、麗子の意識は急速に遠のいていった。

 麗子の死は、群衆の秩序を完全に崩壊させた。男たちは我先にと麗子の亡骸に群がり、「おっぱい」コールを続けながら、争い、殺し合い始めた。

 人間性を失った群衆は、死体となった麗子の胸を無差別に揉みしだいた。その狂気の渦中で、世界は滅亡へのカウントダウンを刻んでいた。

 麗子の最後の実験は、皮肉にも人間の欲望と狂気を暴き出す結果となった。彼女が求めていた答えは、その惨劇の中に隠されていたのかもしれない。

 世界が終わるその瞬間まで、「おっぱい」コールは混沌の響きを持って続いた。


 おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい……。


 

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巨乳死すべし 武功薄希 @machibura

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