第156話 行き先決定と出発準備

 お昼時ということもあり、街へ戻った俺達は適当な食事処へ向かった。


 店内の空いている席に座り、店員に対して各々食べたい料理を注文する。


 「さて、騎士団との一件も落着したことだし、次の街か、あるいは次の国に向かおうと思う」


 「そうか」


 「そうか? なにを他人事のように返事しているんだ。ディアナも一緒に行くんだぞ」


 「は? 待て待て。そんな話は聞いていないぞ?」


 「今言ったからな」


 「話が急すぎる。そもそも私はーーー」


 「ディアナ、お前に選択の余地は無い。お前は俺の隷属下にあるわけだからな」


 「…」


 「それと、お前はここに居てもそれ以上強くなれないぞ。それこそ、AランクやSランクの魔物や冒険者、傭兵と戦う必要がある」


 「それは…分かっているが…」


 「家族や友人が心配か?」


 「ああ。それに先程の戦闘で、王都を守護する騎士団や魔法士団の者達が居なくなった。益々この国が心配だ」


 「騎士団長の言っていた上の者が馬鹿野郎だったってことだな。確かに、軍事力低下の情報が漏れれば、隣国とかから侵攻されるかもな」


 「その通りだ」


 「しかしお前一人がいたところで、国の命運をどうこうできるとは思えないけどな」


 「…」


 「だから、約束してやろう。もしこの国ーーー〈アルバニア王国〉に侵攻する国があれば、俺が全員皆殺しにしてやると」


 「…本気で言っているのか?」


 「あぁ。勿論本気だ」


 正直、ディアナの家族や友人はどうなろうとどうでもいいが、〈ハザール〉の森で出会ったエイミーやアラン、ブラッド達。


 〈ヴァルダナ〉で世話になったブライアンさんのことは、何かあれば力になりたいと思っている。


 それにーーー


 「ディアナ、お前はこの世界でも上澄みの実力者ではあるが、まだ足りない。いずれ起きるかもしれない戦争について心配するより、今は少しでも強くなって、多くの人を守れるようになるのが先だ」


 ディアナは顎に手を当て、一瞬思考する素振りを見せるもーーー


 「分かった。アレンに同行しよう」


 「それは助かるな。まだまだお前の身体は抱き足りないんだ」


 「…お前は変態糞野郎だ」


 ディアナに呆れ混じりの目つきで睨まれ、罵られた。


 「話が逸れたが、次の目指すべき狩場やダンジョンについての情報はあるか?」


 「東側の隣国ーーー〈エルサレム王国〉には、Aランク狩場とBランクダンジョンがあったはずだ」


 Bランクダンジョンか…魔物の強さとしてはとても物足りないが、まだ出会ったことのない魔物や新規スキルの獲得チャンスではあるか。


 Aランク狩場も…今となっては物足りないが、Bランクダンジョンに出現しない魔物がいるのは確実だ。


 それにディアナが成長するいい機会でもあるし、もしかしたら英雄と讃えられるSランク冒険者にお会いできるかもしれない。


 「行き先はそこで決定だな。できればそこで、ディアナにはSランク冒険者に昇格してもらいたいものだな」


 「簡単に言うな」


 「それにしても、複数の上位狩場やダンジョンがあるなら、相応に実力者は多そうだな。〈エルサレム王国〉が〈アルバニア王国〉に侵攻してきたら、一瞬で敗北するだろうな」


 「〈エルサレム王国〉は小国以上大国未満の中規模な国だが、狩場やダンジョンに恵まれて、冒険者や傭兵の質は高い。もし侵攻してきたら、お前の敵になるぞ?」


 「あぁ…非常に楽しみだ」


 真剣な表情で問うてきたディアナに、満面の笑みで言葉を返す。


 「ふと思ったんだが、アレンのほうが私より戦闘狂じゃないか?」


 「ハハハ! 返す言葉も無いな」


 そのあと、運ばれてきた料理をあっという間に食べ終えてしまい、すぐにおかわりを注文する。


 戦闘直後ということもあり、お腹がぺこぺこなのだ。このあと、店員からストップがかかるまで食べ続けた。


 支払いを済ませ店を出る。


 「ディアナ、王都を明日の朝には出発したい。まだ時間はあるし、挨拶や荷造りは済ませておけ。俺は先に部屋に戻る」


 「あぁ分かった」


 店前で俺とディアナは別行動になった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 一方その頃。


 アレンとディアナを乗せて王都まで戻ってきた御者の男性は、周囲の様子を気にすることなく、全力疾走で騎士団の詰所に向かった。


 彼の報告を受けた一人の騎士が事の真偽を確かめるため、報告に来た御者の男性に案内を頼み、他数名の部下達を連れて、戦場跡地に向かった。


 戦場跡地に到着した一行は、目の前に広がる光景に唖然としながらも、震えた足取りで現場確認を行う。


 凍死や首を斬り落とされて絶命している多くの仲間達を目の当たりにし、最後に団長や副団長達の死体を発見し、ようやく現実を受け入れた。


 そのあと、優先的に団長や副団長達の死体を王都まで運び、緊急で宰相に報告することにした。


 コンコンコン


 宰相の執務室の扉をノックし、入室許可が下りたので、緊張の面持ちで入室する。


 「何の用だ?」


 「ハッ! 騎士団と魔法士団の混成軍約10,000名が全滅していることを確認しました」


 「全滅? 何を言っている?」


 「先程、容疑者であるアレンとディアナの送り迎えを担当した御者の者から報告がありました。アレンとの戦闘で混成軍が全滅したと。報告を受け現場に急行したところ、団長や副団長を含めた騎士や魔法士が全員死亡していました」


 「ば、馬鹿なっ! 精鋭揃いの騎士団や魔法士団が、アレンたった一人に全滅させられたのか…?」


 「その通りです」


 「ハ、ハハ…あり得るか? たった一人で10,000人を皆殺しにするなど………わ、私はどうすれば…陛下にどのように報告すれば…」


 「早急に立て直す必要があります。大きく戦力が低下した今となっては、他国に侵攻でもされたら…この国は一瞬で呑み込まれます。迅速な対応をお願いします」


 未だに現実を受け止めきれない宰相を一人残し、報告しに来た騎士は業務に戻る。

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