第62話 効率的な狩りの試み

 翌日。


 太陽が地平線の向こう側から顔を出したばかりの時間に目覚めた。


 寝ぼけ眼を擦りながらベッドを降り、温かいシャワーを浴びる。


 頭の中に漂っていた靄が徐々に晴れ渡り、少しずつ意識が覚醒する。


 ボディソープと温かいシャワーで全身に纏わりつく寝汗を流し、少し重たかった身体が軽くなったような気がする。


 タオルで身体を拭き、インナースーツとロングコートを着て革靴を履き、面頬とフードを深く被り、魔物だとバレないように顔を隠す。


 ウエストポーチとマジックポーチを身につけ、大剣と長剣を装備する。


 準備が整ったので自室を後にし、朝食を食べるために一階に降り、空いているテーブルに座る。


 「おはようございます! 朝食は食べますか?」


 看板娘の彼女は早朝からとても元気だ。その笑顔にとても癒されるし、発育の良い胸部は目の保養になる。


 「お願いします」


 「はい! 少々お待ちください」


 彼女が料理を運んでくるまでの間にスキル一覧を表示し、羅列されているスキルを眺め、どのスキルを選択するか考える。


 Eランク狩場で活動する冒険者の数は少なく、狩場内には多くの魔物が生息する。


 今までの狩場よりは魔物との遭遇率は高いが、それでも多少は移動する。


 できれば、その場を動かず、魔物が集まってくるようなスキルが欲しい。そのほうが移動の負担が減り、魔物の討伐とブライアンさんの護衛に集中できる。


 そして、俺は一つのスキルを選択した。


 『【集敵】Lv.1を獲得しました』


【集敵】Lv.1

 敵意や殺意を持つ魔物を自身の元に誘き寄せるスキル。半径50メートル。幸運値+10


 このスキルがあれば、短時間で効率的に魔物を狩ることができるだろう。ただし、誘き寄せた魔物をブライアンさんを護衛しながら、捌き切れるか不安ではある。


 ブライアンさんには悪いが、一度試してみよう!


 「お待たせしました。本日の料理はシチューと黒パンになります。黒パンは硬いので、シチューに浸してから食べるようにしてください」


 「ありがとうございます。おかわりは何回しても大丈夫ですか?」


 「はい! 大丈夫です! たくさん食べてください!」


 「分かりました」


 「では、失礼します」


 まずはスプーンでシチューを口に含む。


 とても濃厚でまろやかな味わい、身体の芯から優しく温めてくれる。


 二口目以降は黒パンを一口サイズに千切り、シチューに浸して食べた。


 おかわりは何回しても大丈夫とのことなので十回おかわりし、金貨二枚を支払った。


 流石に看板娘の彼女は驚いていたが、お店の売り上げになるので許してほしい。


 俺は宿屋を後にして、集合場所の冒険者ギルドに向かった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「おはようございます、ブライアンさん」


 「おう! ちゃんと起きれたようだな」


 「頑張りました。それじゃ、狩場に向かいましょうか」


 「待て、アレン」


 「どうしました?」


 「昨日受けた〈オーク肉の調達〉の依頼が貼り出されている。受けたほうがいいんじゃねぇか?」


 「そうですね。では、手続きしてきます」


 「おう」


 受付に並ぶ冒険者達の一番後ろに並び、自分の番が来るまで待つ。


 早朝は冒険者達が活動し始める時間帯なので、どの受付も冒険者達が多く並んでいる。


 (自分の番が来るまで、少し時間がかかりそうだな)


 十五分程待ち、自分の番が来た。


 「おはようございます。この依頼を受けます」


 受付嬢に依頼書と自分の証明書ライセンスを渡す。


 「手続きをしますので、少しお待ちください」


 俺はフードを深く被り視線がバレないことをいいことに、受付嬢の制服を押し上げる豊満な胸部を凝視する。


 「アレンさんはGランクですが、本当にこの依頼を受けますか?」


 「受けます」


 「分かりました」


 手続きを終え、ブライアンさんの元に戻る。


 「手続きは終わったか?」


 「はい、終わりました」


 「よし! じゃあ、狩場に行くぞ!」


 「はい!」


 冒険者ギルドを後にして、隣の倉庫から荷車を借り、狩場に向かう。


 「そういえば、ブライアンさんはご結婚されているんですね」


 「あぁ。意外だったか?」


 「いえ、そんなことはないです。馴れ初めを聞いてもいいですか?」


 「特にロマンチックじゃないぞ?」


 「そうなんですか?」


 「あぁ。俺の妻は現役で冒険者だった頃の仲間だ。一緒に冒険をする中で苦難を乗り越え、互いに惹かれあって、結婚したんだ」


 「羨ましいです」


 「大丈夫だ。粗雑で不器用な俺でも綺麗な妻と結婚できたんだ。将来有望なアレンなら、すぐに結婚できるさ」


 「…そうですね。確か、子供もいるんですよね?」


 「あぁ、妻にそっくりで可愛い娘が一人いる」


 「溺愛してますね」


 「当たり前だ! 目に入れても痛くないほどに可愛い! 俺に似なくて良かったぜ!」


 ブライアンさんの幸せたっぷりの甘々な話を聞いていたら、すぐに狩場に到着した。


 「ブライアンさん、この長剣をお貸しします」


 「ん? 何故だ?」


 「今日は効率的に魔物を討伐するために【集敵】を発動して、魔物を誘き寄せます」


 「【集敵】を発動すれば、周囲にいる魔物が続々と押し寄せてくるぞ? 捌き切れるのか?」


 「分かりません。なので、本当に危険が迫った時は長剣で身を守ってください」


 「はぁ…怪我してる俺に無茶言いやがるぜ。アレンなら捌き切れると信じているし、たくさん稼げるのは理解しているが、怪我すれば妻に怒られるんだよな…」


 「奥様には悪いと思いますが、ブライアンさんのことはしっかりと守るので、安心してください。一応、【回復魔法】も使えるので、怪我したら言ってください」


 「【回復魔法】まで使えるのか…本当に多芸だな。よし! 腹括ったぞ! アレン! 俺を死ぬ気で守れよ!」


 「任せてください」


 俺は【集敵】を発動した。

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