第22話 ホブゴブリンに進化

 夜飯を調達するために街道付近から移動し、薄暗い森の中を奥に進んでいく。


 【熱源感知】と【異臭感知】を発動させ、薄暗く視界が不明瞭の中でも的確に魔物を探すことができる。


 そして、【気配遮断】と【魔力遮断】を発動させ、相手に気づかれることなく奇襲する。


 蛇と兎?を背後から奇襲し、長剣で胴体を串刺しにした。


 『Lv.10にUPしました』


 流石にこの二匹だけでは空腹が満たされないので、他の魔物を探そうと一歩を踏み出した時、脳内に無機質な声が響いた。


 『Lv.10に到達したことを確認しました』


 『これより、ホブゴブリンへの進化を開始します』


 突然のことに理解が追いつかず、混乱していると、身体中から骨が軋むような音が鳴り始めた。


 耳障りな音が鳴り響く身体に視線を向けると、腕や足の筋肉が膨張して太くなり、地面が徐々に遠く感じる。


 『ゴブリンからホブゴブリンへの進化が終了しました』


 身体から鳴り響いていた骨が軋むような音も落ち着き、俺は視線を上げる。


 近くの木へ向かって進み、間近で木を見上げる。ゴブリンの時は幾多にも枝分かれした枝葉も高く感じたが、ホブゴブリンに進化した今では、軽く跳躍すれば届きそうだ。


 改めて、身体を確認する。腕や足はゴブリンの時より二回り大きくなっているし、身体が引き締まった感じがする。


 ホブゴブリンの死体の対価としてアランから譲り受けた長剣もちょうどいい大きさに感じ、試しに下から振り上げても地面に擦るようなことはなかった。


 「ついにレベルが二桁になり、上位種に進化することができた。次の狩場に挑戦する幸先としてはとてもいいな!」


 それじゃ、お楽しみのスキル選択だな。俺はスキル一覧を表示し、羅列されているスキルを眺める。


 しかし、今回は選択するスキルが決まっている。俺は長剣を所持した時から選択すると決めていたスキルをスキルポイントを消費して獲得した。


 『【剣術】Lv.1を獲得しました』


【剣術】Lv.1

 長剣や短剣などで戦闘をする際、攻撃動作や防御動作に補正がかかるスキル。筋力値+10


 詳細説明は【棍棒術】の棍棒が長剣や短剣に変わっただけなので、すぐに理解できた。


 これで俺も正式に魔法剣士デビューだ。まぁ、まだ【体術】のレベルが高いので、魔法戦士寄りではあるが。


 「…しまった。上位種への進化やスキル選択に夢中になりすぎて、完全に真っ暗になってしまった。…今日はこの二匹で我慢するか…」


 俺は近くの木の根元に腰を降ろし、暗闇の中で二匹を喰らう。


 グチャ…グチャ…グチャ…。


 真っ暗闇の森の中に肉を咀嚼する音が響く。全く空腹が満たされない中で俺は眠りについた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 翌日、空腹で目が覚めた俺は森を駆け回っていた。


 「お! 反応を四つ捉えた!」


 【熱源感知】と【異臭感知】が反応を捉えた場所に向かって全力疾走する。すると、犬のような頭部をした魔物が何かを食べていた。


 俺が長剣を携え近づいていくと、犬のような頭部をした魔物は【異臭感知】で俺の存在に気付き、食事を止めて迎撃体勢に入る。


 真っ先に噛みつこうとしてきた奴を斬り殺す。身体の中央に斬線が浮かび、血飛沫を上げ、左右に分かれて倒れる。


 右側から大きく口を開け、鈍く輝く牙で噛みつこうとしてくる奴に向けて長剣を横薙ぎに振るう。


 頭部と胴体を両断されて倒れるのを見つめながら、背後に向かって回し蹴りを打ち込む。


 バキ!


 背後から奇襲しようとしてきた奴が頭部を粉砕されて、膝から地面に崩れ落ちる。そして、仲間が全員殺されて恐怖で後退る最後の一匹。


 一気に駆け出して、隙だらけの背中に向かって長剣を振り下ろし、斬り殺した。


 「よし! いただきます!」


 胴体に勢いよく齧り付き、肉を引きちぎって咀嚼する。途中で喉が渇いたので【水魔法】を詠唱する。


 「水よ、生成、飲水ウォーター


 頭上に俺の頭部と同じくらいの水球が形成される。形成された水球が落下してくるので、咄嗟に口を大きく開けて受け止めた。


 しかし、ほとんどの水は俺の顔面と地面を濡らして無駄になった。口の中に溜まった水を飲み込むと溜め息を吐いた。


 「はぁ…これなら、川の中に顔を突っ込んだほうが楽にたくさん飲めるな」


 戦闘の幅を広げる以外に川が近くに無くても水分補給ができるように【水魔法】を選択したのだが、残念な結果だった。


 意気消沈しつつ、食事を終えてステータス画面を表示する。現在の能力値や所持スキルを確認していると、追加された項目があった。


 「え!? 【職業】が追加されてるということは、魔物である俺も職業に就つけるのか!?」


 当初はステータス画面に【職業】が無かったし、人類種が日常生活や魔物と戦うために職業を選択するものだと思っていた。


 魔物である俺も人類種と同じように職業を選択できるのであれば、さらに強くなれるだろう。


 もしかしたら、転生者というのが大きな要因かもしれない。


 俺は興奮しながら職業一覧を表示し、選択可能な職業を確認する。


 「現時点では【剣士】と【魔法士】の二つだけだな」


 うーん…【剣士】を選択すると、筋力値、頑丈値、器用値が+20増加し、敏捷値、知力値、精神値、幸運値が+10増加。


 【魔法士】を選択すると、知力値、精神値、幸運値が+20増加し、筋力値、頑丈値、敏捷値、器用値が+10増加。


 俺の場合はユニークスキル【強欲】の能力で人類種や魔物の所持スキルを奪えるため、今後も伸びる能力値は増えてくるだろう。


 ここは俺の現在のステータスとアランから譲り受けた長剣を考慮し、長所を伸ばす方針で【剣士】を選択した。


 【剣士】の恩恵が能力値に反映されているのを確認した後、森を抜けて街道に戻った。


 行き交う人間がいないことを確認し、街道の真ん中を堂々と歩き始めた。




 

 


 


 


 


 


 


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