最弱×最強〜最弱のゴブリンと最強のスキル【強欲】〜
無名
第一章 魔物転生
第1話 飛び降り…視界を覆う光
住居のマンションの屋上…その段差の上に立つ。冷たい夜風に頬を撫でられながら眼下に広がる街並みを眺める。
立ち並ぶマンションやビル、病院、コンビニなどの明かりが星々のように夜空を照らす。
その綺麗な景色を見つめる俺の心は既にバラバラに砕け散っていた。
「…覚悟は決めてきただろ。今更何をビビっているんだ」
足を一歩踏み出せば、楽になれるというのに、確固たる意思を本能が揺さぶる。
状況的に俺がこれから何をしようとしているかは、簡単に予想がつくだろう。
そう…俺は屋上から飛び降り、自殺を図ろうとしている。
現代社会では珍しくもないだろう。
自殺を図ろうとする動機も、日々を生き抜くのに疲れ、死にたいという衝動が抑えられないからだ。
何故、そこまで追い詰められたのか? 誰か周りに相談できる人はいなかったのか? そう思われるかもしれない。
俺も自分自身がこのような状況になるとは思ってもみなかった。
ここで、俺の歩んできた人生を簡単に振り返ろうと思う。
小学生の頃は友達と遊び尽くした六年間だった。休み時間や放課後、夏休み、冬休みなど時間があれば遊んでいた記憶しかない。
外で野球やサッカーなどのスポーツをしたり、自分の家や友達の家に行き、カードゲームをしたり。
改めて思うが、どこにそんな体力があったんだと思う。
ただ、一番印象に残っているのは、同級生の女の子に告白されたことだ。
六年生の時に二人の女の子に音楽室で同時に告白された。正直、どのように返事をしたのかは分からないが、付き合うことはなかった。
その翌日、別の女の子に手紙で告白された。初めてのモテ期だったのかもしれない。
結局、その子とも付き合うことはなかったが、あの時の緊張と嬉しさは今でも忘れない。
中学生になると、別の小学校から入学してくる子達もいて、緊張したのを覚えている。
中学生の青春の一つといえば、部活動だろう。俺は身長が低く、ぽっちゃり体型だったので、ダイエットと女子にモテたいという不純な動機でバスケ部に入部した。
先輩達はとても面白く、優しい人達ばかりだったが、顧問は厳しく、一年生の頃はひたすら校内を走らされた。
何回もトイレに駆け込み、昼休みに給食で食べたものを吐いた。肉体的な疲労は凄まじかったが、仲間がいたので辞めようとは思わなかった。
一年生の二学期を過ぎる頃には、廊下練も苦ではなくなった。元々、小学四年生の頃から、喘息を治すために水泳少年団にも所属していたので、水泳とバスケの両立でダイエットと体力作りに成功した。
いやいや、本来の目的は女子にモテるためだろう?
結果からいうと、一年生の三学期にクラスメイトの女子から手紙で告白されて、付き合うことになった。
念願の彼女だぜ!
おいおい、部活動と恋愛が楽しいあまり、勉強が疎かになっていないか?
そう思われても仕方ないと思うが、付き合った彼女が頭が良く、テスト勉強を一緒にしていたので、成績は良かった。
三年生になり、高校の進学先を決める時期なり、進学先が違うという理由で彼女とは別れた。
高校は男子校に進学し、他中から来た奴とも仲良くなり、順調な学生生活が始まった。
部活動には所属しなかった。理由は帰ってアニメが見たかったからだ。
中学三年生の頃にアニメにどハマりし、それから学校がある日でも、夜遅くまでアニメを見ていた。
他の奴も漫画やアニメについて詳しく、休み時間や放課後はよく語り合ったものだ。
他にも、授業中に先生に隠れて早弁をしたら、漫画を読んだり、スマホをいじったりもした。
おいおい、それで成績は大丈夫なのか? って思われるかもしれないが、高校のテストは何日かに分けて行われるので、一夜漬けでカバーし、成績優良者ではあった。
あっという間に高校三年間が過ぎ、進学や就職を決める時期になった。
俺は進学希望だったが、親から就職を勧められ、地元の市役所に就職した。
公務員になれて、ラッキー! と思っていたが、意外と現実は厳しいと思った。
俺が配属された職場は現場監督や施設管理といった業務があったので、天気が悪い時や緊急時は夜間や土日に呼び出されることがあった。
一年目の時は先輩達が対応に当たってくれていたので、夜間や土日の対応はしたことがなかったが、二年目からは対応することになった。
大体、呼び出しがあった場合はすぐ帰れることもなく、最長で24時間働いたこともあったし、ゴールデンウィークが潰れたこともあった。
お陰様で天気が悪い日はあまり寝られなくなった。
社会人の皆さんは本当に凄いなと思いながら頑張っていたが、二年目から一人の職員がとても厳しくなった。
言動が厳しいものに変わり、退勤後に電話をかけてきて、プレッシャーを与えてくることもあった。
それを素直に受け止め、業務を早く覚え、効率的にできるように頑張った。
しかし、厳しい態度は変わらず、俺も次第に怖くなり、声をかけづらくなった。
出勤し、その人と顔を合わせるのだと思うと、胃がキリキリと痛み、冷や汗が出ることもあった。
その人と段取りを決めて仕事をしないといけないこともあったので、とても辛かった。
次第にプレッシャーに押しつぶされ、頑張りが空回りし始め、ミスが増えるようになった。そのせいで、他の職員からも叱責を受けるようになった。
俺とその人の人間関係が上手くいっていないことも周りの人達は気づいていたが、誰も…何も…してくれなかった。
誰かに相談できなかったのか? そう思われるかもしれないが、自分が悪いんだと責め続けていたので、他の職員や両親にも相談できなかった。
ある日、出勤し、いつものように仕事をしていると涙が溢れてきて、踏ん張りが効かなくなってしまった。
翌日、仕事を休ませてもらい、病院を受診した。先生に事情を詳細に話し、血液検査なども受け、結果を待った。
結果は血液検査は問題なかったが、双極性感情障害と強迫性障害を併発しており、先生から休職するように言われた。
職場に診断書を提出し、仕事を休職した。
休職期間中は不眠や食欲低下、希死念慮に悩まされ、数日入浴できなかったり、部屋から出ることもできなかった。
処方された薬を飲んでいたが、病状は安定せず、色々薬を変えながら日々を送っていた。
母親は静観し、父親は「そろそろ働け」と無神経な言葉を言ってくるだけ。
休職期間満了で退職し、貯金を切り崩す生活を送っていたが、我慢の限界がきてしまった。
そして、冒頭に至る。
「…もう十分頑張った。来世はほどほどに頑張ろう」
俺は一歩を踏み出した。
高速で落下しているはずなのに、視界の景色はゆっくりに感じる。
道路を走る自動車、歩道を行き交う人々。
皆、日々闘っている。俺と同じような状況でありながら、必死で生き抜いている人もいると思う。
でも、俺は無理だった。
…本当にごめんなさい。
誰かに謝罪しながら近づく地面を見ていると、いきなり視界が目を開けられないほどの光に埋め尽くされた。
(眩しい!一体何が!?)
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