引きこもりはかつての夢を見る

谷春 蓮

11年

 「よし、やろう」

 このとき、僕を突き動かしたのは純粋な焦りと、変化を求めていた心だった。


 かれこれ引きこもりを始めてからもう11年になる。11年、一般的に見てもかなりの年月だ。


 だが僕、牧上まきがみよもぎは25歳と活気に満ち溢れた高校生、大学生には劣るものの、世間的に見ればまだまだ若者の部類になると思う。


 この少子高齢化の時代なら尚更だ。まぁあと4年もすればもうおじさんに片足どころか腰までズブズブの年齢になるが、まだ若いうちに行動を起こせたのは良かったのかもしれない。


 それに11年間引きこもっていたものの、まだ若く、代謝がいいことが幸いしたのか体型は肥満ということはなく、むしろ痩せ気味であり、風呂こそ入っていないものの、夜中、両親が寝静まってからシャワーを浴びると言うことを最低でも1週間に1回、夏はもっとハイペースで続けていたので体臭もそれほど酷くない。

 

 僕はもう慣れたがシャツは全く変えていない、中学生のサイズなのでピチピチだし、臭いは強烈なものだろう。これはあくまで体臭ではない。そう思いたい。


 当たり前だが11年経って25歳と言うことは14歳から引きこもりと言うことであり、青春、と言ってもその土俵にすら立てていなかった時期を家で過ごした上、学歴も中卒と若さでは誤魔化せないマイナス面も目立つが、大卒でもそのまま引きこもりになって行動を起こさないよりかはましだろう。


 このとき自分に唐突な嫌悪感を覚える。




 あぁそうか




 そうなんだ



 あぁ嫌だ、また僕は人を下に見て安心した。大卒でも行動しないよりはましだと、そうやっ自分よりも下の存在を作り出し、安心することしか出来ない。

 だから僕は何もなし得なかった引きこもりなのだ。


 僕は愚かで馬鹿で傲慢なのだ。

 これから僕は変わらなければならない。


 あの頃には戻れないし、あの頃でしか出来ないこともあった。それを取り戻すことはもう出来ない。


 なぜここまで自分を放っておいたのかということもこれから自分を見つめ直す上で痛いほど分かると思う。


 そして自分の愚かさを後悔し、呆れ、自分自身に失望するだろう。


 だが逃げては駄目だ、ここで行動を起こさなければ未来の僕は決して自分を許せない。

  

 そして今の僕も過去、今、未来の僕を許せない。


 取り敢えず、僕は風呂場に向かった。体を洗い、服を着替えるためだ。

 服は部屋にあった中学の頃のジャージでいいだろう。まだ着れる。パンツは仕方ない、父親のを借りるわけにもいかないし、ノーパンだ。

 

 時刻は現在午前3時、すっかり昼夜逆転してしまっているが、これも直そう。


 そうやって浴室に入り、何年ぶりだろうか、鏡で自分をまじまじと見る。


 痩せ気味の貧相な体、手入れのされてない髭、肩まで伸び切った髪、5年前にバッサリと切ってからまったくだった。


 僕はこれからなんとかすることにした。洗面所にあったバリカンとカミソリを手に取ろうとしたとき、僕は脱衣所にまで持ってきていたスマホに目が移る。


 自分の現状を撮ってネットにアップデートしてするのはどうか?自分が変わる励みになるのではないか?軽い気持ちだった。


 この気持ちが一度芽生えてから行動に移すまでは11年間の引きこもりをしていたとは思えないほど一瞬だった。


 

 


 

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