迷子の男の子と遭遇する

 ほどなくして、俺たちは駅前のショッピングモールに着いた。しっかし俺たち、何しに来たんだろうな。俺と羽乃は舞花に連れられて来たわけだが、アイツも目的はなさそうだし。


 そんなところで、羽乃が口を開いた。


「……とりあえずはお昼ご飯をどこで食べるか決めましょう。お金は母様から預かっております!」

「確かにそうだな 。さすが羽乃! 天才!

 いや天使!」


 そんなことを言ってやると、羽乃は嬉しそうにふん、と胸を張った。こりゃ可愛すぎて宇宙人も卒倒するな……。


「あーもうっ! 羽乃は可愛いなぁ〜! お姉ちゃんがなでなでしちゃう!」

「えへへ〜」


 姉妹仲が良くて何よりだ。俺たち、出会ったばかりの頃からかなりの仲良しだったらしい。まぁ小さな子どもなんて単純だしそんなもんか。とりあえず、当時の両親は安堵したことだろう。



 フードコートに着いたので、店を確認していく。久しぶりに来たけど、結構変わってる気がするなぁ……。あ、うどん美味そう……。


 そんなことを考えていると、舞花が話しかけてきた。


「お兄ちゃん、私うどん食べたい〜」

「……偶然だな! 俺もそう思ってたところだぜ!」


 彼女は「おぉぉぉぉ!!!」と嬉しそうに声を上げた。


「さすが私とお兄ちゃんっ! これはもう赤い糸で結ばれてるとしか思えないね」

「はいはい……」


 そんな俺たちを、羽乃が生暖かい目で見ていた。マジでやめてそれ。


 ていうか舞花、そんな大声で俺のことお兄ちゃんって呼んで大丈夫なのかなぁ……同級生にでも聞かれてたらどうするんだろう。


 ちなみにコイツとは同じ学校だが、校内ではちゃんと姉を演じている。ただ、俺のことを名前にちなんで「ふーくん」なんて呼んでくるので、完全にブラコンシスコン同士の姉弟だと思われていることだろう。


 そういえば、羽乃はどうするんだろう。


「あ、わたしは食べられるものなら何でもいいのです。だからうどんにします」


 心を読まれてるかのようなピッタリのタイミングで言ってきた。ちょっと怖い。


 食べるものは決まったが、まだ昼ご飯を食べるのには早い。どっかで時間を潰さないと……。


「あ、それならお兄ちゃん。羽乃が本屋行きたいらしいから行こう〜!」

「楽しみです」


 ……どいつもこいつも、俺の心を読む天才かよ。


 まぁ本屋なら無難なところだろうか。羽乃、こう見えてもラノベ好きだからな。ギャップ萌えでまた死人が出るぞ……!


 というわけで、俺たちは本屋に向かった。ここから少し遠いけど、結構広かったような気がする。


 ふと、何かが目に入った。


 ……小さな男の子だ。エスカレーター付近でさまよっている。迷子……っぽいな。


 ちょっと話しかけてみようかと思い、2人に目をやってみると、どうやら同じことを考えていたらしい。


 3人で目を合わせたのち、その男の子の方へ向かった。……いきなり3人で話しかけられても怖いかなぁ……。とことん優しい態度でいこう。


 とりあえず、男の子のそばまでやってきた。


「…………?」

「……えっと、家族とはぐれちゃった?」


 まずは、一応長女の舞花が尋ねた。そう、これでもお姉さんなのである。


「うん。ひとりでかってに歩いてたらみんないなくなっちゃった」

「どこではぐれたか、とか分かるか?」


 黙っているのもアレなので、俺の方からも話してみる。怖がられないかなぁ。


「うーん……気づいたらいなかった……でも、ぜったいこの階だよ」

「なるほど。お兄ちゃんたちが探してみてもいいか?」

「えー……。ありがたいけど、ここにとどまってたほうがパパたちも探しやすくない?」


 なんか、妙に冷静で頭の回る子どもだな……。話していて結構面白い。


「むー……確かにそれはそうですけど……。とりあえず、親御さんの特徴とか教えてくれますか?」


 今度は羽乃が話しかけた。この中だと1番雰囲気がふわふわしているので適任かもしれない。


「えぇっとねー……、パパはオレンジ色のダサいシャツでー、ママはたぶん、グレーの長いスカー……あ、いた!」

「えっ、どこどこ?」

「あそこ! ねぇねもいる!」


 男の子が指さす先には、テントウムシがでかでかとプリントされたダサTを着た父親と、それとは対照的にオシャレな母親、それと小学生くらいの女の子がいた。みんな、ホッとしたような顔をしている。


「じゃあいってくるね。おねえちゃんとおにいちゃんとちっちゃいおねえちゃん、ありがとう!」


 そう言って、男の子は走っていった。両親たちがこちらに向かって深くお辞儀をしてきたので、3人で笑顔で返しておいた。


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