今でもあなたはワタシの光
狐
第1話
死んだと思っていた母親は、フリー素材だった。
何気なく見たフリー素材のサイトで拾った画像を印刷し、仏壇に飾られた遺影と重ねる。画角や光の反射、インクの滲みまで同じだ。画像投稿は6年前、俺は16歳。生まれた直後に死んだはずだから、釣り合わない。
遺影を素材として投稿したのか、何かの理由で母親の近影が使えなかったのか。どちらにせよ、親父に話を聴く必要がある。
帰宅した親父を問い詰める。外勤帰りの親父は禿げた頭を汗で輝かせながら、俺の話を黙って聞いていた。元から寡黙で、普段から会話はない。俺と背格好は同じはずなのに、丸めた背によって実年齢より老けて見える。
「知ってしまったか、
親父は息を吐きながら仏壇まで歩を進め、位牌を45度回転させる。轟音と共に仏壇が畳の下に沈み込み、地下室に続く階段が顕わになった。
「……着いてこい」
築36年の日本家屋には似合わない設備だった。階段を降りて地下室に向かえば、そこには生物を観察するための培養槽や薬品棚、電子機器が整理されて置かれている。まるで何かの研究室だ。
「なんだよ、ここ」
「光、お前に母親はいない。お前が産まれたのは、この研究室だ」
いつの間にか白衣を着ていた親父が、資料の紙束を片手に俺に語りかける。その声は、いつもの無愛想な中年のものではない。俺と同じくらいの若々しい声だ。
「俺がお前の父親であり、母親だ。単為生殖、ってわかるか?」
生物の授業で聞いたことだけはある。ミジンコやプラナリアといった生物が、他の個体を介さずに子孫を作るというものだ。だが、哺乳類——ましてや人間にそんな芸当ができるわけがない。困惑の表情を浮かべる俺に、若い声の親父は言葉を変えた。
「クローンだよ。お前は、6年前に私が生み出したんだ」
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