十日目・浜頓別~稚内
8月25日(木) 晴れ後曇り(走行 73.5km)
今日はハプニング続きだった。
先ず、後輪のパンクがあったこと。ここまでだいぶ長い距離を走ってきたので、朝、慣れていないくせにタイヤの点検なんかやったのが原因だろう。周りが何もない原野の中、僕は国道でただ一人パンクした自転車をとぼとぼと押し続け、すっかり途方にくれていた。そして、やっとの思いで民家を見つけた僕は、一か八かの思いでお頭を下げ、パンク修理のための空気入れと水を貸してもらえるようお願いした。
急な訪問でお願い事までして、さすがに怒られるかと思ったが、家の人は僕の願いを受け入れ、バケツ一杯の水と小さな空気入れを出してくれた。
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、好意に甘え、その場でパンク修理を行った。その際、住人の方に「さるふつ牛乳」のホットを頂いた。これが本当に美味しかった。
「今日はこれからどうするの?」
「本当は北端の宗谷岬に行きたいですが、到着は夜になりそうだから途中で宿を探して明日挑戦します」
「何言ってるの。ここまで来たんだから、今日中に北端を目指しなさい」
「……」
住人の方は力強い言葉で、今日中の北端到着を諦めかけていた僕の背中を強く後押ししてくださった。
直し終わって出発してすぐの所で、せっかくの修理箇所がふたたびパンク。しかたなく、近くの集落にあるガソリンスタンドできちんと修理してもらった。「自転車旅をしているのに、何でパンク修理道具を持ち歩いてないの?」と訝しがられたけど、最後までしっかり直してもらえた。
気を取り直して再度北端を目指すが、途中、バーベキューパーティをしていた道路沿いの民家の人に呼び止められた。
僕はその言葉につられ、その場で立ち止まると、民家で一番年長と思われるおじさんから「ほら、ちょっと食ってけ!」とツブ貝を渡された。焼きたての貝は美味しかったが、日没時間は刻一刻迫っており、僕の傍を続々と北へ向かうライダーやチャリダーが通り過ぎて行った。
「ここまで来たんだから、今日中に北端を目指しなさい」
その時突然、さっき水と空気入れを貸してくださった民家の人の言葉が頭をよぎった。
バーベキュー一家は機嫌よく酒やつまみを続々と僕に渡してきたが、僕は、ツブ貝を食べ終わた所で「すみません、もう遅い時間ですし、今日中に北端に行きたいんで」と言って、彼らの好意を丁重にお断りしようとした。
しかし、そんな僕の態度が彼らには冷たく感じ、シャクに触ったようだ。
若い奴が「おいコラ、人の好意を無駄にするのか? ふざけんなよ」と言って立ち上がり、怒り心頭の様子でくどくどと文句を言い始めた。僕は正直腹が立ったけれど、場を荒らすと余計面倒くさくなりそうだったので、彼らの小言を黙って聞き入れつつも、「とりあえず、行かないと日が暮れちゃうんで……」と言いながら何とかはぐらかそうとした。まあ、あちらさんはかなり酒が入ってたようなんで、いくら僕が理由を説明しても理解して頂けなかったようだが……。
四苦八苦しながら何とかバーベキュー一家を離れた後、僕は走るピッチを上げた。太陽は西の丘に徐々に沈み始めていた。周りの景色を楽しむ余裕は全くなかった。
いくつもの丘を越え、海沿いの道を経て、午後五時二十分、ついに最北端・宗谷岬に到着。上陸から、本当にハイペースだった。ここまで諦めず、よく頑張れたと思う。出発して十日目、上陸して八日目での到着である。
夕暮れ時ということもあり、岬には人も少なく、気兼ねすることも無くゆっくり見物できた。
今夜は岬から少し離れた所にある「あるめりあの里」という民宿に泊まった。
この旅の目的のうちの一つを達成し、僕はどこか緊張が解けたような気がした。
夜空を見上げると、星が無数に瞬いていた。宗谷海峡のはるか北方にはいくつか光が見えるが、あれはサハリンなのだろうか?
ともかく、ハプニング続きだった本日。かなり疲れているけれど、酒をたっぷり飲んで寝る事にしよう。
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