チート能力『育成者』で異世界ハーレムを築きたかった……

神楽ゆう

プロローグ

 快晴。

 どこまでも続く青い空を優雅に飛んでいく魔物の群れ。それをボーッと数秒ほど見て、俺は突然今の状況を理解した。


「これあれだ。異世界召喚ってやつだわ」


 VRMMORPG『レガリア』。

 今年度の覇権ファンタジーゲームにログインしていた俺――寺島明久てらじまあきひさは、睡魔に襲われて目覚めると、ゲームからログアウトできなくなっていたのだ。

 ログアウトできないことに気がついてから三時間。様々な方法でログアウトを試みたが、コンソールも出ないし、運営へのメッセージも送れなかった。

 

 最初はバグだと思ってた。

 そのうち運営から連絡がきて、現実に帰れるのだと泣き喚くこともなく冷静になって待ち続けていた。

 地面に絵を書いたり、自作の歌を口ずさんでみたりと色々と時間を潰していた。

 けれど、どんなに馬鹿でも三時間もログアウトできない状態でほっとかれることに疑問を抱かない奴はいない。

 そして、色々と試行錯誤ののちに俺が導き出した答えこそ『異世界召喚』であった。


 妄想乙?発想が単純?心の中の悪意ある言葉たちよ。馬鹿野郎と言わせてもらおう。

 ゲームの中からログアウトできないうえに、頬をつねると感じる痛み。焦りによる発汗。そして、草を食った時の口に広がる苦味はこの世界が現実であることの証拠以外のなんだと言うんだ!!

 え?草食ってんじゃねぇって?そんなの頭バグって泣き叫んでた時の俺に言ってくれよな!

 

「しかし、俺ほどのオタクになれば異世界召喚なんて展開で慌てふためいたりはしない」


  つい先ほどまで「帰して!お家返してぇ!!」と泣き叫び喚き散らしていた26歳児の発言である。流石に自分でもドン引きだが、人間は意外と脆いのだ。脆すぎて草を食う奇行に走ってもしょうがないよね⭐︎


 そもそも現代人が『ゲームしていて、一瞬寝落ちしたら異世界召喚されました』なんて現実を真正面から受け止められるかって話だ。大事なことを言うが、俺はどこにでもある日本の平凡な家庭に生まれ、特に大きな苦難もなく成長して、それなりの企業で働いていた一般人なのだ。


 だから、突然異世界召喚されましたと言われて、「よし、異世界生活楽しむぞ!」とか切り替えられるほどイカついメンタルしてない。

 そもそも異世界召喚を受け入れられるメンタルだってしてないのだ。今だって普通に油断すれば泣ける。


 それにそんな強メンタルしていたら、二六歳まで童貞じゃなかったはずだし、友達だっていっぱい作れたはずだ。あれ、おかしな涙が出てきた。

 

「……ま、まぁいいさ。それで俺を召喚したであろう女神様とか、ドジっ子魔法使いはどこ?」


 見渡す限りの大草原。

 どこを見てもただ広いだけの野原に一人ポツンと佇む俺である。


「つかここどこ?」


 流石の俺も知らない展開だった。

 こういう異世界召喚ものの王道では、女神が現れて「貴方は選ばれました」だのと言われて、チート能力を貰って俺TUEEEをして女の子たちに囲まれて幸せになったり。

 召喚魔法的なやつを使った落ちこぼれ魔女っ子が「アンタは私の召喚獣になるのよ」とか言って、バトルあり涙ありエロもありのアハハウフフな展開が待っているはずなのだが。

 全部えちえち関係じゃないかって?あはははは、こちとら童貞だぞ。異世界にきたのならえちえちハーレムを築きたいと思うのは当たり前だろうが。


「……」

 

 そんな訳で俺はもう一度周りを確認する。

 草。草。草。

 空。雲。風。草、草、クサァ!!

 見渡す限りの大自然が目の前に広がっているだけだった。


「………なるほど。つまりはサバイバルのほほん異世界ものってわけか!!クラフトとか農業系の能力をもらって、ここでのんびり異世界世界を送る的な展開が……」


 そんなことを言っている最中だった。

 ドンッ!という轟音が響いたと同時に、俺の全身を貫くように衝撃が襲う。

 具体的に言うと、雷のようなものが落ちてきた。

 

「あばばばばばばばばばばばッッ!?!?!」


 意識外からの一撃であった。

 快晴の中、突然雷が降ってくるなんて予想もしていなかった。

 雷に当たって意識を保てる現代人がいるはずもなく、俺は白目を剥き、全身を痙攣させ、泡を吹いた上に盛大に漏らしながら気を失った。


 薄れゆく意識の中で、


『ヤバい!?え、殺しちゃったかも知れない!?待って待って待って!!これはヤバいヤバすぎる!!』


 そんな慌てふためくような絶叫を聞いた気がした。



△▼△▼

         


 俺、生きてる。

 色々と大人の男性としての尊厳は完全に死んだけど、俺どういうわけか生きてた。


「貴方は死にました。わたしの手にかかって」


 訂正だ。どうやら俺は死んだみたいだ。

 だって目の前にとんでもなく美人な、明らかに女神みたいな人がいるんだもん。

 あとキラキラオーラが出てるし、神秘的な羽衣も身体に巻いてるし、この人は女神で確定です。

 というか待って。この美人さんなんつった?


「本来ならば神である私が世界に干渉してはいけないのだけれど。手が滑って、異世界召喚されたばかりの貴方を殺してしまったのよ」


「おい!何やってんだァッ!?」


「まぁまぁ、落ち着きましょうよ。いいですか、神でも失敗くらいするんです。こういうミスを繰り返して人は成長するとは思いませんか?」


「失敗のスケールが違うから。小さなミスみたいな雰囲気で言ってるけど、俺の命が尽きてるからね」


 いくら美人な女神だと言っても、やっていいこととダメなことがある。

 『満を辞して異世界召喚されたけど、女神の手が滑って殺された件』ってタイトルに変更したろか!?


「というかやっぱり異世界召喚されてたのか」


「お察しの通りです、流石現代のオタクですね。色々と説明する手間も省けて神側としては有難い話ですよ」


「職務は真っ当してくださいよ。何をナチュラルに説明省こうとしてるんですか」


「えぇ!?もう何千何万回もの神に説明受けてきたでしょ。もういいでしょ、そろそろ説明飛ばしてもなんとなくで察せられるでしょ」

 

 心底めんどくさそうな顔をしている。

 顔だけはいいが、それ以外が残念すぎる。

 俺がジッと半目で見つめると観念したのか女神様は口を開いた。

 

「しょうがないですね〜。貴方は異世界召喚された挙句、特に活躍することもなく野犬に食い殺される運命でした。けれど、私の介入で貴方の運命は狂ってしまいました」


「こわこわこわぁ!?」


 思ってた内容と違った。

 俺がちい◯わなら泣いてるところだ。


「え、あの後なにもなかったら俺は野犬に食い殺されてたの!?それもありえないだろうが!異世界召喚されたのに野犬に食い殺される主人公とか聞いたことないよぉ!」


「そんな運命にあった貴方が野犬に食い殺されるところを見てみたかった私はチャンネルを変えようと魔法を使用したのですが。手が滑って『神の鉄槌』を貴方に向けて放ちました。そして、貴方はあんな無惨な姿に……」


  ピッ!というか電子音と共に、目の前に半透明な画面が現れた。そこに映し出された映像には俺と思わしき男が、ビクンビクンと痙攣し、おしっこを漏らして絶命している映像だった。激グロである。


「ぷぷぷ……。痙攣して失禁とか笑えますね」


 女神の皮を被った悪魔が目の前にいた。

 つか、野犬に食い殺されるのを見てみたいって発想が恐ろしすぎるんだが。


「ひ、人の命をなんだと思ってやがる!!俺は、俺たちはおもちゃなんかじゃないんだぞ!!生きた、生きた人間なんだ!!」


 マザーAIとレジスタンス(某暴走チワワさん)の最終決戦での迷言だった。それを自分が言うことになるとは思いしませんでした、はい。


「はいはい落ち着いてください。そこは私も反省してますから、一回落ち着いてください」


「はい」


 頭を撫でられながら、目の前に揺れるたわわが俺の怒りを沈める。けど、あそこは盛り上がってしまった。

 エチチに男は勝てない定めなのだ。許せサ◯ケ、また今度だ。

 俺のサ◯ケ「お前に何がわかる!最初から童貞だったお前に!!」

 やめなさい!俺は女の子は好きだけど無理やりとかは嫌なんだよ!!純愛以外じゃ抜かないって決めてるんだ!あと人類みんな最初は童貞だからね。

 

「それで私にも流石に申し訳ない気持ちがあります。けど、また前と同じように初期リスポーン地点に復活させられて野犬に食べられるのは嫌でしょう?」


 この女神なに当たり前のこと聞いてるんだ。ここで食われてもいいから復活させてなんて言うか。可愛いからって俺がなんでも許すと思わないでよね。


「そこで貴方にはお詫びとして、貴方には再復活に加えて特典を差し上げたいと思います」


「ちゅきちゅき〜!女神さまだ〜いちゅき!」

(翻訳:失敗は誰にでもあるんだから許そうじゃないか)


 そうそう!そういうのでいいんだよ。

 これで俺の異世界召喚ライフ?ん、この場合は異世界転生ライフ?

 どっちでもいいか、とりあえずこれで俺の異世界ライフは勝ち確定だ。


「キモッ……。あ、いやそこまで喜んでもらえるとは私としても喜ばしいことです」


 キモッて言われた気がするが、そんなの些細なことだ。それよりも復活特典の方が気になる。


「それで復活特典ってなんぞや?」


「その前にです。貴方には私と契約してもらいます」


「アイエェエエエエッ!?」


 それはいわゆる「ボクと契約して魔法少女になってよ」ってやつか。

 この手の契約はろくなことがないことをオタクは知っているのだ。あまり俺を舐めるんじゃねぇよ。


「まず私に一度殺されたことは死ぬまで口にしないこと。次に復活と特典のことは誰にも話さないことを契約で誓ってください」


 なんだ、思ったよりも軽い内容だった。

 正直、異世界で魔王を倒してくださいみたいな話かと予想してたから拍子抜けだぜ。

 それくらいならと了承すると、目の前に巻物が現れた。中身にはズラリと文章が書いてあった。

 

「なっがぁ、ふっとぉ〜」


 大量の活字を前にして、俺の脳は早くもバグりそうになっていた。

 仕事モードの時ならまだいいが、完全におやすみゲームモードの脳では難解な文章を読むなど不可能だった。


「ボク、この長さのを読むのはちょっと……」


 そう言うと女神はゴミを見るかのような目をしていた。興奮するじゃないのッ!

 もっと見下しなさい!もっと罵倒すればいいじゃないのッ!!達する!達する!!


「……はぁ、契約内容について要約しますと」


 全てを諦めたかのように女神は、契約のことや巻物の内容を分かりやすく説明してくれた。

 まず『契約』は双方の同意によって結ばれる絶対に破れないものとのことだった。

 端的に言うと、破ったら死ぬらしい。


 次に契約内容は馬鹿にも分かるようにいうと以下の三つだ。

 一、契約者は女神に関するいかなる情報も他言しないこと。

 二、契約者は自身の出生についての情報を隠匿し、寿命を真っ当すること。

 三、女神の言うことには絶対服従すること。

 

 最後の三つ目おかしくない?

 絶対服従ってなに?こんなの契約してしまったら終わりですやん。一生搾取される側なの確定ですやん。


「この契約にサインしないのなら、貴方を問答無用で初期状態で復活させるわ」


 それは死の宣告だった。


「お前はなにを言ってるんだ。人の心とかないんか?」


 ありえないだろうが!女神を自称した奴が二者択一の問いで、どちらを選んでも地獄な選択肢を与えるんじゃないよ!

 選択肢①野犬に食い殺されるエンド

 選択肢②女神の下僕~異世界転生を添えて~

 選べるか!どっちもバッドエンドコース一直線だよ!


「10秒以内に決めなさい」


「鬼!悪魔!女神!」


 しかも時間制限つきである。

 こんなの、こんなの契約するしかないじゃない!こうして俺は泣く泣く女神との契約をすることになり、「復活と特典」を貰ってから異世界召喚初期地点にリポップさせられることとなった。


「あ、そうです。神と契約した人間の身体には十字架の聖痕が現れるような仕様なんですけど、どこか希望はありますか?」


「え、めっちゃダサいやん。イケメンとか選ばれし者に聖痕があったら、それなりにカッコいいけど」


「……じゃあ下腹部にしときますね」


 直後に下腹部が熱を帯びる。

 

「あつっっい!!!」


 俺は慌ててズボンを脱いで痛みを感じた場所を確認すると、十字架の聖痕が下腹部に浮かび上がっていた。


「おい!これ俺がもし女の子とえちえちする時にドン引きされるじゃねぇか!」


「来ませんよ、そんな時は未来永劫」


「来るかもしれないだろ!」


「ふっ、そうですね」


 鼻で笑われたんですけど。

 気のせいかもしれないんだけど、俺ってめちゃくちゃなめられてないか?


「なめになめきってますね。多分、今まで会った人間の中で一番なめてます」


「心の声を読むな!プライバシーは守ってください!」


 この女神めちゃくちゃである。

 これ以上逆らったら何をされるかわからないから話を進めることにした。


「もういいよ。これで契約も済んだし、色々と聞きたいんだけど」


 百歩譲って契約は受け入れよう。

 だって契約さえ守れば俺の異世界ライフは勝ち確定になるんだから。けれど、まだ色々と聞いておきたいことがある。


「まず俺が異世界召喚された理由は?」


 しかし、スッと女神は顔をそらした。


「それは守秘義務があるから言えません。転生してからのお楽しみということで………」


「おい!こっち見ろ!目を逸らすな!!」


 待て待て、焦って契約してしまった後に質問するとか馬鹿だった。

 これ俺やらかしたのではないだろうか。


「大丈夫ですって、貴方みたいな一般人が異世界にチート能力持って転生しても9割は簡単に死ぬんですから。なんで異世界召喚されたのかとか、どんな特典が貰えるのかなんてことは粗末なことですよ」


「わ、わあ……」


「あら泣いちゃいました」


 泣いてみたが泣き真似では女神の心は動かせなかった。むしろ早く行けやみたいな雰囲気すら感じる。


「さて、契約も特典の付与もしましたし、さっさと行ってくれますか?」


 もはや口に出して言ってきた。泣ける。

 女神が指パッチンをすると豪華な椅子が現れ、椅子に座って足を組んでいた。


 この野郎、元々はアンタが俺を殺したのが原因だろうが。

 クソ、コイツ………。いい足してんな。

 是非とも踏んでほしい。罵ってほし、はっ!?俺は何を。

 これが神による精神への干渉ってやつか。


「……異世界召喚された理由については教えることができませんが、特典についての説明なら転生後にあるので安心してください」


 地面に這いつくばって女神の脚をじっくり観察していると、天井から光が差し込んできた。直後、俺を囲むように魔法陣らしきものが現れた。


「まってぇ!?なんかガチで送ろうとしてますやん!?」


「神も暇じゃないんですって。後の予定が詰まってるんです。それに説明なら転生後にあるんで、さっさと行ってください」


 そして、俺はゴミを見るような目をした女神に見送られて異世界に転生した。

 


 ◇◇



 魔法陣が消え、厄介者が異世界へと転生させられて行くのを見届けては汗を拭った。


「ふぅ、あっぶなー!私ナイス判断!グッジョブ私!!」


 新米の神たちに頼まれてあるゲームを元に創った世界。そこに部下であり大事な娘が厳選に厳選を重ねて召喚した人間を殺してしまったとあっては、上司として、親として合わせる顔がなくなってしまうところだった。


「よし、配信が始まる前だったし。放送事故は起きてないわよね」


 現在天界において、神々による異世界召喚や転生が空前絶後の大ブームとなっている。

 元々は問題があった世界に善なる魂を送って問題解決をさせるという理由などで召喚や転生が行われていたが、今では選んだ魂の人生を配信し視聴することが天界の中での娯楽の一つになっていた。神も暇なのだ。


 そして、今回は抽選で選出された神が選んだ魂が異世界で送る生活を配信し、どの神が選んだ子が一番面白い人生を送るかを決定するという企画が始まる前の事故で参加者の一人を誤操作で殺してしまったのだった。


「事故で人間を殺したなんて絶対言えないですしね。バレたら怒られるから隠蔽に契約も交わしたし、偽装工作もしたからバレることはないよね!」


 色々と嘘をついて脅して契約したが、そこは目を瞑って無かったことにしよう。

 あと元々与えられるはずのなかった特典だったが、あの人間に力を与えたところで配信に影響はないはずだと創造神は決めつけて安堵する。だが、


「……一応、最後にあの人間の情報を確認しとこ。もしなんかやらさしてたら面倒くさいことになり……」


 与えた特典は【魔法を使える肉体】という単純なものだ。

 この程度の付与なら『元々彼には魔法の才能があった』とでも言っておけばいい。

 そのはずだったのだが、創造神はたった今転生させた人間の情報を見てから冷や汗が流れる。


「……ヤッバーい。与えた特典間違ってるじゃん。他の激ヤバな世界に転生する人間用の特典渡しちゃってるー!?」



《特典》

 ①職業育成者の解放

 ②創造神の加護

 ③固有スキルの付与(鑑定、イベントリ)

 ④パッシッブスキルの付与(言語理解、痛覚鈍化、適応)

 ⑤SP500(スキルポイント付与)



 そこに一人の女神が凄い形相で突入してきた。


「ママァッッッッ!!どこ行ったの!!出てきなさい!!!」


「あ………」


 創造神。全ての神の頂点に君臨する彼女は冷や汗を流し、一瞬色々と考える。

 部屋に突入してきたのは創造神の娘だった。現在は立派に聖人し、部下として輪廻転生の仕事を任せている。その娘が異世界救済のために召喚した人間を殺してしまったことがバレたのかもしれない。それはつまり「ここにいたら死ぬ」という事だ。

 創造神は「私しーらない」と呟くと全力でその場から逃げ出した。

 その直後、人知れず神々による配信に一人の男の映像が流れ始めたのだった。




△▼△▼




 再び目覚めるとレガリアで、最初に主人公が訪れる街の付近にいた。


「あれ、さっきと場所違くね?」


 先ほど召喚されていた場所とは違う風景に困惑していると、ピロンという電子音と共に頭に無機質な声が響いた。


【初期リスポーン地点を変更しました】


【魂の定着が完了しました。これより特典の使用が可能となります】


 それはゲーム時代にもあった『世界の声』というシステムで、レベルアップやスキル習得をプレイヤーに教えてくれる代物だ。

 課金するほどのめり込んだゲームなので、世界の声程度に驚きはしない。


【特典の説明を開始。その後、自動でインストールを開始します】


 なるほど、これで特典が使えるようになる訳か。

 現在の状況を自己完結していると、目の前に半透明な画面が表示される。

 この画面は『ステータス』と呼ばれるもので、自身の能力をまとめたボードだ。

 

 ---------------------------------------

【ステータス】

《名前:アキヒサ》

 【職業】:育成者Lv1(上限なし)(1000/0)


 【加護】創造神の加護:『効果:経験値+熟練度10倍、職業レベル上限解除、取得スキルの限定解除、全ての職業への恩恵、創造系スキルへの恩恵』


【スキル】

 SP500(スキルポイント)

 *リストよりポイントを消費して取得可能


(取得済み)

 ・固有スキル:鑑定、イベントリ

 ・パッシブスキル:適応、言語理解、痛覚鈍化、忍耐

 ・アクティブスキル:なし

 ---------------------------------------


【各項目の詳細説明】


 【職業:育成者】

 ・職業:自身のパーティー又は育成リスト登録者のステータスへの干渉が可能で、様々な未来へと導くことができる職業。(全ての才能を有する)

 ・育成:能力値の増減、職業、スキル、魔法の取得への干渉。一度確認したスキルや魔法を条件を満たせば取得させることが可能。

 ・解析:視認したあらゆる職業、スキル、魔法を解析する。解析できたものは自動で習得される。

 ・育成書作成:育成書に得た情報を羅列し、羅列した能力・魔法を使用可能とする。また育成リストに登録された者のステータスの一部を育成者を保持する者に反映する。

 ・最適化:羅列されたスキルを自動で統合し最適化する。

 ・継承:リストに登録された者の経験を継承することができる。リストに登録した者に恩恵を与える。

 

【創造神の加護】

 ・創造神により与えられた加護。与えられた者はあらゆる成長率が増加。新たな発明をしやすくなる。


【固有スキル】

 ・鑑定:あらゆるものを鑑定するスキル

 ・イベントリ:無限収納、収納物の瞬時取り出し、半径10メートルの所有アイテムを瞬時に収納する。ただし生物を収納することはできない。


【パッシブスキル】

 ・適応:あらゆる事象に適応することが可能となる。

 ・言語理解:異世界のあらゆる言語を理解し、発音から読み書きまで可能とする。

 ・痛覚鈍化:一定以上の痛みを遮断する。


【アクティブスキル】

 なし



 一旦、ステータスバーを閉じた。

 もう一度、確認するがどうやら俺の目がイかれているわけではなさそうだ。

 

「なるほど。つまり『神に気に入られた人間が大量のチートをもらって異世界で無双する』という展開らしい」


『違います。それは私の単純なミスです』


 世界の声ではない。この声は女神のものだ。

 

『貴方に与えた特典は別の異世界に転生する人間に与えられる予定だったものです。本来ならば神の鉄槌で貴方を再度抹殺して、特典を奪ってから再召喚するべきなのですが』


「この人、今抹殺って言った?言ったよね」


『貴方との契約②契約者は自身の出生についての情報を隠匿し、寿命を真っ当すること。に該当する為それは不可能になりました。最悪です』


 なんだこの自己中野郎。あとサラッと酷いこと言ったよな。

 俺が成人済みじゃなかったらショックで舌を噛み切って死ぬところだぞ。


『ですので、貴方には『勇者』の称号を与えることにしました。これで貴方は面倒ごとに巻き込まれることになるでしょう』


「は?え、勇者?勇者って魔王とかと戦う感じのアレ?」


『そうです。アレです。本来は選ばれし善の心を持つ者に与えるべき称号なのですが、貴方が早く死ねば称号は自動的に他の者に継承されるので問題ないと判断しました。良かったですね、これで貴方が主人公ですよ』


 判断しましたじゃないがー?

 え、俺はミスで殺された上に、更にチート能力と勇者の称号を与えられたってわけ?

 いや、そこだけ聞くと別に悪くないのか。


『勇者の称号を持つ者の身には多くの困難が訪れることになるでしょう。更に勇者は困っている人間を見かけたら全力で助けてしまうという特性を持っています。なので、頑張って人助けしましょう』


「強制されて行う善行に意味はあるんですか」


『あります。やらない善よりやる偽善という言葉があったでしょう』


 そういうのって『君が助けを求める顔してた』って言って、無意識に人助けする系主人公じゃないと無理じゃないだろうか。

 俺みたいな木偶の坊には荷が重すぎるんじゃないでしょうか。


『ごちゃごちゃとうるさいですね。けど、そんなに文句を言っても、貴方はもう人助け系主人公となりました。これから先、貴方は様々な問題に自ら首を突っ込んでいくことになります』


「ええ!?なに勝手なことしてんだ!!」

 

 無理無理。無理だから。

 俺にそこまでの正義感みたいなの求めてくるんじゃないよ。俺一般人だから、闘うみたいなのはノーサンキューなわけで。


『大丈夫です。貴方は激甘人間なので、私が命令しなくてもどの道人助けくらいはしてたでしょうから』


「えぇ、そんなわけなくない?俺は異世界ハーレムものみたいにエチエチができればなんでも……」


『ママッ!!隠れてないで出てきなさい!!』


 別の女性の声が頭に響く。

 ママ?と疑問に思っていると、女神様は慌てたように言葉を紡いだ。


『さぁ、行きなさい!勇者よ!!貴方の活躍を天界から見守っていますよ』


「え、おい!めんどくさくなるんじゃねぇよ!!」


 そう言うと女神からの通信は完全に途絶えた。完全に一人となってしまった。

 それと同時に遠くから野犬の遠吠えのような音が聞こえた。よし。

 

「…………ま、まずは街に向かうとするか」


 特典内容は気にはなるが、一旦安全だけ確保しよう。特に野犬には気を付けよう。こうして俺の異世界生活が幕を開けるのだった。


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