お隣さんと学校生活そしてバレる(3)
「……いつ気付いたんだ?」
カマをかけてきた海斗に、下手に誤魔化すのも違うかと思ったのですぐに聞き返して見ると。悪ガキのような笑みそのままに理由を話してくれる。
「月城さんが今日話しかけて来た時かなぁ」
「ついさっきか」
「そうだな。とは言っても、正確に言うとその時に確信に変わったって感じだけどな」
月城さんが話しかけてきた時に気づいたなら、夜空 るなの正体にも気づいているわけで。
でも……確信?
「なあ、確信ってどう言う……」
そのことに対して疑問に思いながら、海斗の方に顔を向けると目の前にデコピンの構えをした手が見えた。避ける間もなく、そのデコピンは繰り出される。
「あだっ?!」
おでこにクリティカルヒットをくらったので涙を浮かべ、痛みを感じるそこを押えながら恨めしそうに海斗を見つめると、カラカラと笑って悪びれる事もしない。コイツめ……
「まあ、ふざけんのもここまでにして……お前ら2人とも、今の雰囲気のままだとクラスの奴らにも即バレするぞぉ」
「デコピンは別の話だろお前ぇ……というか、バレるって何言ってんだよ……」
海斗にバレた理由に対して問いただそうと思ったけれど、クラスの人達にもバレるとか聞き捨てならないことを言われたので、そっちの方が気になってしまう。今の雰囲気とは一体どういうことだろうか。
「甘いんだよ……砂糖吐きそうなくらいに甘い」
「……何言ってんだよ」
まじで何を言ってるんだと言わんばかりのことを言われて、さっきと同じ言葉で聞き返す。砂糖吐きそうとか甘いとかなんの事やらか。
「お前ら、自覚ないだろうけどさ。さっきのやり取りとか、付き合いたてのカップルそのものだぞ」
「……は?……はぁぁぁ!?」
「いや……そこまで驚くことかよ……」
あまりにも予想外なことを言われたせいか、素っ頓狂な声を出してしまったがすぐに気づき、手で塞いで月城さん達の方を見てみると、相も変わらず楽しそうにしている星空に振り回されていてこの声がバレていないようで少しほっとした。
まあ、それはそれとして頬が赤くなることを自覚できるくらいに顔が暑くなっているのは別問題だが。
「い……一体何を言ってるんだよ」
「いや、さっきの『あーん』とか見てると、こいつらマジで付き合ってないの?とか誰でも思うだろ」
言われてみてから確かにと頷くしか出来なかった。お互いに『あーん』をしあうとかカップルじゃなければなんだというのだろうか。
「このやり取りをもし教室で披露しようものなら、関係を聞かれるのは確実だろ?それで俺みたいな感じで気づくやつが出るだろうな」
話が飛躍しすぎたろと否定しようにも、今まさにバレたばかりなのだ。俺と月城さんが教室でさっきみたいなことをしないとは言いきれない……そんなことを考えているとまた顔が熱を持つのがよくわかる。
「まあ……クラスの奴らは気づいても、温かく見守ってくれそうだけどな」
「……バレるぞと脅したと思えば、今度は楽観的だな」
「だってさ、俺たちって前提いるんだぞ?」
海斗が自分のことを指さした後に星空の方を向いて優しげな表情になる。
言われてみれば、こいつらも隠しているとか言いながら、クラスのヤツらの中ではほぼ公然の秘密みたいな扱いになっており、むしろその状況を楽しんでいる節がある。
「まあ、警戒しすぎるには越したことないだろ。VTuberの身バレなんてめんどくさい事しかないんだからな」
「それは確かに」
身バレとはちょっと違うけれど、夜空 るなの隣人が男だとバレたことで俺のチャンネルが芋ずる式に掘り出され、変なやつが湧いてきたりしたからな。
「とりあえず、それは分かった。甘い雰囲気がどうのはよく分からんが、気付かれないように気をつける……」
「おう、そうしとけ」
「……それはそうと、ひとつ聞きたいんだが」
「どうした?」
月城さんと俺がVTuberがどうのって言うのがバレないようにするのは分かった、でも、海斗にバレた理由をまだ聞いていないのだ。
さっき海斗は月城さんが俺達に話しかけてきた時点で確信をもてたといった。つまり、その前から怪しんではいたと言う事だ。
訝しむ用な視線を向けていると両手を上げたポーズを取る。
「まあ、隠すようなことでもないしな」
「その割には話を逸らそうとしやがって」
「すまんすまん。葵をからかうのが面白くてついな」
そんな理由でこいつはデコピンしてきたのか許さぬ。
「まあ、単純な話だよ。『男子高校生の料理チャンネル』さんよ」
そしてあまりにも予想外な名前が海斗の口から出てきたことで間抜けな表情を見せることになった。それは俺がこれまで使っていたチャンネルの名前だったのだ。
その表情を見た海斗はまたカラカラと笑って、俺の頭をくしゃっと撫でてから月城さんたちの方に向かって歩き始めた。丁度そのタイミングで昼休み終了のチャイムが鳴り、その音と混ざるような感じで片手を上げながら俺の方に声をかけてきた。
「この前の動画の料理を早速活用させて貰ったんだけど、そのコメント欄がいつもより賑わってたから少し調べたら色んな情報が出るわ出るわ。まあ、今度からは新しいチャンネルの方でも楽しませて貰うよ、雨宮 隣ちゃん」
からかうようなその声に不快なところはなく、あまりにもカラッとしたその態度に俺は苦笑を漏らすしか出来なかった。
俺のチャンネル視聴者2人目に出会うとか予想外すぎるだろ。
「海斗くん、ななみんと話できた〜?」
「おう、ちゃんと話してきたわ。というか、俺が葵と話したいってよくわかったな」
「うーん、何となく?」
「そうか……ありがとな恵」
「えへへ〜」
みんなで教室に戻る時に俺は月城さんと隣合って歩いていた後ろで、そんな会話がされていたけれど、月城さんと話すことに意識を割いていたのもあるけど、小声で話し合ってたから聞き取ることは出来なかった。
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