お隣さんと学校生活そしてバレる(1)
月城さんとの関係が色々と変わった三連休も終われば学校生活が再び始まるのは当然なわけで。
いつも通りに学校に向かい、学校生活を送ることとなる。
今朝、いつもと違うことが起きたことを昼に思い出してなんとなく鼻歌を歌っていると、そんな俺に対して声をかけてきた奴がいた。
「よっ、なんか機嫌良さそうだな葵」
机の前にかがみこみ、視線を合わせて来たのは俺の友人の
「そんなわかりやすいか?」
「ああ、めっちゃわかりやすい。七海ちゃん機嫌いいねぇって女子達がホンワカするくらい」
「俺の扱いはマスコットか」
「自分が可愛いという自覚を持つんだな」
「それくらいは持っているが?」
「……お前のそういう所面白いわ。うりうり」
「ちょっ離せ、てめっ」
この面白いヤツめとか言いながら、頭をワシワシとしてくる海斗に翻弄されていると、後ろの方から手が伸びてきて頭を抱き抱えられる。
「ななみん、今日のお弁当はどんなのか見せてくれたまえよぉ」
間延びしたその声の持ち主を見上げると、案の定というか、海斗と一緒にいつも絡んでくる星空 恵と言う女子生徒。遠慮することなく体重を預けて来るので密着度が上がるけど、何度もやられるのでもう慣れたものだ。
ちなみにバレたらめんどくさいとかで隠しているけど、このふたりは付き合っていたりする。クラスのヤツらにはバレているみたいだけど。
「出たな食いしん坊娘。お前にやるおかずは一つだけだ、自信作を持っていくんだな」
「そこでひとつはくれるし自信作をくれるところが、ななみんの良いところだねぇ」
「おっ、じゃあ俺にもひとつ」
「海斗にはパセリをやろう」
「ひでっ、平等を訴えるわ」
「海斗くん適当に扱われていておもしろーい」
2人にもみくちゃにされるという、いつものやり取りが始まったので周りがホンワカとした空気感になってくる。
なんだかんだと、俺たちのこのやり取りはこのクラスの名物になっているみたいだな。
「そういえばぁ、機嫌がいいと言えば月城さんもなんか嬉しそうだねぇ」
「ッ……そうか?」
突然月城さんの名前が出てきたことに体を少し揺らしてしまったけれど、それを星空に悟られた様子はなく、ほっとする。
「確かに……なんか朝から月城さんの周りにほわほわした空気漂っている気がしたわ」
そう言われて今日の彼女の様子を思い出すと、いつもよりか嬉しそうだったなと思い出したので、そのことに対してさらに胸の中が温かくなった気がした。
多分、俺と同じ理由なのかもしれないから。
「私がどうしましたか?」
「あっ、月城さん〜」
「おっ、話をすればって感じだな」
昨日までの3日間でさらに聞き慣れたその声がすぐそこから聞こえたので顔を上げると、月城さんが海斗の後ろから、可愛らしい袋に入ったお弁当をたずさえて現れた。
月城さんが俺たちに話しかけてきたことで、周りにいた他のクラスメイトたちが少しザワつく。学校であまり彼女から他人に話しかけることはないので当然っちゃ当然かも。
「それはねぇ月城さんがほんわかした空気感をしてたねぇって話してたんだよ〜」
「ほんわか?」
星空のゆっくりとした説明を受けて首を傾げる月城さん。その仕草ひとつ取っても可愛らしいと思う。彼女の仕草を見ていたら目が合う。
とりあえず目があったので笑い返しておくか。
そうしたら月城さんが頬を染めながらにっこりと微笑み返してくれた。ほんわかフィールドがさらに形成された瞬間である。
話の趣旨がなにやら逸れてきた気がするけど別にいっか。
「はいはい……2人の空間をいきなり作らないでくれ」
「おふたりさん、何やらいい雰囲気ですねぇ」
「……お前らに言われたくないな」
「いい雰囲気……」
からかうような2人の言葉に現実に戻されたので、とりあえずジト目をしながら反論を返しておく。月城さんは言われたことを反芻して何やら恥ずかしそうにしている。というか、海斗と星空も付き合っているの隠しているくせに度々いい雰囲気になる癖に、他人事のように言いやがって。
「んんッッ……そういえば、葵を昼食に誘いに来たんだが、良かったら月城さんも一緒に食べないか?」
俺の言葉に少し強引気味に話を逸らした海斗をジト目でさらに見つめてやろうと思ったけれど、月城さんを昼食に誘ったことで話が少し変わってくる。
俺と月城さんの持っているお弁当の中身はある意味、俺と彼女との関係を周りに伝えるものだからな。
どうしたものかと悩んでいると、月城さんが俺の事を見てからそれに対して返事を返した。
「錦田さんと星空さん、それと七海さんが良ければ喜んで、ご一緒させていただきます」
「……まじ?よし、んじゃあ俺たちがいつも使っているとっておきの場所に案内するよ。着いてきてくくれ」
孤高の姫なんて大層なあだ名で呼ばれている月城さんが、クラスメイトたちが見た事のない笑顔でそう返したので、固唾を飲んで見守っていた周りからザワッとした空気が伝わってきた。
誘った張本人も驚いているのはちょっと面白いな。
まあ、俺は彼女に見つめられながらそう言われたので頬に熱が籠ってそれどころじゃなかったけど。
月城さんを連れて、昼食のために移動する。
そこは普通なら解放されていない屋上で、開放感があって昼食を楽しく食べるにはうってつけの場所だ。
「まさか、屋上が使えるなんて」
「ふふん、先生からの覚えがいいとこんな裏技も使えるのさ」
秋も終わりごろ、季節も冬に移り変わり少し肌寒さも感じるようになってきた風に吹かれ、ふわりと広がった髪を抑えながらそういった月城さんに対して、鍵をクルクルとしながら海斗がドヤる。
「まあ、そろそろ外で食べるには寒くなってきたから、まさにとっておきって感じだけどな」
そんなことは置いておいてとりあえず昼食食べようか。海斗の言葉を聞いて弁当を広げる準備を始める。
「それじゃ、準備始めるからちょっと待っててくれ」
俺は手提げから取り出したシートを手早く広げて地面に引き、手を拭くためのウエットティッシュを月城さんたちに配る。
肌寒くなることも考えて持ってきた膝掛けは女性陣に渡しておくか。
あとは弁当を置いて、スープ用のカップを取り出して準備完了。
「本当、ななみんは手際いいねぇ」
「動き方がオカンって感じだわ」
「もっと褒めてくれたまえ」
昔、母さんに仕込んでもらった手際を褒めて貰って気分が良くなったのでふふんと胸を張ると、2人から頭をよしよしと撫でられる。
そんなやり取りを月城さんが微笑ましそうに見つめてくるもんだからまた恥ずかしくなってきたな。
俺は恥ずかしさを誤魔化すように、ごほんと咳払いしてから保温用のボトルを持ち上げて3人に声をかける。
「ほら、スープ配るから欲しい人は手を上げて」
「「「はい!」」」
海斗たちはいつもの事だけど、ここに月城さんも加わり元気な返事を返してくれてるのがどこか新鮮に感じた。
保温用のボトルに入ったスープを配り終えたので、後はお弁当を開いて昼食を始めるわけだけど、俺は困ることは特にないけど、月城さんは関係がバレてもいいのかなと思って目配せしてみると。
こくん……と小さく頷いたので、それならばと躊躇うことなくお弁当を披露した。
「おぉ〜今日もななみんのお弁当美味しそうだねぇ、月城さんのも……あり?」
「一緒……だな」
月城さんの今日のお弁当、というか彼女との関係が始まってからそれを作っているのはある意味当たり前というか、俺なので全く同じ内容となっていたのだ。
ある意味、1番俺たちの関係を如実に伝えているものだからな。
「2人に言ってなかったんだけど、俺と月城さんは実は……」
「付き合ってるのっ!?」
「いやぁ……めでたいな!」
「……お隣さんだよ」
すっかり祝福ムードになっている2人に本当のことを告げる。
というより、確かにこの流れって付き合っているって言うみたいな流れだなと言い終えてから改めてそう思い頬に熱を持ち始めてしまった。
「……七海さんには前から良くしてもらっているんです」
俺のセリフの後に月城さんが続いて言葉を発したけど、どこか不満そうにしているのを見ると勘違いしてしまいそうだ。
それから2人にはVTuberに関することは省いて事の経緯を説明した。
「ほへぇ……ななみんと月城さんってそんな関係だったんだねぇ」
「全くそんな雰囲気なかったらびっくりしたわ」
「私の個人的な都合で七海さんには不都合をかけてしまっていたので、申し訳なく思ってました……」
「別にいいよ、秘密の関係みたいでちょっと楽しかったしね」
驚いている2人に対して、月城さんはこっちを見つめながら申し訳なくしてきたので、冗談めかすような事を言う。湿っぽいのは苦手なんだ。
「それはそうと、俺たちに知られても良かったの?」
「おふたりなら、七海さんと特に仲がよろしいようですし。それに……もう無理に隠す必要もなくなってきたので」
「……?」
何やら意味深げな事を告げた月城さんに星空さんは首を傾げたけど。海斗は何故か何やら納得がいったと言わんばかりに頷いているのが謎だ。
まあ、意味をある程度理解して、彼女のどこか色気を感じるその微笑みを見てしまい体が固まってしまった俺には2人の反応を気にしている暇はなかったけど。
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外堀を積極に埋めてくるヒロインってイイよね
現時点での2人の好感度
七海 葵
一緒にご飯を食べてくれる家族みたいな人
(好感度はかなり高いけど自覚がない)
月城 はづき
どちゃくそ重い感情を抱えてる
(色々とボロボロな時期に無償の奉仕を捧げてくれたことへの感謝とお隣さんバレでみんなに受け入れて貰えたことによりタガが外れた)
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