隣に住んでいる美少女同級生は人気VTuber〜俺もVTuberデビューさせられ嫁認定された〜

旨みの化身

爆誕お隣さん系VTuber

お隣さんとの関係が変わった日

「これでよし」


 そんな言葉と共に俺こと、七海 葵は目の前で湯気を立てているおかずを見つめて、動画を撮るのを止める。

 これはお隣さんに渡す為のおかずで、通算して3日分ほどの食料にはなる。


 思えばお隣さんにご飯を作ってあげる関係になってかれこれ3ヶ月は経つ。始まりは雨の日にすっかり冷えた弁当を抱えて部屋の前でうずくまっているお隣さんを見つけた事からだった。

 ただのお隣ってだけならその日だけの関係であとは少し関わるかなくらいに落ち着くかも知れないが、お隣さんはお隣さんと言っても、そこにさらに高校での同級生で席が隣とまで来たもんだ。

 雨に濡れた子犬のような様相のお隣さんをさすがに放っておけなかった俺は、お隣さんを部屋に上げて甲斐甲斐しくご飯を出したりお世話をした。

 そして流れでお隣さんの壊滅的な食生活やゴミ屋敷になっている部屋を見てしまい今の関係に落ち着いた。


「丁度いい時間だし持っていくか」


 時計を見てみると午後6時を指していて夕飯時には丁度いい。

 手早くタッパーに詰め込んだおかずを袋にいれて、ラフな格好で部屋を出てお隣さんの部屋に向かう。

 俺がなんでこんな量のおかずを作ったかと言うと、なんでも今日からの連休を使って配信をするから部屋に篭もる為にお隣さんに頼み込まれて、材料費を全部受け持ってくれると少し多めのお金を預かり、それを快諾して大量のおかずを準備したのだ。


 お隣さんがどんな配信をしているのかは聞いてないし率先して聞こうとは思ってない。


 理由としてはこっちも同じような事をしているからだ。と言ってもあまり伸びは良くないけど……

 それと当たり前ではあるけど『知り合いに知られるのは恥ずかしいので……』らしい



 そんなことを考えているうちにお隣さんの部屋の前に到着。

 チャイムを押すと中の方から声が聞こえ、ほどなくして目を見張るような美少女が扉を開けて嬉しそうに飛び出してきた。


「待ってました、もうお腹と背中がくっつきそうですよ」


 シルクのように綺麗な長い黒髪と陶器のように滑らかな肌、そして水面に写った月のように綺麗な瞳。


 そんな静かな雰囲気とは対照的に、冗談めかしたように明るく声をかけてきたのがお隣さん兼、同じ高校の1年生にして同級生の月城 はづきさん。


 俺の作った料理などによる健康的な生活を送る事で素材から既に良かったのだが、改めて彼女の容姿を見てみるとさらに綺麗でメリハリのある体と月のような美しさとなっていた。


「結構な量あるから、部屋入ってもいいか?冷蔵庫に入れる分と冷凍したいのあるから」


 手提げに入れたおかずを持ち上げながら声をかけると直ぐに横にずれて月城さんは部屋の中に促してくれる。


「どうぞ中に入ってください」

「それじゃ失礼して」


 可愛らしい猫の置物が置かれた廊下を抜けて直ぐの所にかつては腐海の海に沈んでいた台所がある。そこに汚かった頃の面影はなくて、今は綺麗に片付いている。

 少し先のリビングの机には電源が着いたままのパソコン。画面には配信中であろう映像が映っていて横のコメント欄が凄い勢いで流れていた。その隣になにか立ち絵があったと思われる空白が空いていた。


「もしかして、なんか配信してる?タイミング間違えたか」

「確かに今配信してますけど、リスナーの皆さんにはお隣さんが来たことを伝えてミュートで待って貰ってるんです」


「なんか申し訳ないな」

「少しの間なら大丈夫ですよ。それに、リスナーの皆さんには私がどれだけお隣さんに助けて貰っているか度々語ってるので喜んで送り出してくれましたよ」

「リスナーの人達に語っているって……なんかそう考えるとちょっと恥ずかしいな」


 あまりにも堂々とそう語ってくれるので、俺はその言葉に照れてしまう。それでも冷蔵庫におかずを詰め込む作業はテキパキと続ける。

 ひとつ詰める度にどんなおかずが入っているか説明すると、月城さんの目がキラキラと輝くので料理したこちらとしても嬉しくなる。

 そして最後のひとつを詰め終わると、月城さんが頭を下げた。


「いつもありがとうございます。これで今日も私の健康的な生活は約束されました」

「そう言って貰えると、料理した甲斐があるってもんだよ。それに…」


 今しがたまで料理を詰めていた冷蔵庫を見上げる。1人で使うにはいささか大きくて、家族4人かそれ以上で使うような立派な冷蔵庫。

 さらに、視線を横にそらすとほかの立派な調理器具も見える。

 今の俺だととうてい手が出ないようなものばっかりが並んでいた。


「いろんな調理器具を触らせてもらえるんだ。その分のお礼もしないとな」

「ふふっ……そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたいです。とはいえ、この道具達は貴方が使ってくれなかったらただの宝の持ち腐れになっていました」


 彼女が言う通り、揃えてみたはいいけど使いどころがなくてホコリを被っていた道具たち。


 しかし、俺にとっては宝の山


 それとなによりと月城さんが小さくて可愛い拳を握りしめて力説する。


「わたしの食生活も潤うのです!」

「食欲に正直でよろしい」


 雑談も程々に冷蔵庫におかずを入れ終わったことだし、お暇させてもらうことにする。


「それじゃ、配信頑張れよ」

「はい、良い配信をできるように頑張りますね」


 玄関まで見送りに来てくれた月城さんに声をかけてから部屋を出て自分の部屋に戻る。


 さっきまで和気あいあいとした空気があったのに、いざひとりになると一抹の寂しさを感じる。


 やっぱりお隣さんとの会話を楽しみに自分の中で何となく思ってるんだなぁと理解して、少し苦笑がこぼれた。


「とりあえず今日の動画編集でもすっか」


 お隣さんも頑張ってる事だしな。





 それから30分ほどパソコンに向き合っていると、何やら隣の方から慌ただしい音が聞こえる。


「なんかあったのか?」


 部屋の壁が薄いわけでもないけど、久しぶりだなこの慌ただしい感じ。

 ちょっと前は部屋の荷物を崩してしまって、こっちに泣きついてくることが結構あったもんだ……


 しみじみと感慨にふけっていたら、来客を告げるベルが鳴った。

 宅配を頼んでた訳でもないので恐らくお隣さんだろう。そう当たりをつけて、モニターを覗いてみれば案の定。

 何やら、髪がボサボサとして慌ただしそうにしている月城さんがモニターの前に立っているではないか。


「どうした……」

『ごめんなさい!色々と緊急事態なんです!理由は後で話すので私の部屋に来て貰えませんか!』


 まくし立てるように月城さんがそう言ってきた。

 なにやらただ事ではないようだと思う。

 俺は携帯だけ持ち玄関へと向かう。


「お待たせ、何かあったの?」

「すみません……私も色々といっぱいいっぱいで……とりあえず部屋に来て貰えませんか?」

「それはいいけど……今配信中なんでしょ?」

「配信中なのは間違いないんですけど……えっと、それ関連と言うか……」


 なにやら歯切れの悪そうな月城さんに結構な緊急事態が起こってしまっていると悟ったので大人しくついて行くことに決めた。


「分かったよ。何が起きているのかも詳しい説明よろしくね?」


 そう伝えると月城さんが表情を明るくして頷いた。


「はい!」




 さっきも来た月城さんの部屋を訪れると、リビングの方へとまっすぐに通される。

 そこにはさっきもあったパソコンが置かれていて、画面にはこれまたものすごい速度のコメントが流れている。

 同接数も見ることが出来たので見てみるとその数なんと……


「30万っ!?」

「ふふふ……すごいでしょう?まあ、私自身もこんな同接数今回が初めてなんですけどね……」


 そういう彼女はどこか煤けたように見えた。


「それで、俺はどうしてここに呼ばれたんだ」


 ここに呼ばれた理由を聞いて見ると申し訳なさそうに話し始める。


「誠に申し訳ないのですが……先程七海さんが来た時に配信でミュートをし忘れたみたいで、声が入ってしまったようなのです……」

「マジか……」


 思わず手で顔を覆い、天を仰ぎ見てしまった。


 女性配信者の配信に男の声が入る、しかも何やら親しげな様子。


 これは炎上待ったナシだな。


 しかし、さっきの画面に映ったコメントを見て見た感じだと炎上しているような厳しめな言葉が流れてはいないようで


 ほぼ全てが


 :wktk

 :ワクワク

 :まだかな


 むしろこれから起こることを待ち遠しそうにしているようなのだ。一体何があったのか?


「これから配信のミュートを切るのですが、その時七海さんには私のことを『るな』と読んで欲しいのです」

「えっ!?今から配信をやるのか……しかも俺も」

「はい。正直……炎上しても仕方がない事態なのですが、七海さんと積み上げてきたこれまでがあったから大事にならなかった。という感じのようなので……」


 そう言って一区切りつけ、俺の顔を真っ直ぐ見つめて続く言葉を彼女が言った。


「だから、今は七海さんが必要なのです」


 これまで?必要???

 いよいよ何が起こっているのか分からなくなってきた。


「では……私からは七海さんのことは『お隣さん』と呼びますので、今から始めますよ」

「ちょっと待ってくれ、まだ心の準備が……」

「すみませんが問答無用です!」


 あまりにも男らしい返答が来たかと思えば、月城さんは躊躇することなくミュートを解除してしまった次の瞬間


「みなさま、お待たせ致しましたわ」


 隣の月城さんから普段聞くよりも更に優美な声が聞こえてきて思わずガン見する。

 声帯変えました?


 月城さんのあまりにもな変貌に戸惑っていると、それ以上のよく分からない展開がすぐに目に入ってしまう。


 :待ってました!

 :馴れ初めもう一度聞かせてくれ

 :お隣さーん、見てるー?

 :お隣さんの声を聞いた時から好きでした


「なにこれ???」


 :キャーッッッ!!!

 :中性的な声が耳に心地よい……

 :↑わかる

 :るなちゃんちょっとそこ変わって?


「何を言ってるのですか皆さん。お隣さんは私のお隣さんですよ?誰にも渡しません」


 :プロボーズktkr

 :いーや、違うね。お隣さんは今日から俺たちのお隣さんでもあるね。つまり嫁


 この騒動の中心にいるはずの俺を置いていって話を進めないで?


「えっと、待って。炎上しているの覚悟で来たんだけど、何が起こってるの?」

「あ……申し訳ございません。お隣さんを置いて盛り上がってしまうなんて、はしたなかったですよね」


 ちょいちょいと月城さんの肩をつつきながら尋ねてみれば、放置していたことに気づいたのか少し申し訳なさそうにした後に、姿勢を正して胸を張った彼女から飛び出す衝撃の事実。


「お隣さんは従者……リスナーの皆様からすでに受け入れられていたみたいなのです」


「……………え?」


 たっぷりと間を開いて出てきた声は素っ頓狂な声


 どうやら、俺のあずかり知らぬところで月城さんのリスナー達にいつの間にか受け入れられていたみたいです


 なんで?


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