怪異スナップ

一色まなる

第1話 龍王

 雨風が吹き荒ぶ、風上に立ち風を背にしていなければまともに目も開けられないほどだ。カメラを構えた手の隙間を生暖かい大粒の雨が滑り落ちていく。ただの通り雨だとしても、この雨量はただの自然現象と片付けられない。

 数時間前まで、この川の周りには溶けるほどの日差しがさしていた。暑いよりも痛い、そうつぶやいたのもつかの間、ポツリ、ポツリと雨が落ちてきたのだ。


 一つ、また一つ、確かめるように落ちていた雨は駆け足でその速さを増していき、あっという間に青空を飲み込んだ黒雲と変わった。その時、私は確信したのだ。


 ——— 絶対、”それ”は現れる。


 太古から生きてきた”それ”は人の力が増していき、不思議は理論に塗り固められ息をひそめた。皆がそれを”おとぎ話”と決めつけ、背をそらしていく。それを私は寂しく思えてならなかった。

 ならば、何かの形に。幻想だと決めつけられ、忘れられていくそれらを。ファインダー越しにのぞき込むのは古くからその名が記されている川。


 ふと、強い風が吹いて私の背を押し上げるように巻き上がっていった。それにつられ顔を上げると、白く輝くうろこが目に入った。

 白だけではなく、まるで螺鈿細工のように様々な色を映しながら、”それ”———龍王は川面から姿を現した。長いその姿は雨に逆らうかのように空に昇っていく。

 雨にも風にも逆らいながら柔らかな琥珀色のたてがみがなびいていく。細くなっていく尾の先は馬のように滑らかに翻る。

 大きく揺れた水面は龍王の胴体を飾るかのように開いて一瞬ではじけ飛んで、散り散りになっていく。それらもまたかすかな光を反射して真珠のように輝いた。

 空に向かって迷いなく、進みゆくその雄大な姿はまさしく雨と風を司る龍王にふさわしい。


 ——— 握りこんだカメラのシャッターを切った。

 

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