カフェバー「三国志」

水月 梨沙

~曹操・孫堅・劉備~

ここは『カフェバー「三国志」』。

幾つかのテーブルでは、お酒を飲みながら何人かの男性客が思い思いの事を吐き出している様です。


~曹操・孫堅・劉備~

孫堅「ズルい」

劉備「と、唐突ですな孫堅殿」

曹操「一体何が狡い、と?」

孫堅「三国志って、名前が有名な割には中身がちょっとアレでは?」

劉備「はい……?」

曹操「なるほど。確かに『三国志』という名称は有名になった。しかしながら世間的に三国志と呼ばれるものは、創作物である『三国志演義』の方だ」

劉備「演義では私の国である蜀の仲間達がメインで活躍しますから、有り難い話です」

曹操「とはいえ本来、三国志と言うならば史実の『正史』を指すべきだろう。なのに演義がメジャー化した結果、ストーリーを盛り上げる為の虚構までもが史実と見なされてしまっている」

劉備「でも淡々と一人一人に起きた事を読んでいくよりも、順序立てた物語の方が読みやすいですし……。そして物語ならば、やはり心踊るイベントが多い方が楽しいですからね」

曹操「それは分かる。俺とて魏が正統王朝とされた正史より、蜀が正統王朝とされた演義の方が皆の心を掴んだからこそ『今の人気』に繋がっていると思うしな。例えそれが人々の認知を歪める結果になっていたとしても」

劉備「その割にはサラッと嫌味が混じっている様な……」

曹操「気のせいだろう」

孫堅「ええい、違う違う!」

劉備「あ、違いましたか」

孫堅「オレが気にしているのはソコでは無い!」

曹操「では一体どこを気にしていると?」

孫堅「三国志って呼んでいても、実際に呉と魏と蜀の三つの国が出来上がるまでは長かっただろ? それなのにソコに至るまでの経緯が軽んじられまくっている!」

曹操「ふむ」

劉備「呂布殿の様な有名人でも、三国鼎立までにはお亡くなりになっていますからなぁ」

孫堅「オレだってそうだよ! ササッと死ぬからか呉って言ったら次男坊の孫権ばっかり!」

曹操「そんな事を言うなら俺の場合なんて大抵『魏の親玉ムーブ』が凄いが、魏の最初の皇帝は息子の曹丕な訳で……」

劉備「曹操殿が建国した、みたいに描かれているものって多いですよね。それも曹丕殿の影が薄いからでしょう、あの方も可哀想に」

曹操「曹丕は詩の才能も弟の方が優れていたりするしな」

孫堅「弟、そう孫権は孫策の弟だぞ!?」

劉備「兄弟と言えば孫策殿は周瑜殿……おっと」

曹操「なんだ劉備。言いたい事があれば気にせずに言えば良い」

劉備「いえ、あの、えっと……。孫策殿も勇猛な方であったのに若くしてお亡くなりになってしまったので、さぞ父親としては無念であったでしょうと……」

孫堅「そこじゃ無い」

曹操「違うそうだ」

劉備「では一体どういう事なのですか?」

孫堅「孫権は兄の孫策、ひいては父親であるオレの築いたものを引き継いだからこそ大成した訳だろ!?」

曹操「後ろ盾や地盤がゼロからでは、まぁ……かなり困難だろうな」

孫堅「それなのに三国志での国は呉と魏と蜀だからとかで、どいつもこいつも孫権孫権って!」

劉備「場合によっては孫堅殿が出て来ても、やたら老け……ごほん、ダンディに描かれたりしますよね。孫権殿の父親だからという感じで」

曹操「孫堅殿が亡くなったのが37歳の時だったか。まぁ、逆に息子達を幼くしてしまってはストーリーとして破綻する部分も増えてしまうから、仕方がないとも言えるが」

孫堅「仕方なく無い! 孫権の父だからってオレの方を『孫パパ』呼びされたりもするんだぞ!?」

劉備「駄目なのですか?」

孫堅「元祖ソンケンってオレの方なのに! なんで後から産まれた方をメインに呼ぶんだよぉ~!」

曹操「あぁ、そういう……」

劉備「音読みが同じというのも不幸でしたね……」


この後、劉備はコッソリと席を離れ。

曹操は孫堅の為に、お酒を何杯か奢ってあげたそうです。

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