第5話
「という事で、アレクディン君……と呼ばせて貰うが」
「はい、結構です」
「ワシが普段通りにするというなら、キミも同様にしてくれないと不公平じゃないかね?」
確かに。
部屋着でダラっとしている中、ピシッと正装している人が側にいたら居心地が悪い感じだろうな。
しかし聖騎士さんは首を振った。
「ここは領主様のお屋敷、私はそこへ住まわせていただく身です。こちらから貴方がたへの敬意ある態度を崩す訳には参りません」
「えぇ……」
正論なのかもしれないが、なんとなく私も気になる。
「あの、お父様。私からもよろしいでしょうか?」
「もちろん!」
同じ釜の飯を食う仲ならば、ざっくばらんにした方が早く仲良くなれる……と、思うし。
取り敢えず、ここは援護射撃だ。
「一方にだけ意見を通させるのは、騎士として良くないのではないですか?」
「いいえ、騎士だからこそ常に人の模範であらねば。お嬢様へも私は、最初から不遜な態度を取ってはいなかった筈です」
「それは……そうですが……」
思い起こしてみれば。聖騎士さんは最初からキリッとしていたというか、丁寧だったというか。確かに、お父様レベルの豹変は有り得ないだろう。
とはいえ、それって疲れないかな?
「戦場へ向かう兵士であろうと、自宅では鎧を脱ぐものです。そしてここは、これから貴方の住む屋敷になります。それならば聖騎士さんも、ホッと一息つける場所として屋敷では過ごすべきです」
「そうだそうだ!」
「それに確か、最初はご自分の事を『俺』って言ってましたよね?」
「そうなの?」
「少なくとも、一人称は今と普段とで変えている。こういうところから先ずは戻していきましょう」
「ワシの天使ちゃんの観察眼、ステキ〜!」
「常に気を張っていては有事の際に本領を発揮できなくなります。だから、可能な限り『住む家の中』では安らげる様にしないとなりません」
「ごもっとも!」
「という訳で、これからは私も言葉遣いとかはあまり気にせずに話します」
「あれ? ワシの天使ちゃんはいつも通りじゃなかったの?」
「ええい、いちいち合いの手がうるさいなぁお父さんは!」
「お、お父さん……!?」
「お父様って呼ぶより他人行儀な感じはしないでしょ」
本当は様付けするのが微妙に馬鹿馬鹿しく思えてきたからだけど。
しかし相手は、そんなこちらの思惑を知らず……
「それってワシの天使ちゃんが、ワシの事をもっと親しみを込めて呼びたいって事……?」
なんて予測をしてきた。
ある意味、強い。
「別にどう解釈しても良いよ」
「それなら『マイラブリーファーザー』とか」
「却下!」
「じゃあ、せめて『パピィ』とか……」
「……」
「ねぇ……親しさマシマシで呼ばれたいよワシ……」
うーん。
「……それじゃあ、百歩譲って『ダディ』って呼んであげます」
「やったー!」
くっ。つい子犬の様な目で懇願されて折れてしまった……!
というか話が逸れてるな!?
「アレク」
聖騎士さんが呟いた。
「え?」
「お嬢様が私の事をアレクと呼んでくださるのでしたら……。その。多少は、善処します」
「なるほど。『聖騎士さん』呼びは、それこそ他人行儀だと……」
「は、はい……」
言いながらも、目が泳いでいる。もしや恥ずかしいのかな?
それでも、一応は交換条件で自分を納得させる理由を捻り出したという事か。そう考えたら聖騎士さんなりの精一杯の譲歩だろう。
「うん、それじゃあこれからはアレクって呼ばせて貰うね」
正直、本名は長くて呼びにくいって思っていたし丁度良い。
「感謝します」
アレクは、そこでようやく姿勢を少し崩した。
良かった、取り敢えず緊張状態でい続ける事はやめたらしい。
聖騎士さんも大変なんだろうな……。そう思うと、せめて屋敷の中ではゆっくりして欲しいと思う私なのであった。
星使いの令嬢と守護聖騎士 水月 梨沙 @eaulune
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