第2話

気まずい。

この状態を初対面で、というのは……いや、慣れた相手であってもソワソワしてしまうだろう。

周りに誰もいない事が救いではあるが、おそらく私の顔は赤くなっているに違いない。

なにせこの『命の恩人さん』は顔が良い。そして物腰の柔らかさや言葉の端々から推察するに、性格も(きっと)良い。

いっそ、この流れで私を売り飛ばしてくれたら意外性があって面白い気がする。いや、別に破滅願望は無いけれど。


そんな事を思いながらチラ、と視線を上に向ける。

しまった、目が合った。

「あの、えっと……」

「はい」

つい無策にも口を開いてしまったが、もちろん話題がすぐに出て来る筈も無く。

「剣、使ってましたよね」

なんて、とても間抜けな事を口走ってしまった。

そんなの見ていたんだから分かるだろう、と呆れたのは自分だけなのか、それとも命の恩人さんは私と違ってポーカーフェイスも会得しているのか

「俺の相棒です。これでも聖騎士なので」

と、馬鹿にする事も無く返してくれる。

やはり性格も良いのか?


「騎士さんだったんですね」

「いえ、聖騎士です」

「……違うんですか?」

「騎士は国や人を守る者ですが、聖騎士は星の助けをするものですから」

「星を助ける?」

何だろう、ここに来て宇宙人とかの出る世界だったりするのだろうか。

「星使いの様に、俺は地星脈の流れを正したりは出来ませんが」

また新たな単語が出て来た。しかし今までの感じから察するに、ここでは『星』というものが大切な要素なのかもしれない。

「それでも、先程の様に星魔獣を倒す事は出来ます。あまねく満ちている星の力が澱み集い、形を持ってしまった為に苦しんでいるのですから……せめて早々に解放して、また星の循環に戻してやらないと」

「えっと……」

よし、頭の整理をしよう。

「この世界には、あちこちに星の力というものが存在していて……でも何かの拍子にさっきみたいに魔物になって、しかも襲ってきて……。それを聖騎士さんが倒すと、魔物は元の星の力に戻る……という感じですか?」

「その通りです」

なるほど、少し理解できた。


「でも、それだと星魔獣というのとは別に『普通のケモノ』も生息していたり……?」

「そちらは騎士が討伐するでしょう。もちろん俺も有事の際には助力しますが」

「つまり騎士にはお手上げの案件でも、聖騎士なら何とか出来るという訳ですか……」

騎士よりランクが上だから『聖』という言葉が付く、と。『星』かもしれないけど。


「教えてくれて有難うございます。実は私、どうも色々な記憶が抜けてしまっていて……」

「えっ!?」

無知を誤魔化す為に軽い気持ちでそう言うと、聖騎士さんは予想以上に驚いて目を見張った。

「そう……だったのですね……」

そして悲しそうというか、苦しそうな表情になり私を抱く腕にも力が入る。


まさかこんなに深刻な受け止め方をされるとは思ってもいなかった私は慌てて「でも別に平気ですから!」とフォローしてみたが……。

結局それから目的地に着くまで、聖騎士さんの表情が晴れる事は無かった。

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