第50話

「シギャァアアアアッ!!」


上空より飛竜ワイバーンの咆哮が走る。


父王の取り落とした棍棒を構え、父王と同じように見事な勝負勘にて渾身の力で以て棍棒を振り抜いたサイレスは、当然の帰結として飛竜により上空へと掻っ攫われ、キングと同じようにぽいっと投棄された。


意味深に進み出てきたが、所詮は奴もトロルであった。策を巡らす知恵を求めるくらいなら、砂漠でマンボウを探す方が幾分かましだと謂れのつく種族である。


「ああ、期待したウチが愚かだったかにゃ!? こいつら見捨ててとっとと逃げるべきかにゃ」


3体も居たトロルが、順繰りに撃破されているのだ。次は我が身かと怯懦が顔を覗かせるのは不自然でも何でもない。


勿論これで逃げるようなら分け前も御破算なので、早合点してくれても良いのであるが、新米ながらも冒険者。最低限結果を見届けるくらいの根性は残っていたようである。


まぁ、流石に私までも二の轍を踏む訳にもいかない。


キングとサイレスの取り落とした棍棒を拾い、私もまた高々と掲げたのちに構えてみせる。


大空を駆る生き物らしく視覚の優れた飛竜ワイバーンは、すぐさまにそれを認めると急降下の準備に入りだした。


首尾よく2体を仕留めたのだ。この愚かな生き物めとでも思っているのかもしれない。


高々度を取り、大地が物引く力を最大限に利用しての逆落とし。


迅雷の如くと称されるに、まったく瑕疵の一つもない見事な滑空撃であった。


改めて思うのが、誰かは判らないがこれの相手をただの学徒に任せる学園の教授は、鬼畜生の類ではなかろうか。


「も、もうダメにゃ!? 先のトロルと同じように潰れたトマトみたいにぐしゃぐしゃになっちゃうにゃ!?」


フィフィの悲鳴が響くが、彼女はあまりトロルの事を知らないらしい。


あれくらいの高さから落とされたとして、下が岩場であっても痛いで済むのが我が一族である。


切ったり刺したり焼いたりは普通に堪えるのだが。


さて、飛竜ワイバーンの攻撃であるが、奴は降下で速度を稼いだのちに地上すれすれで滑空し、標的を掻っ攫う。


いかに竜の一種であるとはいえ、地面に潜って飛行できるわけでもないから当然である。


すなわち、ほんの一瞬とはいえ手の届くところまで降りて来るのだ。


先鋒の二人は、その一瞬を捉えて打ち据えようとしたがそこは相手が一枚上手だった。


戦士としての力量に劣る私であれば、構えてみせたところでそもそもタイミングを合わせる事すらできないだろう。


だが、同じように構えれば。相手も同じ手段を取る。ならばそこに罠を差し挟むのはそれほど難しい事ではない。


「『汝が頭蓋で強打せよストーンタスター。誇り高き石頭』」


大地の精霊に呼びかけ、私の浮かべた無数の岩礫の弾幕に飛竜ワイバーンは正面から突っ込んでいく。


相対速度。たとえ隼などではない普通の鳥などであったとしても、航空機や新幹線など速度の出るものにぶつかればどうなるのか。


悲鳴は上がらなかった。効果音にするなら、ボンッ!である。


爆散でないだけましであろう。そこはやはり航空機ではなく生物か。12ゲージの散弾を喰らった小鳥よりも哀れな有様だけれども。


「ひえっ。こ、古代の即死魔法かにゃ……!?」


実は意外と魔法については世間一般に知られていないと聞いた。


魔法使いの数自体そこまで多くないのもあるし、地域によっては迫害されたり、それによって隠遁したりする。


おとぎ話や詩人の過剰演出によって規模が上下したりもするし、個人差もある。


この猫獣人の娘が割と物知らずである可能性も十分にあるが。


「ただの精霊魔法だよ。さ、父さんたちを回収して戦利品にありつこうか?」


多少一方的ながらも、命を懸けたやりとりだ。


今ひと時勝利の余韻に浸っても罰は当たらないだろうと、私は笑みを浮かべた。

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