第48話

学園に所属する魔法使いに求められるのは、研鑽と実務。この二つである。


前者は教諭の行う講義や、各個人での研究開発。後者は学園に寄越される依頼の遂行である。以前聞きかじった通りである。


そして、ヴェス先輩から教えてもらったのだが、この学園は単位制を採用しているらしい。


講義に対しては筆記試験。研究開発ならその発表。依頼においては達成証書を提出することによって単位が認められる。


一定数が溜まれば、位階が上がり昇級できるという仕組みのようだ。


なお、講義だけでも1年もあれば原石級ストーンから卑金属級アイアンに。


すなわち、見習い魔法使いから新米魔法使い程度には昇級できるらしい。なお、最上位は賢者の石級イクシールだ。


この位階の呼び方は学校ごとに特色があり、色で分けていたり単に数字で表したり。遠方の学園においては、討伐できる魔物の強さで表すところもあるらしい。


なんでもトロル級もあるそうだ。失礼な話である。


さておいて、そういった制度システムであるのなら、私たちが取るのは依頼達成一択である。


試験を受けて、トロルが論外トロール以外の成績を取れるはずがないのだ。


かくして、本校舎にある学生課の依頼掲示板の前に来てみたのであるが。


「微妙なのばっかりかな。これなんてカフェのウェイトレスさん募集とあるけれど」


わざわざ魔術師ギルドに出す依頼なのだろうか。


制服は貸与するとも書いてあるし、募集人員は3名である。物は試しと請けてみてもいいが残念ながら男性は不可のようであった。またの機会だね。


私たちの目的である迷宮での活動支援や、比較的熟すのが容易であろう魔物討伐の依頼などもあるが、こちらは最低でも卑金属級アイアン準貴金属級ブロンズに指定されている。


危険であるからと、理屈は納得できるのだけれど。


「あ、こっちは等級制限ないね。教授陣からの依頼か」


資料整理や、実験の助手を求める依頼に紛れて被検体を募集する張紙も紛れている。


頭が良くなる薬らしいので今度キングを送り込んでみよう。


他には魔物素材を求める依頼がちらほらある。


「ファングウルフにワイルドボアー、ヴァノムパイソンにマンドレイクかぁ」


一部は実家の森で常食していたお肉たちである。貰える単位は思ったよりは多いがそこそこといった所。


ある程度街から離れた森などに狩りに行かねばならない為、数をこなすことを考えれば少々面倒である。


そんな中、ちょっと変わった魔物の素材集めの依頼があった。


「飛竜の卵採取依頼。貰える単位は、一般講義の半年分ね」


中々に破格だ。険しい山に巣を作るという飛竜ワイバーンの目を掻い潜りながら採取することを考えれば妥当なのだろうが、私はそこまで手間をかけるつもりもない。


キングであれば、正面からねじ伏せられる。


最悪入試で見せた水鉄砲で撃ち落として貰ってもいいだろう。あまり絵面は宜しくないが。


私は依頼書を剥がし、学生課へと足を運んだ。


手続きをしてくれた事務員さんは大変可愛らしい人だったのだけれど、二言目には「食べないでください」と言うのはどうかと思うのだ。




竜の中でも、飛竜ワイバーンは比較的よく知られた種である。


繁殖力は竜の一種であるからしてお察しであるし、群れる習性も無いので大抵は一羽限りだ。


けれど、その行動範囲。縄張りは非常に広大である。


意外と臆病な気質であるらしく、人の大勢住まう街や村などには近づかないが、蒼天に夕焼けにと飛竜の飛翔する姿を遠目で見たことのあるものは多い。


悠々と空を舞うその姿に、背に乗ることを夢見た少年もまた多いのではないだろうか。


そんな飛竜ワイバーンなのだが、なぜか卵を産んで子育てをするときだけは人里の近くに巣を作るのだ。


研究者は、外敵避けのために比較的害意の少ない人を利用しているのではないかと考えている。


前世のツバメの習性に近いかもしれない。


「グォオオオオオッ!!」


「キシャァアアアアッ!!」


二頭の獣が死闘を演じている。


いかに飛竜ワイバーンが臆病な気質であろうと、子育て中の親に近づけば激高もされようし、襲い掛かっても来るものだ。


当然、もう片方はキングである。筋骨にちからをみなぎらせ、飛竜を引き摺り落とさんと挑む。


父や他のトロル達の実力は知っている為、あっさり仕留めるかと思っていたが、意外といい勝負になっている。


どうやら、飛竜ワイバーンは飛べるというアドバンテージを生かして一撃離脱戦法ヒット&アウェイに徹しているようだ。


体格にも勝るため、その尻尾を使い幾度もキングを跳ね飛ばしている。


ピンボールのように転がされる父であるが、我が父はそれくらいでへこたれる様なやわな身体はしていない。


掴んでしまえば、それで終わりだ。


双方それが分かっているのか、先に心折れた方が負けだとばかりに戦意を漲らせ咆哮を上げる。


そんな真剣勝負に、付き合う気もない私はとっとと精霊に助力を頼んで魔法を行使させた。


『風の乙女よ、息を潜めて呼吸を止めて。ほんの瞬きの間だけ』


霊よその働きを留め給フリーズエアリーえ。


飛竜ワイバーンはその巨体を浮かせるために、本能的に風の魔法を行使している。


その干渉を、一時だけ遮ったのだ。結果、風をつかみ損ねた飛竜ワイバーンは失速する。


隙を晒した敵の尾を、父王キングは微塵の遠慮も容赦もなく掴み取る。


騎士道精神など、トロルにはない。我らの掟は戦いにおいては食うか食われるかなのだ。


「グ、オ、オオオオオオォッッ!!!」


尻尾を握りしめ。キングが回る、回る。


遠心力を力に変えて、哀れな飛竜ワイバーンは渦潮に揉まれる若芽の如く伸されていく。


完全に目を回した獲物を、父はとどめとばかりに投げ上げる。


追撃は必要ない。高所より気を失った状態で落着すれば、大体の生き物はその命を潰えさせるのだ。


落着し、首の折れた飛竜ワイバーンを私はいそいそと魔法鞄マジックバッグに納める。


レーレの手によって改良の加えられたこの鞄は、容量拡張・重量低減・時間停滞の優れもの。


かの暗黒邪竜クリシュヴァインには及ばないだろうが、こいつも竜肉。


ヴェス先輩にいい手土産となるだろう。食糧庫の足しにして欲しい。


「さて、危ない所だったね。学園の生徒?」


元よりこそこそ姿を隠して採取する心算もなかったが。こうして正面から飛竜にぶつかったのにも理由があった。


獣人の少女が追い立てられて、必死に逃げていたのだ。


飛竜に追い払われる外敵としてではなく、生餌として見られていれば命はなかっただろうから幸運だろう。


へたり込んだ彼女に優しく。今後の展開も考えて、至極丁寧に十重二十重に気を使って話しかけてみる。


「ひぃっ、トロルにゃ!?」


やはりこの反応になるのか。世の無常さに私は空を見上げるのだった。

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