第47話

私たちは特別棟の談話室ラウンジでお茶を頂いていた。


慣れた手つきで茶器を操り提供サーヴして居るのは件の不審者。


「どぉぞぉ。お口に合えば喜ばしいのですがねぇ」


銀の匙で攪拌される砂糖が怪しげな毒物に見えて仕方がない。


けれど、先入観を抜きにすればこの人物は至極まっとうな持て成しをしてくれているに過ぎない。


この名状しがたい違和感は、ここが魔法学園であることを考えると自ずと答えが出る。


「どうも。――先輩ですか? 中々に厄介な対価を支払っておいでのようで」


巾覆フードの人物は、意外そうに手を留めて此方を見やる。


改めて目線が合えば、透き通るような凍蒼アイスブルーの虹彩は確かな理性を感じさせるものだった。


「えぇ、えぇ。初見で見抜く方は早々居られませんよぉ? クケケ…」


機嫌良さそうに自らが淹れた紅茶にて唇を潤す先輩。繊細なカップを潰さぬよう、私も多少苦労して紅茶に口をつける。


「いい香りですね。しかし私が言うのもなんですが、良く歓迎しようなどと思えましたね?」


父とサイレスには端から無理だと思ったので樽杯タンカードを用意してもらった。二人とも喉を鳴らして煽っているが、茶の喫し方としては無粋もいい所だろう。


「ワタシ自身がですからねぇ。できるだけ偏見は持たないよう心掛けているんですよぉ」


察するに、対価は『誤解を受け、誤解を与える』といった所だろうか。


怪しげな風貌に反して中々に心根の出来た人物であるようだ。


「申し遅れましたねぇ。ワタシ、ヴェリタス・フィン・リッケルト。伯爵位も拝命しておりますが、お三方には蛇足でしょうねぇ。えぇ」


下手に表に出ると即座に謀反を疑われますので、有名無実ですがねと付け加える。


「長いようでしたら。ヴェス、とでもお呼びくださいねぇ。この、特別棟の寮監も務めておりますから。何かありましたらお気軽にお声かけ下さいよぉ」


「ありがとうございます。ヴェス先輩、早速ですがひとつ」


ここの責任者と言うなら、話は早い。


聞く限りによると、寮費は無料だ。掛かる費用は魔術師ギルドが請け負う仕事によって賄われている。


街中の雑用から、強大な魔物への対処まで。魔法使いであることを当て込まれた依頼は、尽きる事がない。


学生の間は、腕を磨く期間であるとして仕事を振られることは少ないが。年次が上がっていくにつれ、貢献を求められるようになる。


しかし、私が確認しておきたいのは今後の事ではない。もっと差し迫った、いうなれば喫緊の課題だ。


「食事は何人前くらい出ますかね?」


「………10人前で足りるかい?」


どうだろう。今日は二人とも頑張ってくれていたので、倍くらいは行くだろうか。


私も食べるので、食糧庫に並ぶ材料の命運は今宵限りであるかもしれない。


ヴェス先輩には追加発注をしかとお願いしておいた。

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