ザァカイのような人

天川裕司

ザァカイのような人

タイトル:ザァカイのような人


あるところに、とても背の小さな男がいた。

でもすることは大胆で大きく、たくさんの事業を手がけ、

お金はうなるほどたくさん持っていた。

でもそんな彼の周りでは争いが絶えなかったのである。


生存競争をかけた経済的な争い。

人間関係での争い事。

男女関係での争いのこと。

そして何より彼の住んでいた

地域のすぐ近くで戦争が始まってしまい、

文字通りにその争いが絶えなくなってしまったのである。


そしてその戦争に巻き込まれ、彼の両親がまず他界してしまった。


「父さん!母さん!!」

彼は大泣きに泣いた。彼はまだ独身で、

年老いた父親と母親の面倒を最後まで自分が見ようと

結婚してもできなくても、

両親のそばにずっといようと思っていたのである。

それがそんな形でできなくなった。

まずここで挫折を覚える。

一生かけても拭い切れない悲しみの深い底を覚える。


そして彼の親友がほぼ同時にその時、彼のもとを離れた。

その親友も彼と同じ経済仲間で、

彼に影響されてその世界に入ったクチである上、

共存共栄を彼と一緒に図っていこうと

約束したその矢先でのこと。


彼がそうして落ち込んだので

その経済界では彼の影響力が少し弱まり、

「こいつについてはやはり未来は無いのか?」

とその時の自分にとっての利益をさんざん考えた末、

その親友だったはずの人は彼のもとを離れたのだ。

このことも彼にはうっすらわかっていた。

だからもう彼はその友を追おうとはしなかった。


とにかく彼は落ち着こうと思った。

いろんなことが一気に起きたので、落ち着きたかった。

でも争いはまだ彼の周りに続いており、

彼の周りが彼をそうさせない。許さない。


そして彼はついにその経済界から足を洗おうと決める。

そんな時のこと。

彼の目の前で困っている人が1人いた。

その日、食べるものがなく、心から安心して眠れる場所がなく、

着る物にも困ってるようなそんな人。


いわゆる周りの人たちからは

路上生活をしていると見られる人で、

その横を誰もに素通りされる人だった。

以前なら彼も同じくその人の横を、

ただ眺めながら素通りしていただろう。


でも彼はその人に目を留めた。

今の自分に少し似ていると思ったから?


彼にもまだよくわからなかったが、

親友にそうして立ち去られ、

それまで仲間だと思っていた人に裏切られ離れられ、

両親が先に他界し、

まったく独りになったような自分を見ると

その人の事がどうでも他人事に思えなかったのである。


いっときの感情でも良い。

ずっとは続かない正義感でも良い。

何でも良いからその人を助けようと思った。

彼は独身だったので、経済界を去り、

経済活動を辞めた今でも、

その貯金は他の人に比べて遥かに多かった。

だからその人の前に行き、何日か、あるいは何ヶ月か、

食べて住める分だけのお金を渡した。そして物を渡した。

分け与えられたその人は心の底から彼に感謝し、

「ありがとう、ありがとう」

を何度も言い、その後の人生を送ったようだ。

それからその後のその人の人生を、彼は見ていない。


戦争がようやく終わった。

でも周りの権力者が働く場所を全部占領していた。

だから彼が働ける場所はもう無かった。

以前に強欲と強権で咲き誇っていた彼のことを

恨んでる人がまだ界隈に多くいたので、

権力者たちはもう彼に再浮上できるきっかけを与えなかった。


引っ越しも当然考えてはみたが、収入が無い今

少しでも金を使うのは不安と億劫が先に立ったので

彼はもう少しの間そこに居ることにし、

今後のことをちゃんと考えようとしていた。


その時に今一度出会ったのは聖書の世界。

彼はたった1人でその聖書の世界に入って行った。

それから少ししてすぐ、彼は不思議な体験をする。


彼が住んでたその地域に、イエス様のような人が現れたと言う。

夢の中の事だったかもしれない。

そして彼は夢でも何でも良いと思い、

その人の姿をひと目見ようと家を出て、

群衆が集まる所へ行った。


でも彼は背が低かったので、

群衆に囲まれたその垣根を越える事ができず、

イエス様かもしれないとされた

その人の姿を見ることができなかった。


そして見ると、やはりちょうどその近くに大きな木があった。

彼はザァカイの箇所のエピソードを思い出し、

自分もその木に登って、その人の姿を確認しようと試みたのだ。


その時、それが夢である事がなんとなくわかった。

何の力も入れてないのに、彼はその木をするする登る。

あっと言う間に良い高さの位置に来ていた。


すると群衆に囲まれていたその人が木に登った彼を見つけ、

「おりて来なさい。今日はあなたの家に行こうと思ってますから」

と呼んでくれた。

彼は天にも昇るほど心の底から嬉しくなり、

「ザァカイと同じ…もしかすると…!」

と妙な予感と共に、その人のそばへ駆け下りた。

そしてその瞬間に彼は信仰に救われたのだ。


彼はその人に、今困っている人に対して

自分の財産を分け与えることを約束し、

これまで経済活動で騙し取ってきた金を

それぞれの人に、できる限りをもって

倍返しの形で返せるようにと祈り願った。

それだけすれば、彼の財産はもう無くなる。

それでも良いと思った。

それだけ彼は孤独で、そこでまた栄えても

同じ繰り返しになり、やがて友は離れ裏切られ、

今と同じ…いやもしかするとそれ以上の絶望と孤独を味わうことを

確信するほど知っていたからだ。

そんなところに居続ける意味が

もう自分には無いと知ったのである。

その事を全部打ち明けて、彼は救われたのである。


そして彼によって以前に困らされた何人かが

まず助けられた。それから何人かがまだ助けられ、

実際、何人がその損害を弁償されたのか、

もう彼の知るところではなくなった。

彼が知らないところで

助けの手が差し伸べられる機会があったのだ。

世の中はそういうものなのか…と彼はまたその時思う。


そしてあの戦争で別れ別れになり、

まるで隔離された所で他界したと信じていた彼の両親が、

彼のもとを訪れた。

「父さん!母さん!!」

今度は彼の歓喜の声が、彼とその両親の周りをこだました。


彼が見た一連のそれらの事が、夢かどうかは問題ではない。

その経験をしたということが第一の問題にあり貴重であり、

彼がそのことにより変わったのは真実のこと。


その日からまた、彼の家に光のようなものが住まうようになった。

その光を彼は救い・イエス様の存在と呼んでいる。

これは聖書を読んで信じたことで、

2000年前に居られたと言うそのイエス様が

今も自分のすぐ傍にずっと居てくださり、

信仰に立ち返ればいつでもどこでも救われる、

と言うそのこと。


きっとその通りになったのだ、

周りの者はそう何度か噂していた。

そしてその「何度」が常識のようになり、

彼は今クリスチャンとして周りの人に

認められるようになっている。


もう彼がおそらく以前のように

多額を稼ぐことは無いだろうけど、

彼には初めから与えられていた消えることのない、

何よりもの莫大な財産を持っている事が証明された。

この証明は彼が1番に知らされ、

彼の信仰を信じる他の何人かに知らされていた。


神様が彼に与えていたすべての物事、

自然、身体、健康、病、繁盛、貧しさ、孤独、

友、兄弟姉妹、感情、神様からの教え、信仰、救い…

すべて神様から与えられ、

その信仰が成長するための土台になるもの、

これに気づいたとき、彼は生きている喜びを知り、

そして神様の時において天に引き上げられる

人としてその最大の喜びを知ったのである。


信仰に生かされる上で、

必要ならその時に必ず神様が与えてくださる。

それまで彼は、金が生きるために必要だと

自分で稼ぎ続けた。その必要がなくなったのだ。

生きることが楽になり、喜びしかなくなった。

彼はそのことをまず喜んでいた。

そして神様にすべてを感謝していた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=mtJj0UM-Irs

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