①-8 異質な存在②
スイスへ到着後、しばらくティニアの姿を見ることはなかった。マリアはミュラー夫妻が経営しているという不動産の建物に居住した後もだ。
そしてすぐ、南下していた際は何事もなかった両足に力が入らなくなり、脱力してしまった。マリアは寝たきりとなり、生活のほとんどをミュラー夫人に頼った。
(無力で荷物であることの悔しさを噛みしめる日々だった。あの日々から、私は変われたのかな)
滞在していた町が誤爆攻撃を受けたのも、そのすぐ後であった。毎日のように他国の軍用機が通過していただけだと思っていたのだ。
(私だって、あの日は空爆を受けるとは思っていなかった。防空壕へだって避難なんてしなかった)
誤爆攻撃が止んで数時間後、ティニアが居住を訪れた。久々に出会ったティニアは髪がかなり短くなっており、より幼さを感じた。疲れた様子の彼女を詮索する気力はなかった。
ティニアはすぐにマリアの足の指先に触れ、ゆっくりと関節を動かしていた。そして呟いたのだ。
『再び歩きたいと思えられたら、歩けるんだよね』
この時、マリアはティニアへの信頼が別の人間にあると知ったのだ。
『瓦礫でいっぱいなんだ。人手がいるんだ。助けて欲しい』
(そう、あの時だ。あの時のティニアは、まるで……)
拠点でかつて共に過ごしていたレイスのように、頼もしい姉であり母である存在であると、認識し依存してしまった。それからずっと、ティニアの事をレイスのように考えている。
依存によって、全てが歪んでいくのを、マリアは恐ろしく感じていたのだ。
――――アルビノの少年のように。
(あの子のこと、忘れたことなんてない。トラウマのように、依存している)
歯がゆかったマリアがすぐに歩行が出来るまでに回復し、先ほどまで歩けなかったなど、誰も思わなかった。そんな余裕はなかったのだ。皆が皆で必死であり、自分の事だけでも精いっぱいだった。だからこそ、無意識でも体を動かし、生きようと足掻いた。
(そうやって、私のトラウマには誰も気付かなかった。ティニア以外は)
その誤爆から数か月で大戦は終結したというが、マリアは特に喜びを感じることはなかった。
(そう、今イタリア、シチリア島の上空にいるのは、昔の干渉に浸りたいだけ。私の逃げだわ…………)
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