⑦-15 狼煙の余波⑤

「ルゼリア国は、セシュールを大義名分で攻め込む時、ティトーの意見を仰がなければいけない」


 レオポルトの言葉に、アドニスは力強く頷いた。


「王位継承権やルージリア籍を放棄した我々とは違い、ティトーさんの地位は新しく構築されるでしょう。巫女、あるいは大巫女として。大巫女でなく、巫女であったとしも、代王に対しては同程度の地位に匹敵します。否、それ以上の地位であるティトーさんの同意なしで、ルゼリア国はセシュール国への進行はおろか、フェルド共和国を実行統治することも不可能になるでしょう」

「じゃあ、戦争にならないってこと?」


 ティトーはベッドから飛び降りると、アドニスへ向かって呟くように、その言葉を紡いだ。


「ええ。今の代王にそこまでの力量はありません。……失礼、貴方がたの祖父なのですがね。貴方が巫女でも、意見を仰ぐ必要があるのですから。それが大巫女になれば、その地位は更に凌ぎ、王に匹敵するのです。そして、教会は大巫女を全力で支援します。大巫女の地位は、聖女より高いのです」

「アドニス、話が長い。もっと短く、わかりやすく話してくれ」

「嘘ではありませんからね。私はしばらく、この町、時計の町におりますので、巫女について。継承の儀について詳しくご説明しましょう。少し考えてからで構いませんよ。レオポルト・アンリの体のこともあります」



 アドニスは力強く頷くと、レオポルトへ向き直った。慌ててティトーが間に入ると、アドニスを睨むように恐る恐る見つめた。


「僕、お兄ちゃんがいなきゃ、継承の儀は受けないよ」

「ええ。もちろんです」

「アルも、マリアさんもだよ」

「ええ、ええ。こちらでそのように手配いたします。大丈夫ですよ」

「なんだあ。へへへ。良かった」


 ティトーは微笑むと、何故かそのままアルブレヒトに抱きついた。アルブレヒトも慣れた手つきで頭を撫でる。


「そこでレオじゃないところが、まだ信頼が足りないんじゃない」


 マリアの言葉に、レオポルトは余裕の笑みを浮かべた。


「ティトーはそういう事をする奴じゃない。な、ティトー」

「うん! 僕はおにいちゃんが好きだし、マリアお姉さんも大好き!」


 ティトーはマリアと抱き合うと、すぐにレオポルトを抱きしめた。


「僕、みんなの事が大好きなの。だから、みんなが居なきゃ、何もしたくないし、巫女なんてならないです」

「さっきからもうティトーが巫女で確定のような素振りだが、大丈夫なんだろうな」

「この子からは神聖な力を感じます。聖女であるアレクサンドラもそう言っていましたよ。3人が巫女継承の儀に参加出来るように、最優先事項に取り入れましょう。それでは、私はこれで」


 すると、アドニスは気づいたようにハッとすると、最初に出した新聞をどこからか取り出し、マリアに手渡した。


「なに? 新聞?」

「読んでみるといいでしょう。君も生きていて良かった。それでは」


 アドニスはそのまま出ていくと、部屋は静まり返った。


「相変わらず、話が長いのよ」


 マリアは新聞を広げると、大きな声を上げたため、ティトーがびっくりして飛び上がってしまった。


「ちょ、これ!」

「わわわ」


 ティトーの体を支えると、アルブレヒトはティトーの顔を照れながら見つめた。ティトーは意味が分からず、新聞をのぞき込む。


「ああ。そう云う事だ。俺は死刑囚ではなくなる可能性がある」

「自由の身じゃない!」

「ええ! ほんと⁉」


 ティトーは前屈みで新聞をのぞき込むと、マリアがその文字を指さし、ティトーも万遍の笑みを浮かべた。


「これ!!!!!! アルはもう、殺されないんだね!」

「いや、そういうわけにはいかない。生きていたとなれば、アンセムの土地に残された人々が黙っていないさ」

「アルブレヒト……」

「アル……」



 ティトーの表情が陰ったことに驚き、アルブレヒトは慌てて修正を口にする。


「それでも、身動きはとりやすくなる。親父さんたちに、感謝だ」


 アルブレヒトは俯きながら、天を仰いだ。ティトーだけは、それが泣いているのだと感じたが、レオポルトとマリアは彼の境遇をより知っていたがために俯き、それに気付くことはなかった。

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