⑦-2 それは最奥に眠る②

「レオ、大丈夫か!」

「アルブレヒト! 良かった、あったのね!」

「これを、どうしたらいいんだ!」


 アルブレヒトは袋から薬草を取り出すと、マリアはじっくりと薬草を見つめた。


「アキレア⁉ そうか、アキレアの事だったのね! それなら熱湯よ、お湯を沸かして、アキレアの葉をくべた蒸気を浴びさせるの。それから、葉は乾燥させて薬草茶に出来るけれど、このまま洗って刻んで、すんごい苦いけど、食べれるわよね。レオ!」


 レオポルトはしっかりと頷いた。神官ナターシャはお湯を沸かしに台所へ走る。


「アル、ありがとう」

「いや、いい」

「ティトーは、どうした」


 マリアがハッとして振り返るが、ティトーの姿はない。


「まさか置いてきたの⁉ この雨なのに」

「だからすぐに戻る」

「も、戻るって……」


 アルブレヒトは自身の雨具を取り出すと、それを身に着け始めた。雷鳴は激しく轟き、雨は強さを増す。


「この雨だから、気を付けて行って」

「お前も、レオを頼んだ。頼んだぞ」

「任せて」



 アルブレヒトは雷鳴轟く森へ入るため、獣道を目指して町の外へ走り出した。そう、ティトーが教えてくれた、正しいエーディエグレスへの道だ。



「ティトー、無事でいろ」


 



 一方ティトーは、すぐ近くの洞窟を見つけると、その中へ避難していた。服はびしょ濡れであり、アルブレヒトから借りた上着は絞ると、子供ながら水が溢れてしまった。



「さ、さむい」


 ティトーは洞窟の入り口に、お守りにと付けていた紐を解くと、木の枝に括り付けた。


「奥はあったかいかな」


 ティトーは洞窟を進んでいく。薄暗い中で、ティトーは魔法を唱えた。手のひらに淡い光が宿り、足元を照らす。


「光の魔法、教わっていて、良かった。この洞窟、どこにつながっているんだろう」


 ティトーは心がざわつくと、しかしそれでいて奥へ奥へと歩む足取りと止めることは出来なかった。それは単なる興味ではなく、本能だ。


「なんだろう。悲しい。すごく、泣きたい」


 胸を掴み、重たい重圧が心を縛り付ける。寂しさがこみ上げ、自然と兄の存在が思い浮かぶ。


「お兄ちゃん、大丈夫だよね……。マリアさんもいるし、サーシャおねえちゃんもいたもん」


 そして、最後に思い浮かべるのは赤毛の男のことだ。上着をギュッと握る手に力が入る。


「アル、届けてくれたよね」


 雷鳴も聞こえなくなる程、洞窟は長く出来ていた。温かみはないものの、ティトーの足取りは止まらない。


「岩、森、洞窟…………」



 ポツリポツリと、無意識に言葉が流れていく。


「僕は前も、こうやって誰かを探しに来た」



「でも、誰だっただろう。ずっと、ずっと昔だ」





「愛しい君を探して、僕は町へ降りて行った。そして、森へ行って、洞窟を見つけて、それで」


 雨音が鳴り響きだし、ティトーは洞窟の出口であることを知ったが、足取りが止まってしまった。


「それで、僕はどうしたんだっけ」



 ふと、足元に小さな岩が現れ、花が咲き乱れる場所へ出ると、空が明るくなっており、光が差し込んできた。



「ここ、天井が空洞なんだ。空、晴れてきてるんだ」


 戻らなくては。そう思った矢先だった。



 ティトーは足元から崩れ落ちると、足元の岩にしがみついた。等身よりも遥かに大きく、不自然なほど丸い岩だ。



「そうだ、君はここで眠っていたんだ。絵本は、ここを描いていたんだ。そうか、あの絵本はボクとキミの」





「あかくて、おおきくて、まるい。いとしいキミが」



 ティトーは気を失うと、その場に倒れこんでしまった。




 物語に出てきたアキレア(ヤロウ、西洋ノコギリソウ)は薬草で実在しておりますが、実際に吐血を止める作用はありません。一応ですが、効果は止血です。あくまでフィクションのファンタジーという物語の一部です。特別な加工も施され、魔法での支援もあっての結果になりますので、真似をしないでください。あくまで物語の白鷺病対策です。鳥の白鷺さんと関係は一切ありません。

 生食は非常に苦味を伴うことと、キク科としてアレルギー作用があるため、絶対に誤食しないようにしてください。

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