〇番外編1-3 パーティーにて①

 マーシャはピンク色のドレスを身にまとい、レースをふんだんに散りばめた、お姫様の恰好をすると、満足げに馬車へ乗り込んだ。


 マーシャの重みに、馬車が傾く。


「お姉さまと同じ馬車だなんて、馬車酔いしないか心配ですわ」

「…………」

「フン!」


 マーシャと対照的に、赤と灰色のドレスを着こんだマリアは黒い薔薇をあしらった。自分に相応しいドレスだ。どのドレスも黒ずんでいたため、灰色に染めるしかなかったのだ。


「陰気なドレス。葬儀にでも出る気なのかしら」

「…………」

「アルブレヒト様は、成人後の初めての外交だそうよ。粗相はしないでよね」


 憂鬱な馬車は、マーシャのおかげで重心がしっかりしていたため、さほど揺れることなく城へ到着すると、マリアは先に降りてマーシャを馬車から降ろした。


 手をハンカチで拭うマーシャは、友人たちと合流するとそのまま城内へ入っていった。城前の使用人や門番の兵が、招待状を確認していると、マーシャが後ろを指さした。友人たちと嗤いあっている。


「マリア・ゼンテ・マルティーニ様ですね」

「はい」

「失礼ですが、妹のマーシャ様の招待状はないのですが」

「私が従者として来ています。通してあげて下さい」

「え? ……わかりました。そのように」


 門番の兵は首を傾げながら、マーシャ達一行と通すと、マリアの持った招待状を受け取った。


「気になさらないでください。いつもですから」

「は、はあ……」


 マリアは12歳ながら、達観していた。もう誰も助けようともしない上、マルティーニという家に逆らおうものなら生きてはいけないのだ。


 マーシャがむしゃむしゃ食べれず、我慢したストレスをマリアへぶつけていると、ラッパの音が鳴り響いた。王族が次々と現れ、最後に入口から入ってきたのは、マリアより黒っぽい赤毛をした少年、否青年だった。背も高く、16歳とはいえ立派な大人だ。マーシャの言う通り、顔が整っているものの、マリアに興味がない。


 マリアはマーシャがうっとりしているうちに、マーシャの傍から離れ、バルコニーへ出るとため息をついた。


「2時間くらい、ここにいるしかないか。冬だから寒いな」


 ケープを肩から掛けると、南国の島とはいえその寒さが身に染みてくるのだ。マリアは防寒の魔法をかけると、景色を見つめなおした。視線の先には、景国がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る