④-15 とつぜんの朱うげき①

 二度目のキャンプ後、炎の後始末を終えると、アンリは髪をティトーと同じ薄い栗色に代え、眼帯をし直した。これがなければ、町を出歩くことが出来ないのだという。


 支度を終えると、一行は直ぐに旅立った。北東へ進むとあるのが、鐘の町であるという。小さな教会があり、ルゼリア領ではメサイアと呼ばれる町である。



 町は至る所に花で彩られており、春のセシュールをと感じさせられる。外壁にはフレスコ画が描かれており、様々なセシュールの部族民の守護獣が描かれている。


「ふおぉおお! これは何ですか、なんですか! 鷲獅子!!!!」

「よく見ろ。これはどうみても、獅子ライオンだろう。こっちはセシュールの部族民の守護猫だ」


 アンリはフレスコ画を指さしながら、丁寧とは言えない説明をしていく。


「おおおお! お兄様、博識! でも僕、獅子は好きじゃない!」

「いや、流石に常識で」

「お兄様は褒められるのに弱くてな。なあ? 嬉しいよな」

「叩き切るぞ」


 ティトーが駆けだそうとしたところで、アンリは慌ててティトーの腕を掴んだ。咄嗟に、服に仕舞われていたペンダントが宙を舞う。思い出したかのように、ティトーがリング触れようとすると、すぐにアンリに呼び止められた。


「ティトー! 迷子になるから、急に走るな!」

「ごめんなさい! でも、お守りがあるからダイジョブだよ!」

「お守り?」


 ティトーはペンダントにしたリングを取り出すと、チラチラと兄へ見せた。

 

「あーあーあー! いいから、ティトーは俺と、買いものしよう! そうだ、御本を買おう。この町は大きな本屋があるぞ!」

「ご本!? ごーほーんー!」


 グリットはティトーの手を掴むと、アンリに手を振りまくった。


「まったく。宿の予約は僕の仕事、か……。そうだな、あいつが部屋を借りられるわけがない。知り合いの宿屋でもないのだ」


 アンリは一人、街路を渡っていった。午前中の日差しは暖かく、半袖でもいいほどの陽気だ。


 中心にある鐘公園で人々の行き交いを眺めながら、髪を解くとそれを結びなおした。アンリはあまり暑さに強くないため、荷物からキャスケット帽被ると一息ついた。


「さて。宿屋に向かうわけなんだが、どうしたものか……」


 アンリは手紙をしたためると、そっと地面へ落した。小さな白い鼠がそれを捕まえると、街路へ運び出し、そのまま白鷺に渡した。


「これで彼奴は気付くだろうが、ティトーはどうするか」


 アンリはそのまま、路地を裏手に、訳アリの者しか向かわない公園へ向かったのだった。


 公園はつまり、隠れて逢うような者しか来ない、訳アリの公園だ。鐘の町とは即ち、教会と結婚を意味する町なのだ。

 そんな町にあるいわくつきの公園の奥にある花園には、最近になって隠れて逢う男女だけが居た。当然だが、一人で歩く者ほど怪しい者はいない。


 ピリピリとした威圧が、公園を、花園を包んでいく。




 冷たい風が大地に堕ち、水が失われた。光などない世界に闇だけが横たわる。


 そしてその闇は月へと葬られたのだ。仲間たちと共に――。

 怒り狂った炎は、風でかき消されることもない。

 炎々と天まで延びると、大地へ向かって矛先を向けたのだ。



 もう、後には戻れない。



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