②-12 再生の紫雲英②

 それからどのくらいの間、二人は無言で過ごしていたのか。当人たちもわからない程、時間だけが流れていった。労働者へ11時を知らせる突拍子の無い雄たけびがどよめく。


<じゅういちじだあああああああ! ぞおおおおおおお!>


「タウ族は相変わらずうるさいな。空気も読めないのか、あいつは」

「………………え、あの」

「あ~~~。気にすることは無い。タウ族なんて、関わらないほうがいいぞ。いい意味でな」

「え。いえあの、そうじゃなくて」


 少年はグリットと、その掌に握られた銀時計を交互に見つめたが、再び聞こえ出した雄たけびが全てを破滅させた。


<じゅういちじだあああああああ! ひるだあああああ! おまえら、しょくどうへええええ! しゅうごおおおおおおお!>


「ぶっ…………!! 本当に、あの、賑やかだね」

「遠慮せずに煩いって言えばいいぞ。あいつらにとって、それは褒め言葉だからな」

「そうなんだ、まだ叫んでるね」

「今日はあいつらにとってはいい日なんだ。百歩譲っても煩いけどな」

「確かに!」


 ティトーは涙を零しながら大笑いすると、涙を拭いながら話した。労働者たちの声と共に、下の階が賑やかさを増す。


「これは、俺の時計なんだ」

「そうなの!?」

「そう。だから、それはティトーが持っていて大丈夫だ」

「そうなんだ。この銀時計、一つしかないと思ってた!」


 ティトーは今までで最も安堵した表情を浮かべ、ベストの内側にある胸ポケットへ銀時計を閉まった。それを確認すると、グリットも胸ポケットへ納めた。下の階からは、労働者の賑やかな声と、一人だけ騒がしい男の声が響き渡っていた。


「難しいことはまだ考えなくていい。考えてもすぐにわからないことは、どんなに考えたってわからないものだ。一度に色々起きたからな。面倒なことでもあるし、大事なことでもある。今はまだわからなくても大丈夫だ。タウ族見てたらわかるだろ、厭でも」

「そうだね! でも僕は、タウ族という方々がどんな方たちなのかわかりません」

「それは気にしなくていい。知りたくなくてもすぐにわかる」

「うん!」

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