①-10 価値を知るもの②
周囲を見渡してみると、他に列に並んでいるのは、見るからに母親と呼べるような女性ばかりだった。中にはゆったりとした服装で、お腹の大きな女性もいる。
ふと少年は、自分の存在が異国民であったことに気づいてしまった。国境前で帽子つきのケープをもらったことで、異国で目立たない程度の身なりだろう。セシュールの織物で作られていると聞いている。
前の女性は鮮やかな鳥の刺繍の入ったワンピースを着ている。
後ろの三つ編みの女性はそこまで着飾ってはいないものの、しわのない白いブラウスに白いエプロンを付け、青いスカートを履いている。
それでもエプロンにはオレンジ色の糸によって花の刺繍や動物が描かれている。少年からみれば十分おしゃれだ。
(僕の服、ボロボロだ)
セシュール領での検問では、特に何も言われなかった。兄を探しに来たと言ったところ、見つかることを願っておりますとだけ言われ、泣きそうになってしまったのだ。
(こんなにも怪しいのになぁ)
少年はケープについている帽子を被った。自分の存在が場違いであり、異質であることが。
(恥ずかしい)
虚しさ、絶望が沸き上がり、目が熱くなるのを感じる。この姿のまま、食堂に入っていったなど。
(ぼく、ここにいていいのかな……)
少年は列に並ぶ女性が皆、大きな桶や壺を手に持っているに気づいた。
(ぼく、小さな革袋しか持っていない)
少年が井戸を使うのは三回目だ。始めは使い方など知らなかったが、たまたま居合わせた老夫婦が指南してくれたのだ。
ルゼリア国にあった井戸は、吊された縄は太いだけではなく、少年の力では引き上げることも難しかった。
それでも、一度引き上げてしまえば、一度分の料金を取られる。やっと汲み上げられても、そこで溢してしまえば一度分の料金を支払わなければいけない。
(今はひとりだ。ちょっとしか引き上げられないだろうし、零しちゃうかも)
井戸はなぜか木の板で蓋がされており、手前の地面に棒が突き出ていて、そこから出ている棒状のレバーを上下させ、水を出している。
(どうしよう、見たことのない。井戸って全部あれじゃないの)
列に並ぶ間、周囲に気を取られてしまっていた事を後悔してももう遅い。ふと前を見ると、先ほど水を汲んでいた先頭が、すでに汲み終えて帰路についている。少年の前はもう二人しかいない。
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