第11話 【雷鳴の獅子王】
「あ、お疲れ~。もう配信してるの?」
ドローンを止めて装備の点検をしていると、未来がやってきた。誰もこない夜のダンジョンなので、わかりやすいのは当たり前なのだが、独特な存在感というか雰囲気があるので、つい目を惹かれてしまう。
「お疲れ。今はいったん止めてるよ。そろそろ来るかなって思ったから」
「ありがとう。あと、私のせいで大変な目に遭わせちゃってごめんね……」
「全然大丈夫、わりとすぐ鎮火したし、とにかく探索頑張ろうぜ」
「ほんとにごめんね、私、ずっとひとりだったから嬉しくて……」
「何にも起きてないから、気にすんなって」
ほっと息を吐く未来。ただ燃えたって事実があるくらいで、実際実害はほとんどなかったから、気にする必要なんて本当にない。
「なんか、めっちゃ女の子の匂いする……これ愛花ちゃんだよね? 本当に付き合ってないんだよね?」
「そうだよ、普通にただの幼馴染。っていうか何か企んでると思ったら匂いつけてたのかよ。そんなに匂う?」
「うん。明らかに女の子の匂いがする」
「どんな匂いだよ……とりあえず配信付けるぞ」
「はいはーい、私もつけまーす」
右手をピシッと上げておどける未来を見ると、変化を感じずにはいられない。まだ会うのは二回目だが、最初はもっとピリッとしていたし、近づきがたい儚げな美人という印象だったのに、今となっては普通に親しみやすいかわいい子って感じだ。
:おかえり~
:元気そうで安心した
:今日もがんばれ
:変に炎上意識して怪我したりしないでね
「どーも、未来も来たので一緒に六層行ってみます。よろしくお願いしまーす」
「おねがいしまーす」
:かわいい
:こんな顔が見たかった
:お前最高だよレオ
:こんなゆるい未来ちゃんが見られるなんて
:可愛すぎて死にそう
:誰かこの手振ってくれてるところを何回も繰り返して一時間耐久動画作ってくれ
「六層いってみよーう!」
「おー!」
一度到達した層には、空間の裂け目を利用すればすぐに辿り着くことができる。なんでそんなシステムになっているのかはわからないが、ダンジョンとはそういうものらしい。
未来はこのダンジョンを攻略したことがあるわけではないので、一緒に行くために五層クリア後に開放される六層のへの裂け目を通り、その先へと進む。
「ここも大分かなり変わってるな……どことなく、12層っぽい?」
:確かに
:雷のライオンが出てきたところにそっくりだな
:【雷鳴の金獅子】くんか
:六層からは完全に夜には異界化してるってことかもな
:違うダンジョンみたい
日中には地平線まで見渡せた広大な荒野は真っ暗だ。半月の明かりだけに照らされたこの場所は、どういう構造なのかよくわからない。赤茶色の土がむき出しになっており、大地は乾ききっている。前に来たときは、狭い部屋の中で最初から存在するボスと戦うだけで済んだのだが……明らかに構造が違う。
「何にもいないし何にもないね。不気味……」
「だな……注意して進もう」
そう話した俺たちが一歩前に進んだ瞬間、空気が一変した。
轟音。
俺たちから十メートルほどの距離に、雷が落ちた。
この階層ごと破壊せんとするその
そこには、このダンジョンのダンジョンボスだったはずの、【雷鳴の金獅子】が変わり果てた姿で存在した。
俺が以前相対したときには、全長五メートルはあったはず。しかし、目の前にいる獅子は三メートルほどしかない。にもかかわらず、威圧感は以前とは比べ物にならない。圧倒的な雷の魔力を纏い、
「■■■■■■■■■■!!!!!!」
咆哮する。
孤独な獅子の雄たけびが、ただでさえ魔力で満たされた空間で、さらに力を集め輝きだした。
これまでに感じたことがないほど危機感を感じる。第六感が働いているのか、こいつはやばいと心と体の両方が叫んでいる。
「なに、これ……!」
その瞬間、様子を見ていた俺たちは目撃した。四足歩行の獅子が、二足歩行の獅子へと進化する瞬間を。その魔物は、獅子の威厳をそのままに、より恐ろしい魔物となって俺たちの前へと立ちはだかる。獅子の顔を持ちながら、紫電を纏い、人間のように直立するその異形の姿は、見る者に強烈な恐怖を与える。
人型の怪物として進化した【雷鳴の金獅子】には武器一つなく、人型の胴体の上にある獅子の頭上には、王冠が存在した。
「こいつ……今までの相手とは比べものにならない……」
「これ、S級は余裕であるくらい強そうだけど……」
:鑑定した。名前が【雷鳴の獅子王】ってことくらいしかわからなかったけど
:こいつ見たことないわ。誰か知らないの?
:俺A級探索者だけど見たことないわ
:マジで死にそう
:S級か……?
「【雷鳴の獅子王】か……こいつはやばい、撤退も視野に入れておこう……」
「うん、そうだね……」
激戦を予感した俺たちは、気を引き締め直し、人型の巨獣へと踏み込んだ。
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