ダンジョン配信で有名になって美少女と結婚したい!
ツキナミ
第一章:明けない夜が明けるまで
プロローグ
人体の何倍もの体躯を誇る獅子から、暴風が起こるほどの速度で前腕が振り下ろされる。
【雷鳴の金獅子】。全12層からなるA級ダンジョン、天草ダンジョンの最終層、第12層のボスとして立ちはだかるその魔物は、白い雷を全身に纏い、超速の機動力を以て探索者へと襲い掛かる。
炎を纏わせて強化した剣でそれを弾き返し、体勢を崩している間に前腕を深く切り付ける。
「ハァ――――!!!!!!」
————一閃。
切り込んだ場所から血が噴き出し、痛みに喘いで叫びを上げる。
そんな隙は許さない。長時間の戦闘の中で初めての
ここが、勝負所。決める――――――!
必殺を確信した俺は、戦いながら溜めていた魔力を開放する。一瞬にして、体の周囲の温度が上がっていく。熱がどんどん高まっていく。剣を握っていない左手に魔法で炎を纏い、獅子の顔を全力で殴りつける。
俺の全力の攻撃により、獅子は全身が燃え上がりながら吹き飛んでいく。
そのまま獅子の目を潰して視界を奪うため、追撃を仕掛ける。死に瀕した【雷鳴の金獅子】もただで受け入れてくれない。巨大な尻尾と後ろ脚で体勢を立て直しながら、口から雷の咆哮を放ってくる。ここまで追い詰めていても、A級ダンジョンのボス。食らえば重傷を負う。被弾はたった一撃でも致命傷になりうるため、横に跳んで回避する。
三十分を超える命のやりとりで蓄積した疲労と、身体中に受けたダメージで、もはや死に体の獅子は、最後の力を振り絞ってこちらを睨みつけてくる。体には血がしたたり、満足に動くことはできないだろう。
命がけの最後の一撃。それにすべてを賭けるつもりであろうこのダンジョンの王は、口元で白雷を弾けさせながら膨大な魔力をためている。
「いいぜ、これで終わらせよう、【雷鳴の金獅子】。最後の勝負だ!」
俺の方も、息こそ上がっているが、魔力にも体力にも余裕がある。
決着を予感する状況。次の攻防で、勝敗は決するだろう。
:いけえええええええええええええええええ!
:うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
:やっちまえええええええええええええええ!!
:ぶっ倒せえええええええええええええ!
:A級制覇だああああああああああああ!
撮影ドローンを通して配信される戦闘に熱狂するコメント欄の反響が、俺の周囲に展開されるウィンドウを爆速で流れていく。一瞥するが、あまりの流れの速さにどんなことが書かれているのか全くわからない。
俺の全身を包む炎を、上段に構えた剣に集中させていく。炎の色が赤から白銀へと変わる。圧倒的な輝きを見せる炎は、空間を揺るがすほどの熱を持っている。
すべてを焼き尽くすかのような炎に、力を溜める獅子も恐怖を感じたのか、一歩後ずさる。膨大な魔力が迸り、立っている周囲の地面がめくれ、土が、岩が吹き飛んでいく。
「燃え尽きろ! 【
チャージした炎を振り下ろす。集約された爆炎が、獅子の口から放たれた白雷の咆哮とぶつかる。
――――
空間が悲鳴を上げるかのように地面が震え、轟音が響き渡る。
一瞬の拮抗。
その末、
断末魔を上げる余裕もないまま、光の粒子となって【雷鳴の金獅子】は消失した。
「よっしゃああああああああ!」
それを確認した男、
:うおおおおおおおおおお!
:かっこよかったぞ!
:おつかれ!
:うおおおおおおおおお!
:お前が最強だ!
:さすがレオ!!!
熱狂するコメント欄を視界の隅に入れ、男が天井を見つめながら口を開く。
「いやー、いい勝負だった......! 最後のブレスとのぶつかり合いとか、めっちゃ熱くないか!?」
:B級のくせにA級ダンジョンボスの全力ブレスをぶち破るな
:真っ向勝負好きすぎだろ
:絶対もっと楽に勝てたのに、正面からぶっ倒しててビビるわ
:この男、エンターテイナーすぎる
「全部に打ち勝って行く方が成長できるし、見てて面白いだろ? 俺は、早くS級にならないといけないんだ……!」
:中二病治ってない癖に強すぎる、このぼっち探索者
:覚悟ガンギマリ過ぎて怖い
:命大事に
:激熱戦闘は見てて超おもろいけど、死んだら終わりだから死なないでね
キュッと目を瞑り、深刻そうな表情で告げた一言に、レオをあまり知らない視聴者から質問が投げかけられる。
:なんでそんなにS級になりたいんですか?
「よくぞ聞いてくれた!! それはっ! アニメやゲームに出てくるような美少女と結婚するためだ!!」
:命がけで戦って野望を語ってるのに、全然かっこよくない
:欲望丸出しだからモテないのでは?
:戦ってるときはかっこいいのに……
:アホ
「S級の人がアイドルと結婚してるんだぞ! だから俺もS級になる!」
:なんかわからんけどコイツはモテなそう
:なんか小学生みたいだなこの馬鹿
:ちょっと強いだけのクソガキだから
:ちょっと(世界最速でB級到達、しかもソロ)
:夢はあるよなあ
「俺が最短で強くなる方法なんてこれくらいしか浮かばないからな。学校に行きながらダンジョンで強くなるなら、一つ一つの戦闘の質を高めないと。あとぼっちはやめろ。あ、仲間は欲しいから、同じくらいの実力の方、いつでも誘ってください!」
あまりに仲間に飢えているのか、疲労困憊とは思えない早さで身体をパッと起こしカメラ目線で両手を合わせている。
:最上位のA級以上のパーティはもうほとんど完成されてるからなあ
:このセリフを何度聞いたことか
:い つ も の
:今更他人と協力出来るのか……?
:てかずっと炎纏って戦ってるから味方が近寄れないんじゃね?
「不穏なこと言うな! 俺だって練習すれば連携くらい出来るし……多分。あと俺の白い炎は何かよくわからんけど敵以外には効かないから! めっちゃパーティ向きだから! 料理にも虫退治にも便利だから!」
:B級ゴキブリスレイヤー、レオ
:ぼっち! ぼっち! ぼっち
:あかん、コバエ頑張って燃やしてるの想像したらくそおもろい
:かなり特殊な魔法使うのに、仲間いないから全く活かせないの草
:てかドロップ見せて、はよはよ
「あっ、確かにドロップ見ないと」
コメント欄との会話に夢中になっていたレオが、ボス部屋の奥に歩いていく。
十二層ものダンジョンを踏破し、かなり強い敵たちを倒してきたため、消えた獅子いた場所へウキウキで向かうが、そこには獅子の核であった巨大な魔石しかなかった。
「特殊なものとかは何にも落ちない、か……。しょっぱいなぁ」
:おおおおおおお!
:そのサイズは十分特殊です
:一千万は硬いぞ!
:流石A級ダンジョン!
「結局、去年の迷宮氾濫で東京を襲った魔物はどこにもいなかったな……。協会に報告しとかないと」
レオが踏破したダンジョン、天草ダンジョンは、去年に起きたダンジョン災害に深い関係を持つ場所だった。
ダンジョンとは、世界各地に存在する未知の領域で未だ解明されない謎が多く存在する空間だ。
ダンジョンに入るためにはダンジョン協会で資格を得る必要があり、戦闘技能や魔力、ダンジョンに関する知識など、15歳以上になってから様々な試験を通過しなければならない。そのため、探索者になる事自体かなりハードルが高く、ダンジョン配信はとても人気なコンテンツになっている。
そもそもダンジョン配信が生まれたきっかけは、命の危険にある探索者をすぐに助けにいくためだったり、ダンジョンの異常や異変をいち早く発見するためだったりするそうだが、配信文化が発展してきた今となっては、協会以外の人にとってはただの娯楽になっている。
ダンジョン内には凶悪な魔物たちが多数存在しており、死者が出ることも少なくない。娯楽といっても命がけであるため、かなり刺激的なコンテンツである。協会が色々と頑張ってそういうところは映らないようにするらしいが……。
魔物は倒されると、魔石を落とす。これはさまざまな道具や技術に活用でき、資源にもなっているため高価で取引されている。
ダンジョンの最深部や一部の場所には宝箱が存在し、そこには科学技術では難しい効果を持つものもある。肌を一生若く保つ薬、死滅した毛根が完全に生き返る薬、一生消えない灯など、効果は様々で、役立つものもあれば何に使うか想像もつかないようなものもあったりする。
このように、探索者は命を賭ける代わりに、お金には困らない人がほとんどで、かなり夢のある職種と言われている。
「とりあえず、次に行くダンジョンを考えようか……。みんなはどこがいいと思う? とりあえず、強い敵とか派手な敵と戦いたいんだが」
:最速でS級を目指すなら、やっぱりまたA級ダンジョン行くのが早そうだけど
:梅田ダンジョン! ついでに大阪来てサインくれ!
:札幌ダンジョンは?
:強い敵なら、このダンジョンの夜とかマジでヤバそう
「遠いのはちょっと厳しいけど、夜か……ありだな! それでいくぞ!」
レオの軽い一言に、戦闘を終えて落ち着いていたコメントの流れが加速する。
:やめとけ
:死ぬぞ
:誰だよそんなこと勧めたヤツ
:危なすぎるって
:A級でも死にかけてるのに
これまでのダンジョンに関する調査の結果で、夜のダンジョンの危険性も広く知られているため、反対と心配の声が大きいようだ。ダンジョンは、異質な空間であるはずなのに、外と時間が連動している。外が暗くなるとダンジョンの中も暗くなり、意識の外から襲われるリスクが高まる。
さらに魔物も凶暴化し、日中の敵より数段強くなるということが分かっている。普段はB級のダンジョンも、夜になれば二段階上のS級クラスの厳しさになると言われており、実際、夜にダンジョンに入った場合の生存率は日中と倍以上違うと言われている。あまりの敵の強さから調査が難航し、高ランクの夜のダンジョンについては、危険ということ以外、わかっていないことが多い。
探索者は、探索者の協会のルールで死者を減らすために、一つ上のダンジョンまでしか挑めない。
俺がA級に上がるためには、もっと鍛錬を積んで魔素量のランクをAにしなければならない。そのため、すぐにより強いS級のダンジョンに挑むことは、できないようになっている。
現在B級でS級のダンジョンに挑むことが出来ない怜央にとっては、夜配信は、合法的に格上の敵へと挑める最高の方法だった。
しかし、一万人を超える視聴者からの心配の声を受けて、レオも少し考える。
「うーん。やばそうならすぐ引き返すから大丈夫だって。俺の炎があれば飛んで逃げれるし。夜配信なら、もっと見てくれる人が増えるかもしれないし良いことずくしじゃないか? とりあえず、今日は疲れたし、明日からまた学校だから、終わります。おつかれ~」
:まあレオなら生き残るくらいはできそうか……?
:マジで止めてくれ、死ぬところなんて見たくない
:夜挑むんなら、未来ちゃんを助けてあげてくれ!
:よっしゃ、マジで楽しみ!
:明日は月曜日……だと!?
「とりあえずゆっくり考えます。【レオちゃんねる】を見てくれてありがとうございました! また来週もよろしく!」
挨拶を終えると、撮影ドローンを停止させて、深く息を吐く。
【雷鳴の金獅子】のいた場所に落ちていた魔石を抱え、地上に戻るための空間の裂け目へ歩いていく。
「よし! もっと強くなってやる!」
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