8 決闘の日
「恐れずにやってきたようだな、レントレート・ヴァエル」
城の中庭で、エドガーとその守護騎士がレントレート達を出迎えた。
今日もナナミの血を青血化した後に飲むという日課をこなした後で、レントレート達は二人で中庭へと来ていた。
「エドガー様、こちらが勝った場合は主と守護騎士、両方の腕章を交換させて頂きます。よろしいですね?」
ナナミがエドガーに問う。
「あぁ構わんさ、まぁ勝てればの話だがね……クハハハ!」
エドガーは守護騎士と共に私達を嘲け笑う。
エドガーと守護騎士、その双方の右腕には珊瑚色の腕章が付けられていた。
本当にこんな強敵に勝てるのだろうか? レントレートの足は恐怖と不安で動かなくなっていた。
「レントレート! ナナミ! 頑張れー!」
「レントレートさん、ナナミさん応援してます!!」
ナイトとチエミさんの二人だ。応援に来てくれたらしい。
レントレートはぐっと足を踏ん張って地面を力強く踏みしめる。
弱気になっている場合じゃない!
決闘委員会の生徒が前に出てきた。
ルールと勝利時敗北時の条件を確認し始めた。
そして説明が終わる。
「ではエドガー・ブラッドクロウとレントレート・ヴァエルとの決闘を始めます」
エドガーとレントレート。そしてそれぞれの守護騎士が向かい合う。
「決闘、開始してください!」
エドガーが素早く動いた。彼の指から、真っ赤な血液が飛び出す。それが空中で固まり、鋭い刃となってレントレートに向かって飛んでくる。
「レントレート様!」
ナナミの大剣が割って入り、その血の刃を切り払う。
「あ、危ない。初手で負けるところだったよ。助かったナナミ」
レントレートはナナミに感謝するとナナミはこくりと頷く。
「ちっ……さすがにそう簡単には勝たせてはくれないか……良いだろう。本気で相手をしてやる」
エドガーはそう言うと、血の剣と血の円盾を自身の両手に作り出した。
「行くぞ!」
エドガーとその守護騎士がそれぞれに突進してくる。
レントレートはエドガーに向かい合った。
大丈夫だ、ナナミよりも遥かに遅い……!
エドガーが切りかかってくる。レントレートは自身の血液を強化して動きを早めると、盾でその一撃を防いだ。エドガーは構わずに連撃を放つ。
だがしかし、そのすべてをレントレートは盾で弾いて見せた。
エドガーが距離を空ける。
その隙にナナミの方を確認するが、ナナミもエドガーの守護騎士に負けず劣らず……いやむしろナナミの方がエドガーの守護騎士を圧倒して見えた。
ならばあとは私がエドガーに傷をつければこちらの勝ちだ! レントレートは散々練習した血液操作を思い出す。そして事前に付けておいた傷から絆創膏を外すと唱えた。
「私は血を散布する……!」
レントレートの人差し指から血が吹き出し、霧のような物を作り出す。
「行け!」
レントレートは血の霧に命じた。
「なっ……!」
エドガーは思わず、レントレートの血の霧から逃げ回る。
レントレートの血液操作のスピードではエドガーを捉えきれない!
その時、ナナミが突進して大剣を払いあげた。
エドガーの守護騎士は自身の得物である長剣を天高く払いあげられてしまう。
ナナミはそこで追撃しても良かったのだろうが、問題はエドガーの方だ。
それを分かっていたのか、ナナミはエドガーの行動を牽制するように動いた。
「エドガー様、これ以上は逃げ回らせませんよ!」
エドガーの守護騎士が自身の得物を拾いに行くのを横目に、ナナミがエドガーの進路を塞いだ。
「くっ……だが、たかが血の霧がどうしたというのだ!」
エドガーは強がっているが、血の霧がエドガーの周囲を取り囲み警戒は怠っていないようだった。
「レントレート様!」
ナナミの掛け声にレントレートが首を縦に振る。
「あぁ、分かってる! 私は血を針にする……! 行けーっ!!」
レントレートがそう唱えた瞬間、エドガーを囲んでいた血の霧が針となってエドガーに降り注いだ。
「くっ……! 馬鹿なぁー!!」
エドガーの悲痛な叫び声が中庭に木霊する。
血の針による一斉攻撃を受けたエドガーは、体のそこら中から出血していた。
「私は血を回収する……!」
勝負あったと判断したレントレートは自身の血を回収し始めた。
「勝負あり! 勝者、レントレート・ヴァエルとその守護騎士!!」
決闘委員会の生徒がエドガーの出血を確認したのか、勝敗の判定を下した。
周囲から驚きの声が上がる。準男爵家出身の新入生が、伯爵家の長男を倒したのだ。
エドガーは全身から出血していたが、動くのには問題がないようだった。レントレートに近づいてきた彼は、悔しそうな表情をしながら自身の珊瑚色腕章を外す。
「……これを渡す」
レントレートは静かに腕章を受け取った。勝利の実感が胸に広がっていく。
「私の守護騎士の腕章もだ……」
ナナミも珊瑚色の腕章を受け取った。彼女の表情には達成感と安堵の色が一瞬見えた。
決闘が終わり、人々が去り始めた時、レントレートは不意に誰かの視線を感じた。
振り返ると、アイリーンが立っていた。
彼女の表情は、驚きと……何か別の感情が混ざって歪んでいた。
「レントレートさん……」
アイリーンが近づいてきた。
「素晴らしい戦いだったわ」
「ありがとう、アイリーンさん」
アイリーンは悔しさからか破顔する。
「けれど、今回はエドガー様がたまたま調子が悪かったのよ! あまり調子には乗らないことね!」
「ああ……そうかもしれないね」
レントレートは適当に応じる。
「貴方もよナナミさん! エドガー様の守護騎士がたまたま……!」
アイリーンがそうナナミを攻め立てようとした時だった。
「それくらいにしておけよ、アイリーン」
「なっ……! ミレイユお姉様……!」
そこには学園長のミレイユ・ブラッドムーンさんが居た。
「済まないなヴァエルくん。アイリーンには実力差が分からなかったらしい。
中庭を見下ろせる場所で見させてもらったよ。素晴らしい戦いだった」
「はい……いいえ。有難うございます学園長」
ナナミもペコリと学園長のミレイユさんにお辞儀する。
「守護騎士と共に珊瑚色腕章を獲得したことだし、明日からの授業は珊瑚色から真紅色クラスとなる……気張れよ! さぁ、行くぞアイリーン」
学園長はそう言って、まだ言い足りなさそうなアイリーンさんを連れて中庭を後にしていく。
「はい……ありがとうございました」
その背中にお礼を述べながら、クラス変更となることに些かの不安を覚えるレントレートだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます