吸血貴族と人間の守護騎士 ~母の遺言で雇った守護騎士が実は勇者と聖女の娘だった!? 彼女の血を飲み続けることで大幅パワーアップ。どうやら真祖の頂点も夢ではないようです~
成葉弐なる
1 十五の夜
朱い月が空を染める夜、レントレート・ヴァエルは一人15歳の誕生日を迎えていた。
レントレートは片田舎にある古城の一室の窓際で、儚げな視線を外の世界へと向ける。
その金色の瞳には期待と不安が入り混じっているだろう。
「母様……私は本当にうまくやれるのでしょうか?」
下級吸血貴族の末裔であるレントレート。
しかし2年前に亡くなった母は、レントレートにいつも強い期待を寄せていた。
『レントレート。貴方こそはトゥルーヴァンプたる真祖にもなれる子よ!』
そんな母の優しげな声が今も脳裏に浮かび上がる。
しかしそれはレントレートにとっては重すぎる使命にも思えた。
「レントレート様、失礼いたします」
「あぁ、爺やか。どうした?」
「実は……亡き奥方様より今宵にレントレート様に紹介するようにと仰せつかった者がおりまして……」
「母さんが……?」
レントレートは訝しげな眼差しを自室の入口へと向ける。
「入りなさい!」
「はい」
返事をして入ってきたのは、黒髪を一本の三つ編みにして白のリボンを付けた黒衣の少女だった。
見ればレントレートとさして変わらないであろう年齢。
しかし大型の剣をその背に背負っていて、レントレートへ向けてきた視線も初対面の相手に向けるにしては大分冷たいものだった。なんと冷たい瞳だとレントレートは思った。
「さぁ、ご挨拶なさい」
「はい……ナナミと申します。
ユーミリア様のご命令で本日からレントレート様の守護騎士の任を拝命しました」
「守護騎士だって? 君が私の?」
「はい」
レントレートが爺やの方を困った体で見やると、爺やも困った様子で自身の後頭部を撫でている。爺やとしてもこのような少女が守護騎士となることに困惑しているのだろう。
「分かるよね? 守護騎士ってのは学園に――ヴァンプリアナに入学するときに吸血貴族に帯同する使用人のことだ。君のようなか弱そうな女の子に務まるものじゃないと思うけれど……」
「しかし、ユーミリア様より仰せつかっておりますので……」
少女は譲らず、こちらへ引き続き冷たい視線を送ってきている。
それにしても、問題は――
レントレートは鼻を鳴らすようにクンクンとナナミの臭いを嗅ぎ、そして言った。
「それに……ナナミと言ったっけ? 君……人間だろう? 悪いけど何かの手違いか何かだろう……? 人間が吸血貴族の守護騎士だなんて……」
レントレートは残念なものでも見るかのように首をふる。
「それは戦闘力についてご懸念でしょうか? それでしたら……」
少女が気だるそうに右腕を振るったかと思うと、背負っていた大きな剣の切っ先がレントレートへと向けられた! まるで一瞬のことだった。切っ先を向けられて息を飲むレントレート。
「如何でしょうか……? 吸血鬼相手としても遅れは取らないつもりです。
それからこちらを……ユーミリア様からお預かりしておりました」
「母様から手紙……?」
封を切り中を確認するレントレート。
「レントレートへ。
貴方の守護騎士は母が用意しておきました。
ナナミと貴方ならばトゥルーヴァンプへときっと成れることでしょう。
それからヴァンプリアナに入学するまでの半年間、そして入学してからも母の教えを守りなさい。以下に、その教えの内容を綴ります……」
手紙の内容を確認し終え、レントレートはナナミの方へと向き直った。
「……どうやら本当のことのようだ」
「はい。ご理解頂けたようで幸いです」
「母様の蝋印も間違いないし、偽物とは思えない。
母様の言いつけじゃ仕方がないな……よろしく頼むよ、ナナミ」
レントレートが守護騎士となったナナミに少しだけ笑いかけると、ナナミもほんの少しだけ薄らと笑顔を返したかのようにレントレートには見えた。
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