第30話 花火。
ヒューがゆっくりと私の腕を離すと、「大丈夫……?」ヒューとフィーがほぼ同時に心配そうに私を覗きこみながら言った。
「うん、大丈夫。花火、つけられるかな」
「やってみて!」
「……指先?」
「いや、最初は手のひらでも大丈夫、上向けて、身体から少し離すようにして。小さめにね、ゆっくり。最初はちょっとみんなから離れて、海の近くでやってみようか」
フィーがカラフルな花火を一本渡してくれたので、それをリレーのバトンのように掴みながら、みんなから離れてジリジリと海へ近づいた。
それを二人で並んでしゃがみこんで、こっちを見ているヒューとフィーが可愛い。
私は左手で花火を一本持ち、右手の平を上に向けて魔力を集中させた。
フィーの魔力は流れがすばしっこくて面白かった。軽やかで鋭利な感じ。フィーっぽい。
「わぁぁぁ!」
手のひらに、予想外なぬるりとした感触が上がってきて、思わず声が出た。
ヒューがすぐに飛び出して私の方へと向かってきてくれた。私が手のひらを一度閉じて、またゆっくり開けてヒューに見せて「お湯、出た。あったかい」と言うと、ヒューはその場で膝から砂浜に崩れ落ちて笑い転げた。
「お湯?! あぁ、お水が温まっちゃったんだ」
フィーもそう言って大笑いした。アークもこらえきれずに噴き出していた。炎までの道のりは遠そうだ。咄嗟に左手を引いたお陰で、花火にお湯がかからなくて良かった。
それから、山盛りの花火に次々とロウソクで火をつけて、ひたすら花火を楽しんだ。
フィーが時折、花火から出る色とりどりの火を躍らせたり空高く舞い上げたりしてくれた。こんなに大はしゃぎをした花火は生まれて初めてかもしれない。
立ち上がる煙がステージの演出みたいにも見えて、時々とても幻想的だった。思い出とかって、こういうシーンで残るのかなと思ったりもした。
最後の花火に火をつけると、それをみんなで囲んでゆっくりと消えるまで堪能した。
「あーあ、終わっちゃったね」
フィーが寂しそうに言うと、アークがそっとフィーの肩を抱き寄せた。
後片付けが終わると、私は波打ち際まで行って海に手を浸し、あの時のお礼を伝えた。
兄さんたちが昨日来たのもうっすらと感じ取れた。
兄さんたちは、膿や山などの自然にすっと馴染んでよく好かれる。この海がとても喜んでくれているようで、私も嬉しくなった。ヒューはただそっと私の隣にいてくれた。
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