×あやしい数珠 ○見通しのブレスレット

 店長での実験で敵のつよさだいたいわかったし、リーチの長い頭の触手を前衛で押さえて、アタッカーのギムさんと周防くんが胴体を攻撃してしとめる狩り方で城を奥へ奥へとすすむ。

 城ってか迷路。

「めっちゃ迷路ですね」

「シーパラのデッ海よりも大きいね」

「なんすかそれ」

「迷宮アトラクション。6階建て」

「へー女の子と行ったら楽しそう。で、だれと行ったんです?」

「男陸のなかまに決まってるじゃない。周防くんはどうしてそんなこと聞いたんだい?」

「石動さんが男子と行ってたらいいなって思うじゃないですか」

「周防くん俺といこっか」

「バイト先の人といけるギリは最寄りのサイゼっすよー」

「最寄りのサイゼで味のないワイン飲める仲ならシーパラぐらい余裕でしょ」

「横浜でしょ? 交通費だけで二千円いくし、コミコミだったらサイゼ二回いけるっしょ」

「サイゼは神だねー」

「サイゼは神ですねー」

 ぼくらは笑顔で青春を語らう。

 そしてニョロスキーをボカボカたおす。

「ケンカしながら笑ってモンスター倒してる……あの、大学生のお二人って、もしかしてものすごいパリピなんじゃ……」

「すくなくとも、僕らとは違う人種だよ。二人とも頭がおかしいだけで、運動部所属だから体力無尽蔵だし、仕事はできるんだよ、すごく」

 聞こえてますよ店長。

「どうして僕だけに思うんだい?」

「心の声に返事するのやめてもらえます?」

「小さく声にでてるよ?」

 まじか。

「まじっすねー」

「それ毎回やらなきゃダメなやつなんです?」

 巨乳の新人さんがつっこんでくる。

「仕事じゃないんだから流してくれていいですよー」

 勤務中のダベリなんて退屈しのぎにほかならない。

 意味なんかないのだ。

「意味ないって言うなら僕を敵にむけて投げないでよ!」

「一番いい装備つけててそらないわー」

「ないっすねー。世界のどこでもまず最前列おくるわー」

 しゃべりながら5体めのニョロスキーをホフる。

 1on1ならめんどうだが、役割分担できるならそんなに大変なモンスターじゃない。

「ギムさーん、魔法のあやしい数珠? とかいうのの場所ってしってますー?」

「みとーしのブレスレット!」

「えーと、頭の中で地図は作ってますけど」

 知らないようだ。

「メモっといた方がよかったかな?」

「これ、わたしときますから使って」

 仕事用のメモとシャーペンをわたす。

「ありがとうございます。ああこれ便利ですね」

 ギムさんはそれを受けとって、すぐに使い方を理解した。

「芯がなくなったら反対側をノックして。出しすぎたらおしっぱでなにかに当てたら引っこむから」

 芯やノックという言葉が通じるかわからなかったけど、ギムさんはなれた手つきで教えたとおりにした。

「進みましょう。まずはこっちです」

 手もとをのぞくと、ギムさんは壁ではなくルートを線で書いてた。

 分かれ道は枝をはやして表記し、行きどまりは△でとじた。

 かしこい。

「あ、これ左手の法則」

 鬼城さんが言う。

「電気の?」

「迷路の」

「意味わかんないっす」

 周防くんがお手あげのジェスチャー。

「迷路の攻略法だよ。効率よくマッピングできるんだ」

「へーどうやって?」

「ずっと左手を壁につけるようにルート選んで、そしたら入り口にもどるかゴールにたどりつくんです」

「入り口にもどることもあるの?」

「ゴールとか宝箱が、まん中らへんにあるときは」

「あーそうかなるほど。めんどくさ! でもかしこ!」

 なんか穴だらけの説明で周防くんは理解したが、Fランの俺にはさっぱりわからない。

「ありました!」

 幸い15分もたたずにブレスレットが見つかった。

 なんか祭壇においてあった。

 どう見ても、あやしい数珠だ。

「あやしい数珠だ」

「あやしい数珠っすなあ」

「見通しのブレスレットです」

 ギムさんが手にとる。

「どうやって使うの?」

「もってるだけでいい」

「便利アイテムだなあ。ていうサギじゃね?」

「マホウのアイテムだぞ!」

「石動さん。1000円ぐらいの、つけるだけで燃費よくなる車パーツサギってしってます?」

「なにそれ?」

「あーイエローハットとかで扱ってたよね。燃費向上してパワーがあがるって題目で、消費者庁から注意受けてたやつ」

「うっひょークルマ興味ないからぜんぜんしらねー」

 とりあえずノリだけよく返事する。

「免許たらふくもってるくせにー」

「免許はなんぼでもほしいよねー」

 就職に有利になるしねー。

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