ダンジョンの贄 ~ニートの俺はダンジョンを鎮める生贄に選ばれてしまったけれど、力に目覚めたお陰で簡単に攻略が出来そうだ~

雨丸 令

第一章『竜の巣』ダンジョン

1部 ダンジョン攻略隊、壊滅

第1話 ダンジョン

「中部方面第14群231期ダンジョン攻略隊の諸君、おはよう! 私は国家防衛軍ダンジョン管理大隊所属、古川亜紀三佐だ。今日はよく我々の招集に応じて集まってくれた! まずは諸君らの献身に感謝を。……さて。今日という日はダンジョンという忌まわしい災害が我が国に誕生してから、丁度50年の節目の年にあたり――」


 俺達ダンジョン攻略隊の前で、一人の美人な女性が演説を行っていた。


 俺より10cmは大きな背丈。腰ほどまである美しい茶髪。胸も尻も大きく、溢れんばかりの色気を国家防衛軍の正装である緑の迷彩服でどうにか覆い隠している。


 端的に言って、とんでもなく美しい女の人だ。絶世、と言ってもいい。

 俺の人生で見た女性の中で、間違いなくトップクラスだと断言できる。


 そんなとんでもない容姿の人なのに……どうしてだろうか。


 綺麗、よりも先に。強そう、という印象ばかりを抱いてしまう。

 とても綺麗な女の人だというのに。一体何故だ。俺の目がイカれたのか?


「いよいよ入るんだな――ダンジョンに」


 ――ダンジョン。


 それは、丁度50年前に発生した新種の災害だ。


 発生原因は不明。詳しい仕組みも不明。


 無尽蔵に危険なモンスターを吐き出し続ける悍ましき災害。突如世界中に出現したそれは、人類社会全体に未曾有の被害を発生させた。今現在においてさえ。

 そしてそれは大陸から幾らかの距離があり島国、ニッポンでさえ例外ではない。


 生み出されたモンスター達は強力無比。


 地上に出現したモンスターの多くは神話や空想で語られる化け物であり、辛うじて銃火器や兵器での攻撃が効いたものの、討伐までに多くの被害が出てしまった。

 直接戦った国家防衛軍だけでけでなく、偶然居合わせた国民や地域にまで。


 政府はダンジョン外に進出してきたモンスターを掃討した後、ダンジョン内部に逆進行してモンスター発生原因を排除しようとしたが、その試みは失敗に終わった。


 ダンジョン内部では何故か銃火器がまともに使用できなかったからだ。


 使える事は使える。きちんと弾も出るし、故障した訳でもない。

 しかしモンスター相手に一切ダメージが通らなかったのだ。初見のモンスターだけでなく、ダンジョン外ではきちんと攻撃が通っていたモンスターでさえ同様に。

 ナイフやシャベルでの攻撃は効果があったが、焼け石に水だ。


 結果、ダンジョンに侵攻した部隊はあえなく撤退する羽目に。


 それから一年、膠着状態が続いた。


 このまま何も起きないのか?

 そう人々が気を緩めていると。


 ダンジョン出現から一年目のある日。

 それが起きてしまう。


 ――スタンピード。


 モンスターが狂乱状態でダンジョンの外に出てくる現象。

 この時のモンスターの凶暴性は最初の侵攻の比ではなかった。文字通り死に物狂いになって襲ってくるのだ。モンスターが。

 その眼に理性はなく、体には悍ましい赤黒のラインが浮かび上がっている。

 死ぬまで止まる事無く向かってくる、悍ましき異形の怪物。


 そして――ダンジョン内と同様に、銃火器が効かない。


 政府はなんとか殲滅に成功したものの、被害はあまりにも大きかった。

 地方都市の幾つかが壊滅。村落など、どれだけ消えたか分からない。


 何故こんな事が起きてしまったのか?

 調査の結果、幾つかの事が分かった。


 一つ、全てのダンジョンからモンスターが出てきた訳ではない事。

 二つ、スタンピードが発生したのは人里離れたダンジョンが多い事。

 三つ、僻地でも人の出入りが多ければスタンピードは起きていない事。


 以上の事から政府は結論付けた。


 即ち――人の出入りがなかったからスタンピードが起きたのだ、と。


 これは翻せば、人の出入りがあればスタンピードが起きないという事。

 この発見には大勢の人間が歓声を上げた。なにせダンジョンが発生してから悲劇ばかりが立て続けに巻き起こっていた。

 遂に悲劇を絶つ方法を見つけたのだ、と喜ぶのは当たり前の事。


 すぐさま各地のダンジョンには人員が送られた。

 新たなスタンピードを発生させない為の出入り要員として。


 人材は全てダンジョンのある地域から志願者を募った。


 もちろんダンジョンである以上、危険はある。

 だがこれが成功すればニッポンの安全が取り戻されるのだ。

 志願者たちは使命感を胸に、喜んでダンジョンへと赴いた。


 ……だが更に一年後。再びスタンピードは起きてしまった。


 それも、以前よりも遥かに酷い被害を各地に齎して。

 人が出入りすれば――という政府の判断は間違いだったのだ。


 政府は再度ダンジョンの調査を執り行った。

 今度こそ間違いのないよう、時間を掛けて入念に。


 そして……改めて結論を出した。


 “ダンジョン内で一定数の人間あるいはモンスターの死亡”。


 それがスタンピードを発生させない為に必要なものである、と。


「……うぅわ、こっわ。めっちゃ冷たい目で見てるじゃん」


 暇に耐えかねて周りを見ていると、冷たい表情の女の人と目が合った。

 緑の迷彩服。恐らくは演説をしている古川さんと同じ隊の人だろう。


 まるでゴミそのものを見るような目を俺達攻略隊に向けている。

 とても人に対して向けるようなものじゃないな、アレは。

 うぅ……。おかげでちょっとチビりそうだ。怖すぎだあの女の人。


「まあやっぱり、よく思われてはいないよな……」


 ダンジョン前広場。ここには今、何種類かの人間がいる。


 攻略隊として招集された人間。

 次に国家防衛軍所属の軍人。

 攻略隊に選ばれた者の関係者。

 興味本位で見に来た野次馬。

 最後にマスコミの連中だ。


 関係者の人間以外が俺達を見る目は正直、あまりよろしくない。

 ……まあ、それも当然と言えば当然ではあるが。

 攻略隊には社会の役立たずと判断された人間が集められているのだから。


「ダンジョンの贄……ね。分かりやすい」


 スタンピードを抑える為に必要なものが人間あるいはモンスターに死だと分かった当初、政府はどうにかダンジョン内でモンスターを討伐しようと奔走した。


 ……しかし、政府はどうする事も出来なかった。


 ただでさえ銃火器がほぼほぼ用をなさない中、前回と前々回のスタンピードによって、国家防衛軍どころか国全体が甚大な被害を被っているのだ。そんな状況で国内に無数にあるダンジョン全てで間引きを行なうなど、どう考えても人手が足りない。

 民間から協力を募ろうにも、モンスターは強力だ。戦いの心得がない者をダンジョンに送り込むのは、数多の民間人を崖から突き落とすのと何も変わらない。


 政府は苦悩し、必死に解決策を模索した。

 だが……悩んでいる内にタイムリミットが訪れた。


 三回目のスタンピードが発生したのである。


 三度目ともなれば慣れたもの。避難は迅速に行われた。

 しかし犠牲をゼロに抑えられた訳じゃない。

 銃火器は使えず、人員も不足している。

 新しく雇った新兵達とてとても万全だとは言い難い。


 結果前回前々回よりマシとはいえ、今回もかなりの被害を出してしまった。

 これにより――ニッポンの全人口はダンジョン発生前の半分になった。


 事ここに至り、政府は決断した。

 手段を選んでいる暇はない、と。


 そして制定したのである。

 ニッポンの歴史上最低最悪の悪法。


 【ダンジョン攻略隊招集法】を。


 社会で役に立たないと判断された者達をダンジョンに送り込む事で、それ以外の国民に被害が及ぶのを防ぐ――要するに、名前を変えただけの生贄制度である。


 もちろん建前としては名誉な役割、という事になってはいる。

 国を守る礎になるのだから。遺族には見舞金も支払われる。


 だが……たったそれだけで含まれた悪意を隠しきる事は出来ない。


「まあ仕方ないわな。俺、ニートだし」


 真っ当な社会人として働いていれば文句の一つも出てきたんだろうけど。

 一般の人達と違って、俺はこれまで一切仕事をした事がないからな。

 こういう時に真っ先に使い潰されるのは当然の判断、というか。疑問の余地が浮かばないくらいには順当な事だ。俺自身、特にそれに不満を覚えたりはしていない。


 それに何より――ダンジョンに入るのは案外楽しみだったりするんだ。

 だって一般人が入れない未知の世界なんだぞ? どうせなら楽しまなくちゃな。


「――諸君らによるダンジョンの攻略を期待する! 以上!」


 考え事をしている間に、古川さんの演説が終わった。


 よし、いよいよダンジョンへと突入する時間か。

 どんな場所なんだろうか。めっちゃ楽しみだな。


「それでは――中部方面第14群231期ダンジョン攻略隊、出発!」

「「「オォオオオオオオ――ッ!!!」」」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 読んでいただき、ありがとうございます!

 よければ、☆☆☆、フォロー、レビュー、コメント等をお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る