第16話

そして迎えた、婚約式典の当日。

リーウェルはその心の中にうきうきとした思いしか抱えていなかったものの、そんな余裕の思いはある時間をもって、終わりを迎えることとなる…。


「なに!?エリスが飛び降りた!?」


その知らせは、突然にもたらされた。

エリスが内心ではこの婚約を快く思っていないであろうことは、うすうす察していたリーウェル。

しかしそんな彼女とて、いずれは自分のもとに付き従うであろうと考え、強硬的な手段をとることもまたないであろうと油断していた矢先のその出来事だった。


「どうされますか、リーウェル様?」

「どうすると言っても…。起きてしまったことは仕方がない…」


リーウェルはその懐からタバコを取り出し、ひとまずその心を落ち着かせようと試みる。


「まぁ、飛び降りたとてあいつに死ぬほどの勇気はないはず…。どうせ大した高尾tにはならんだろう…」


この時はそれくらいにしか考えなかったリーウェルだったものの、彼は全く気づいてはいなかった。

この時すでに、彼の立場を終わらせるだけの運命がすでに動き始めていたという事に…。


――――


決死の思いで屋敷から飛び降りたエリス。

その体は、次の瞬間には誰かの腕の中に納まっていた。


そこで感じられるにおいや雰囲気、そして彼女の体を抱きしめるその温かい手。

それらすべての感覚に、女は覚えがあった。


「…え??…うそ…??」

「…なに勝手なことしてるんだ」


そこに現れたのはまぎれもない、クライス本人だった。

一体何が起こったのか理解できない様子のエリスは、自分でも頭の中が真っ白になっていくのを感じる。


「で、でもなんで…??ええ…??あなたはこんなところにいないはずで…」

「招待されたから来たんじゃないか。文句あるか?」

「しょ、招待??リーウェルがあなたを??一体どういうこと??」

「説明はあと。とにかくここから君を連れていくけど、文句はないよな?飛び降りてたもんな?」

「う……」


クライスは軽い口調でそう言葉を発すると、そのままエリスの体をある場所まで運んでいく。

屋敷から少し外れた位置にあるその場所には召し使い付きの馬車が用意されており、クライスは慣れた手つきで速やかにエリスを馬車の荷台に乗せると、そのまま自らもエリスの横に腰かけてそのまま馬を出発させたのだった。


――――


「いったいどういう事!!なんであなたが招待されてるわけ!」

「それは簡単。僕が隣国の皇太子だからさ」

「へ?」

「前に言ったでしょ、僕の家の場所。遠くも近くもないって」

「分かるわけないでしょそんなの!」


必死に抗議の声を上げるエリスだったものの、その表情はあまり本気で怒っているというわけでもなさそうだった。


「そ、それで私をどこに連れていくつもり…。まさかこのままあなたの国にってわけじゃ…」

「そうだけど、文句ある?」

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