第15話

それ以降も、ぎくしゃくとした関係が続いていた二人。

そんなある日の事、エリスはリーウェルの会社が主催するパーティーに参加することとなり、リーウェルに連れられる形で会場にその姿を現していた。

そしてリーウェルはそんなエリスの姿を遠目に見つめながら、その隣に取引先の人間を置き、こう会話を楽しんでいた。


「いやいや、それにしてもリーウェル様の婚約相手がこれほど美しいお方だったとは。さすが、セントレス社の御曹司様の夫人となられるだけの事はある。非常に麗しく、可愛らしい方ではありませんか」

「だろう?性格にはやや難ありなのだが、見た目は僕のドストライクだったんだ。案外僕も女を見る目があるだろう?」

「まったくでございます。リーウェル様は凡人たちにはまねできない素晴らしい仕事をこなされている。それを隣で支えられるには、あれくらいに魅力あふれる型でなければ務まらない事でしょう」

「ククク、相変わらず口が達者だなぁルベルト。そんな調子のいいことを言って、また僕から良い条件の取引を持ち出したいだけなのだろう?」

「おっと、これはこれは失礼を…。私、思ったことを素直に口にしてしまう癖がありまして、つい思わず…」

「はっはっは。まぁいいさ。お前との案件の内容、今一度精査しておいてやろう。もしかしたら臨時で報酬が得られるかもしれないぞ?」

「あ、ありがとうございます!我々としましても、セントレス社とは良い関係を築いていきたい所ですので、リーウェル様のお言葉は非常にありがたい限り!」


会場に置かれた豪勢なイスに腰かけながら、リーウェルはビジネス相手であるルベルトと談笑を行っていた。

その話題の中心は当然エリスであり、リーウェルの機嫌を取りたくて仕方がないルベルトはエリスの事をあの手この手でほめたたえながら、うまくリーウェルの気分を持ち上げていた。


その一方で、この会場においてどこか一人浮いてしまっているエリスの事を指さしながら、穏やかではない言葉を発する女性たちもいた。


「あれがリーウェル様の婚約相手?なんかあんまりパッとしないわねぇ」

「聞いた?あの女没落貴族の令嬢らしいわよ。どうりで華のない見た目をしているわけだわ…」

「没落貴族?それじゃあ完全に金目当ての婚約ってわけね。なかなか良い性格してるじゃないの、あの女」


小さな声でそう言葉を発するのは、エリスと同じく貴族令嬢の立場にある女性たちだ。

彼女たちの中でも、大金持ちの御曹司であるリーウェルがいったい誰と結ばれるのかという事は大きな関心が寄せられ続けており、こういった場においては常に話題の中心でもあった。


「分かるでしょう?リーウェル様の性格の悪さといえばかなり有名よ?私だったら絶対に嫌だもの。それを平気な顔して婚約するっていうんなら、その性格の悪さを我慢できるくらいに金が欲しいってことでしょ?」

「性格や見た目を好きになることは絶対にないものねぇ…」

「あーあ。あれくらいの図太さが私にもあったら、今頃お金持ちの夫人になれただろうになぁ…。ほんとうらやましいわぁ…」


どこまでも他人事な言葉を発しながら、リーウェルとエリスの事をあざ笑う彼女たち。

それらの言葉はエリスの耳にも届いており、彼女は口にこそしなかったものの、その心の中でこう言葉を返していた。


「(私だってあんな男と婚約なんて…。でも、逆らえないんだもの…。逃げ出すことも許されなくて、拒否することも許されなくて…。私にはただ彼を受け入れることしか許されていないんだもの…)」


するとその時、エリスの雰囲気を遠目に見ていたらしいリーウェルが彼女のもとに現れ、どこか楽しそうな表情を浮かべながらこう言葉を告げた。


「どうだいエリス、もうわかっただろう?誰もが僕たち二人の婚約に注目し、こうして話題にしてくれているんだ。ここまできてこの婚約をなかったことになど、許されるはずがないだろう?僕は大人だから君の心の準備ができるその日まで待ってあげるつもりだが、さすがにそろそろ意思を固めてくれないと、いい加減我慢してきた思いが爆発してしまいそうだ」

「祝うって…。私が彼女たちからなんて言われているか知っているんですか?」

「心配はいらない。彼女たちはただただ君に嫉妬してあんなことを言っているだけさ。女性というのはそういう生き物なのだろう?君が気にすることではないさ。君はただ僕の婚約相手として、堂々と僕の事を自慢すればいいじゃないか。きっと彼女たちだってその現実を理解したなら、何も言えなくなるとも」

「それは違います…。彼女たちは嫉妬しているわけじゃなくて、あなたの事を…」

「いいから!とにかく僕のいう事に逆らうんじゃない。そんな反抗的な態度が取れる立場ではないだろう?」

「……」


リーウェルは相変わらずと言った雰囲気でエリスの言葉を封殺し、自分の言葉を貫き通す。

彼女に対する思いなど、そこにはかけらも存在していなかった。

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