孤独

「何処に住んでる人?」


「海外」

そう言うとミミは目を丸くした。


「わざわざ来てくれたのに、会わないの?」


「うん。母の従弟なんだけど、母の葬儀で、

ものすっごく久しぶりに会っただけだし。それまで何年も会ってないのに、病気だからって会う必要ないかなって」


「でも……心配してた」


「………いつまで居るって?」


「明後日までホテルに。明日一緒に来るよ。いいね?」


ミミとはたくさん言葉を交わさなくても、彼は私の言いたい事を、私の意図を汲んでくれる。とても楽だ。


「俺の事、訊かれた」

そりゃそうか。三十三の独身女と二十一の若い男。変な取り合わせだ。


「何て答えたの?」

少し意地悪な質問をする。


「ん?同居人」


ミミの答えに少し笑ってしまった。素直な子。


「間違いないわね」


まさか、自殺を止められたからとは言えないわよね。


面会時間には制限がある。ミミはどことなく後ろ髪を引かれる様子で帰って行った。



この二ヶ月半。ミミと毎日、毎時間過ごして来た私はミミを見送った途端に心細くなってしまった。


夜寝る時に、腰が痛んでも擦ってくれる人はいない。

……私は今まで感じた事のなかった『孤独』というものを初めて感じていた。



見ず知らずの人だったから良かった。私の過去を知らない人だから良かった。私と縁が薄い人だから……関わり合いのない人だから良かったのに。

彼はそんな私に都合が良かった。


私はいつの間にか泣き出していた。最近涙脆くて困る。これは歳のせいなのか、それとも病気のせいなのか。

孤独がこれほど恐ろしいものだと、私は初めて知ったのだった。



翌日、ミミは私を訪ねて来た彼と共にやって来た。私は小さな頃から、彼を『英二兄ちゃん』と呼んでいた。私の祖母の妹の子ども。母の従弟だ。彼は私より十歳年上で、子どもの頃は、良く遊んでくれた。

祖父は私が生まれる前に亡くなっていたので、向こうの親戚とはもう交流はない。父は自分の家族と折り合いが悪く、一人っ子の母の元へ婿養子に来た為、これまた父方の親戚とも交流がない。


これが私があまり頼れる身内が居ない事の理由だ。こうして海外に住む彼に頼らざるを得なくなる程に。


「久しぶり」

と言うと英二兄ちゃんは、私の側に来て頭を撫でた。小さな頃、いつも彼は私を褒めると頭を撫でてくれていた事を思い出した。

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