死にたがりのうさぎ
初瀬 叶
出会い〈プロローグ〉
孤独とは。
意味を調べてみると
1 仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。また、そのさま。
2 みなしごと、年老いて子のない独り者。
らしい。
私はこれに当てはまるのか?
一人っ子で両親はもうこの世に居ない。
親戚と呼べる人はもちろん居るが住まいも遠く、疎遠と言えば疎遠。
だけど仕事もバリバリしてるし、友達だっている。悩みだって相談出来るし、愚痴だって聞いてもらえる。
推し活だって大忙しだ。
毎日忙しいし疲れるけど、幸せだと思える。
まぁ、幸せなんて自分の物差しだから、他人から見たら『家に帰っても一人でしょう?可哀想』って思われてるかもしれないし、『恋人も居ないなんてつまらない人生ね』と思われているかもしれない。『私は幸せだ』と言ったって強がってる様にしか見えないのかもしれない。
ちなみに今までだって、人並みに恋愛も経験しているし、彼氏だっていた。今、居ないだけ。ただそれだけ。
三十三歳。人から見れば孤独。そんな私の物語。
「癌……ですか」
最近腰が痛いな……と思って整形外科を受診した。
そうしたら内科へと回されて色々検査された。答はこれだ。
「膵臓癌は見つかりにくい病気です。症状が現れた時にはもう随分と進行している時もある。貴女の場合、遠隔転移が認められたので手術は適応外です。抗がん剤治療を……」
と言う医師に、
「抗がん剤治療をしなければどうなりますか?」
と尋ねてみる。
「貴女に残された時間が短くなります」
「しても治らない?」
「完治……は難しいかもしれませんが、今は様々な抗がん剤があります。貴女に合う、合わないはあるかもしれませんが、上手く行けば……」
「治療はやめておきます」
私は医師の話を遮ってそう告げた。医師はびっくりした様に、
「貴女はまだ若い。体力も気力もある。チャレンジして損はありませんよ。頑張りましょう」
と私の目を見てそう言った。嬉しいよ、そう言ってもらえるのは。でも、良いんだ。
「先生、私、いつ死んでも良いんです。あ、別に死にたいって訳じゃないですよ!両親も、祖父母も癌で亡くしました。自分もそうなるかな……って薄々思ってたんで。だから、毎日精一杯生きていたんですよ。今も。なので、そんなに悔いはないんです。もう見送らなきゃいけない人もいませんし」
と私は微笑んだ。
「若いという事は進行も早いという事。後悔しても遅いんですよ?あの時治療しておけば良かったって思っても手遅れになるんですよ?」
「先生、ありがとうございます。でも決めていた事なので。あ、痛いのも苦しいのも嫌なので、緩和ケアは受けたいと思ってます。今からホスピスに申し込む事は可能ですか?」
医師は諦めたのか、いくつかのホスピスを提案してくれた。
私の決断に反対する人はいない。いや……友達は悲しんで治療しないと決めた私を怒ってくれるかもしれないな。でも、私の人生の面倒を友達がみてくれる訳じゃない。そんな義務は誰にもないのだ。
病院からの帰り道、私はこれからの事を考えていた。私が死んだ後、ホスピスの支払いとか……どうしたら良いんだろう。調べておかなきゃな。
貯金はまぁ……ある。両親が遺してくれた家も。うーん……遠い親戚だけど、頼るしかないか……そう考えながら、横断歩道に差し掛かった。目の前の信号は赤。
すると私の前に居た男の子がフラリと車道へと歩き出した。
「危ない!赤ですよ!」
咄嗟に私は彼の腕を掴んで、止めた。
振り返った男の子……いや男性というべきか……は、私を見ると、
「死なせてよ」
と力なくそう言った。目は虚ろで私を見ている様で見ていなかった。
「待って!目の前で死なれたら寝覚めが悪すぎるし、かと言って見えてない所で死なれても、それはそれで気になるから!悩みでもあるの?とりあえず話し聞くよ!一回話そう」
と言って私は強引に彼の腕を引っ張って、近くのファミレスに連れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます