18.開拓の村②

「嬉し過ぎてつい朝からカツ丼とからあげを食べてしまった……」


「あ〜おいしかった……」


 朝に炊き出しを行った後、二人は、

またしても、カツ丼とからあげを平らげた。

 腹ごなしに村の様子を見て回ると


人だかりの中に、領主アルバドを発見した。



「先ほどはどうも、私も炊き出し頂きました。とても美味しかったです……。私が今まで口にした料理の中でも随一の粥でした……。体力もだいぶ回復致しました。ありがとうございます」



「喜んで頂けてよかったです……。おや、その方如何致しました?」



人だかりの中心には、腰を折り曲げ、痛みにじっと耐えている男性が居た。



「ぎっくり腰ですよ、整地、測量、建築、畑作りと仕事がたくさんありますからね、皆ユタカ殿の粥で、体力は回復したのですが、肉体疲労の方は流石にどうにもなりませんでした」


「コレばっかりはさすがに……。ですね……」


 ギックリ腰の男は、仲間達に担がれ、家へを送られて行った。


「ところで、昨日約束した通り、ロシィ殿に私の孫を紹介したいのですが……よろしいですかな?」


「はい、伺いますよ」



 用事を済ませ領主宅へ向かうと、屋敷から金髪の女の子が現れた。



「こちらが、孫のパメラです。パメラ、ご挨拶を」


「パメラ・シャムシールと申します。お見知り置きを……」



 礼儀正しく挨拶をするパメラは、ロシィとはまた違った可愛らしさがあり

まるで人形の様な整った顔をしていた。


「とても可愛らしいお孫さんですね、それに気品が感じられます」


「はっはっは、自慢の孫ですからな。パメラ、こちらは昨日話したユタカ殿とロシィ殿だ」


「ロシィ、私と遊びましょう」

「よろしいですか、ごしゅじんさま?」


「行っておいで」


「ロシィ、行きましょう!」

「はい!」



 パメラはロシィを連れて、中庭へ走って行った。


「子供はすぐに友達になれる、素晴らしい事ですね」


「まったくですな……」



 仲良く遊ぶ2人を眺めながら、気が穏やかになるのを豊は感じていた。



「領主様、ご報告が」

秘書らしき老人が静かに現れ、アルバドが領主の顔に戻った。

「何かあったか?」


「領内で水源が新たに見つかったのですが、それが妙なのです」


「妙とは?」


「はい、水温が高く、独特な臭いを発していると……」


「日用水源として利用可能か、水質を調べる必要があるな……」



 【高い水温に独特な臭い】という点に

豊はある可能性を感じていた。

「あの、その水源は何処に?」


「村からそう遠くない、裏の山の麓にあるとの事です」


 ロシィを預けて水源の調査に同行した豊。

村の裏側の山から少し山道を登ると、話にあった水源が見えた。


 触って確かめると確かに水温が高く、独特な臭いが確認できた。

豊は辺りを調べると

この水源とは別に、合流している僅かな水流があるのを発見した



「この水流がここに流れ着いたのか……僕の考えが正しければ……」


 豊が見つけた僅かな水流を辿り、

山道を登って行く、歩き続ける事しばらく


 僅かに湯気が立ち上っているのが見え

そこには巨大な岩が聳えていた。


「湯気は岩の下から出ていますね、魔術を使いますので下がってください」


「第二の術!」【クイックアップ】



 持ってきた鶴嘴つるはし

岩の一点のみを集中して突き入れる。

衝撃が岩に伝わり、拡散する前にもう一撃


それを繰り返す事で、一点に蓄積した衝撃は

クイックアップの終了と同時に爆発した。


轟音を響かせて岩が崩れるのと同時に、大きな地響きが起きた。


【ドドドドドドドド!!】



 岩の下から現れたのは、紛れもなく温泉の源泉であった。

勢い良く噴き出した温泉は、次第勢いを弱め、

砕けたまわりの岩が、それをせき止め、天然の露天風呂になった。



「これは一体……」

領主や領民一同が、呆気にとられていると、豊が疑問に答える。


「これは温泉と言い、自然に出来る風呂の様なものですね」


「風呂?風呂とは貴族や王族の家にしかないというアレか?」


「そうです、これには身体を温め、解し、身体の痛みを和らげたり病に効いたりと様々な効果が望めます。言うなれば魔法の湯、といったところでしょうか」


「だとすれば大発見だぞ……我々は大変な資源を手に入れた訳だ……!……いやしかし、先ほどの水源ならともかく、ここから村までは距離が……」


「その辺はご心配なく」




 源泉を発見して二週間

豊は、第四の術【時を駆ける創造】を用いて木から水路

土と石と粘土で、土台と巨大な露天風呂を村の中に作った。


 水路は簡易なものだが、源泉が山にあるので

高さを試行錯誤しながら村までお湯を引くことに成功した。


 源泉の温度が高いおかげで、水路を流れてくる間適切な温度になり


 ちょっと熱めの露天風呂が完成した。

途中温泉の中継地点を作っておく事で

後から水路を足して、各所に温泉を流せる様にも工夫を施した。



 温泉は領民の疲れを癒し

衛生面も改善することができた。


 村の開発が進めば、ここは温泉の村として観光地になる事だろう。



 この計画を実行する前に豊は国を巻き込んで

領主ととある契約を交わしていた。

露天温泉、水路の設計。設置等により今後未来。


 村にもたらされた莫大な利益の一部を

豊が立ち上げた組織である、フォルトゥナ教団に寄付するという契約書だ。


 女神フォルトゥナは実際、

この世界に神を何柱か作ったが


 うっかり、自分自身を神として人類に認識させていなかったが為に

フォルトゥナを信仰する団体が存在しなかったので

豊が世界初フォルトゥナ教創設者という事になった。



 創造神でありながら、誰も女神を信仰してくれていなかったという悲しい話だ。


今まで「フォルトゥナ神の使い」と言ってきたがみんなの認識では

「そんな名前の神様もいるの?神様っていっぱいいるんだなぁ」という話である。


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