フォルトゥナ戦記

メアー

救済の旅編

1.女神様との出会い

「うぅおぉおおぉおおぉおぉお!! トイレトイレトイレーーーーッッ!!!!」


 人間としての尊厳、積み上げてきた人生を賭け、

今、トイレを求めてスマートに歩く僕は


 大学に通う、ごく一般的な男の子。


 強いて違う所を言えば、美少女が大好きで性欲が強いってところかな。

名前は北条豊ほうじょうゆたか、清らかなるおのこである。


 早速、公園のトイレに駆け込んだ僕は間一髪、現代社会における

人間として、尊厳とプライド守ることに成功したのであった。


「よーし、いい子だ。そのまま……慌てるんじゃないぞ……!」

この口調の人、ハッカー以外で初めて聞いたな。(突然の冷静)


 途中、焦りからか、ベルトとズボンが外れなくなり、

括約筋と大殿筋をフル活用。足をクロスさせることで、

万力の様にケツを引き締め、事なきを得た。


 次の瞬間、公園の片隅に備え付けられた小さな個室トイレに、

満開の花が咲き乱れる。助かった……!助かった……!


 あとは、尻拭いをして……僕のケツは僕自身が拭う!!


  極度の緊張から解き放たれ、意気揚々と言い放った傍から、

致命的な不幸が僕を襲う。


 無意識に腕を伸ばしたその先で、掴もうとした手は虚しく空を切り、

乾いた音がカラカラと小さく主張する。


 おもむろに目を向け、受け止めがたい真実が僕を襲い、

全身に身の毛がよだつ冷気と衝撃が走った。


「あっ!! あっ!! アァー!?」

なんてこった! トイレットペーパーが無いではないか!!


 著しく冷静さを欠き、混乱状態へと陥った僕は、

無意識のうちに手を組み合わせ、心の中で祈った。


 おぉ、紙よ……いや 神よ……なんたる不幸!

こんな時に限って、ポケットティッシュは在庫を切らしている。


 しかも、このトイレは公園でありながら、

今の時間帯は人の利用が少ない。


 周りに人が居ると集中出来ない僕からしてみれば、

至極当然の選択ではあったが、コレは想定外。


 壁に残された張り紙には『トイレットペーパー持ち出し禁止』の文字が、

大きく記されていた。憎い……この世の悪が憎い……!


 まさかこの様な結果を招くとは……。

いや、予想は十分可能な範囲内だったが


 僕の絶対不可侵領域、肛門が限界寸前状態であったのが、

冷静さを失わせたのであろう……。


 こんな事で現実逃避していると、突如、一筋の光がトイレの窓からさした。


 これは決して、比喩表現ではない!

トイレの個室内は、神々しい光に照らされている。

そこに、人ならざる声が頭の中に響いた。


『人の子よ……お困りの様ですね……』


 こんな時に、女神様が現れたのである。


「おぉ……神よ……!」

 信仰も薄き文明が発達し、全ての事象が科学で解明される現代社会に

今、奇跡が起きたのである。


『あなたの尊き祈りが、女神であるこの【フォルトゥナ】に届きました。さぁ このトイレットペーパーをお使いなさい』


 どこからともなく、僕の手に二枚重ダブルのトイレットペーパーが現れた。


「ありがたや……ありがたや……」

 その恩恵はほのかな香りに加えて

とても柔らかく、優しく

僕の大事な個所を浄化してくれたのだ。


『これで契約成立ね♡』


 それが女神、フォルトゥナ様との出会いであった。

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