『リィフの告白と、ディアの封印』(4)

それに対する魔王の答えは、アイリが生まれる前から、すでに決まっていた。

魔王は、『娘ができたら、ディアにやってもいい』と、遠い昔にディアに宣言していたのだ。

それは、王妃アヤメに片思いをしていたディアに対する、魔王の情けだったのか……?

今となっては、それがアイリとディアの運命の恋に繋がったのかは分からない。


「いいぜ、好きにしろ」

「はい。ありがとうございます」


短いやり取りではあるが、これで結婚の許可を得た事になる。

願いが通って、ようやく肩の力を抜いたディアだが、魔王はニヤリと笑って衝撃の一言を放つ。


「てか、『封印』って何の事だよ?」

「……はい?」


突然の魔王のすっとぼけ発言に、ディアは意表を突かれた。


「以前、魔王サマの魔法で、私の『恋愛感情』を封印して頂いた件ですが」

「ハァ?記憶にねえなぁ〜」


わざとらしい魔王の口調に嫌な予感がしたディアは、何かに気付き始めた。

両手の拳を握りしめて、全身がプルプルと震えている。

恐怖でも悲しみでもない。怒りに震えている。


「魔王サマ、どういう事でしょうか。確かに封印しましたよね?」


ディアが、こんなドスの効いた声で問い詰めるなんてレアだ。

クールなディアが感情的になるだけでも珍しい。


「あぁ、アレは封印した『フリ』だ。テメエが封印してくれって、うるせえからなぁ」

「封印してなかった、という事ですか……?」

「恋愛感情だけを封印する魔法なんてあるかよ。それにオレ様は、未成年のアイリに手を出すなとは言ってねえぞ」


魔王自身は、17歳のアヤメを娶ったからだ。

魔王にとって年齢は問題ではなく、むしろ学生であっても自由な恋愛を推奨していた。


「で、では……私の恋愛感情というのは……」

「テメエが勝手に我慢してただけだろ。いつ理性が崩壊するか見ものだったぜ、ヒャハハハ!!!」


なんという極悪な笑い方をする悪魔だろうか。

魔王はディアの恋愛を封印したフリをして、アイリに恋のアドバイスをしていた。

それは、いつかディアの理性が負けて、アイリに手を出してしまうであろう様子を見て楽しんでいたのだ。

……結果的に、ディアは苦しみながらも今日まで理性を保った訳だが。

そんなディアの苦悩でさえ、天下の魔王にとっては娯楽でしかなかった。


「ま、ま、魔王サマぁーーーー!!!」

「お、なんだ、反抗的だな。オレ様に刃向かう気か、面白ぇ」

「今日という今日はぁーーーーッ!!」


この時ばかりは、本気で下克上を考えたディアであった。

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