『リィフの接近と、アヤメの魔法』(6)

……その瞬間。


バリンッ!!ビキビキビキッ!!


アイリが両手で覆っていたビーカーが破裂し、そこから猛烈な勢いで氷柱が立ち上った。

それは木のような太さで、鋭利な刃物のように鋭い。

複雑に枝分かれしながら天井を貫く勢いで成長していく。

それに驚いたのは、アイリ自身。


「えっ……!?な、に……止まらない……!!」


アイリは慌てて手を離し狼狽えるが、氷柱の成長の勢いは収まらない。

アイリは、魔王の魔力を完璧に受け継いで生まれた故に、魔界一の魔力の持ち主。

その強大な魔力を制御しきれずに、アイリの意志に反して暴走している状態だ。

それに気付いたディアが、両腕を伸ばして手の平を氷柱に向けた。


「アイリ様、アヤメ様、お下がり下さい!!」


ディアが氷柱に向けて魔力を放出すると、一瞬にして氷の成長は停止した。

……それは、まるで時が止まる魔法を使ったかのようだ。

だが次の瞬間、僅かに天井に触れた氷柱の枝がパキっと音を立てて折れた。

つらら状の鋭利な氷が、その場で呆然と立ち尽くすアイリ目がけて落下していく。


「アイリ様!!」


とっさにディアは自分の体を盾にアイリを庇おうとするが、一瞬遅かった。

なんとかアイリの体を氷の矢から逸らす事が出来たが、その刃はディアの頬をかすめた。


「……っ!!」

「ディア!!」


僅かに顔を歪めたディアを見て、アイリが叫ぶ。

ディアの整った顔に切り傷が刻まれ、白い肌に血が滲む。

だが、ディアはすぐにそれを片手で覆って隠した。

目の前で涙目になって自分を見上げているアイリに見られないように。


「ディア、ごめんなさい……私、なんで、こんな……」


アイリは、なぜ急に魔法が暴走してしまったのか、自分でも分からずに戸惑っている。

それでもディアは優しく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。問題ありません」


ディアにとっては、この程度の魔法を止める事も、切り傷も大した問題ではない。

それよりも心配なのは、壊れてしまいそうな程に弱く繊細なアイリの心の方だから。

アイリがディアを心配して一歩近付こうとすると、横からアヤメが入ってきた。


「ディアさん、大変!すぐ手当てしなきゃ。保健室に行こう」

「アヤメ様……いえ、この程度は……」

「血が出てたし、ちゃんと消毒しなきゃ、めっ!!」

「……承知致しました」


強引なアヤメに負けたというよりは、ディアは王妃アヤメの命令を決して拒めない。

アイリを残して、ディアとアヤメは教室を出て保健室へと向かう。

教室を出る時にディアが心配そうに振り向くが、アイリは顔を俯かせて立ち尽くしたままでいる。

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