『アイリの魔法と、ディアの補習』(7)

狭いベッドで向かい合って寝ると、ディアの顔が至近距離に迫る。

白い肌、ブルーグリーンの髪、金の瞳、優しい目元……

アイリの栗色の瞳に映し出されるディアの全てが、鮮やかで美しく愛しい。

アイリはさらに近付いて、ディアの胸に顔を埋める。


(ディアの……シャンプーの香り?石鹸かな?いい匂い……)


ドキドキしすぎて眠れないと思いきや、あまりの心地良さに、アイリはすぐに眠たくなった。


(ディア……好き……大好き……)


もっとディアを見ていたかった、『おやすみのキス』したかったのに……

こんな、はずでは……そう思いながら、眠りに落ちた。


寝息を立て始めたアイリを抱きしめたまま、ディアは目を閉じて指先を少し動かした。

すると部屋の電灯が消えて、完全な暗闇になった。

アイリを起こさないように、魔法で電灯を消したのだ。

そして眠るアイリの耳元で、聞き取れないほどに小さく囁く。


「おやすみなさいませ、アイリ様」





しかし、この添い寝が『一夜の過ち』になるとは……

この時は、誰もが……この二人ですら、思いもしなかった。






そして、朝。


布団の中で一人、アイリは目を覚ました。

一緒に寝ていたはずのディアがいない。


(あれ……?ディア……?なんで、いないの……?)


アイリは上半身だけ起き上がって、朦朧とした意識の中で考える。

寝起きの頭で状況を理解するのには時間がかかった。

ああ、そうか……。アイリは、ようやく分かった。

ディアは朝、起きるのが早い。

アイリを起こさないように、ディアは一人で起きて静かに部屋を出たのだ。

『魔王の側近』が本業であるディアは、朝から晩まで忙しく働いている。

そのため遅寝早起きだが、魔獣は睡眠時間が短くても大丈夫らしい。


(おはようのキス、してみたかったのにな……)


まだ恋人でも夫婦でもないが、早くも生活スタイルのすれ違いに寂しさを感じるアイリであった。


(一緒に寝るのは、まだ早かったのかな?)


添い寝は、もっと親密になってからする事だと、事後になってようやく気付いた。

それに……キスだって、本当はディアの方からしてほしいと思う。


私がディアを好きなのと同じくらい、ディアが私を好きになってほしい。

いつか、ディアの方から『愛してる』って告白してほしい。

そのためには、こんな強引な方法じゃなくて、もっと自分が頑張らなきゃ!!


これまでの恋の悩みが嘘のように、貪欲で前向きな姿勢になるアイリであった。





しかし、このただ一度の添い寝が、『一夜の過ち』であった事実を……

すでにディアと『一線を越えてしまった』事実を……

さらに恋心を狂わせていくという事実を……

この時のアイリは、まだ知らない。

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