『アイリの魔法と、ディアの補習』(6)

上目遣いで放たれるそれは、アイリの可愛さが最大限に付加された『おねだり』。


「ディア、お願い……だめ?」

「いえ、その……アイリ様はもう高校生ですし、さすがに、それは……」


少しは大人扱いをしてくれているらしい。

明らかに困惑しているディアに対し引く事なく、アイリはさらに押しを強める。

ここでアイリは、魔王の助言を思い出した。


「えっと……これは、私の『命令』なの……」


『命令』だと言ってしまえば、ディアは決して逆らえない。

ディアは、魔界の王族全員と『絶対服従』の契約を交わしている。

ディアにとっては当然、アイリの命令も絶対。

本当はアイリも、強制的にディアを服従させるような事はしたくない。

多少の罪悪感もあるが、ここで強く押さなければ、いつまでもディアには近付けない。

とは言っても、アイリの上目遣いの『命令』という言葉は、可愛らしい『お願い』にしか聞こえない。

真面目なディアは、礼儀正しくアイリの正面で深々と頭を下げた。


「はい。承知致しました」


それは堅苦しい態度ではなく、優しい微笑みでの同意であった。

そこにディアの感情が見えたアイリは嬉しくなって、そのまま先にディアのベッドに上がる。

そして躊躇する事なく布団の中に入り込む。


(ふふ……ディアのベッド、ディアの布団、ディアの匂い……)


アイリは布団の中でゴロゴロと転がって、全身でディアを感じた。

そんなアイリをしばらく見ていたディアが微笑みながら近寄る。


「アイリ様、そろそろ私も失礼致します」


そう言ってディアもベッドに上がって布団に入り、アイリの隣に寝る。

ディアが一人で寝るためのシングルベッドは、二人で寝るには狭い。

だからこそ、二人は必然的に密着して寝るしかないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る