『アイリの魔法と、ディアの補習』(2)

それでも脳内テンションの高いアイリとは逆に、ディアは深刻そうな表情で向かい合う。


「アイリ様がご卒業できますように、私もお手伝い致しますので、頑張りましょう」


このまま行けば卒業できずに留年という事もありえると、ディアは遠回しに伝えている。

だが、未だ目の前のディアをうっとり見つめるアイリの思考は……


(卒業できなければ、ずっとディアの授業を受けられるし……いいかも)


側近の心、王女知らず。魔王の娘が留年希望という、まさかのトンデモ思考であった。

そうはさせまいと必死で真面目なディアは、今日も気合いを入れて補習を開始する。


「それでは、今日は『氷』の魔法の復習を致します」


そう言って、ディアは小さなビーカーを片手で持ってアイリに見せた。

手の平に乗るサイズのビーカーには、水が半分くらい入っている。


「水の温度を低下させて、これを凍らせます」


ビーカーを持つディアの片手から、魔力の白いオーラが立ち上って見える。

すると、ディアの持つビーカーの水面の揺らめきが一瞬にして静止した。

まさに、時が『凍りついた』ように。

ディアがビーカーを逆さまにしてみせるが、完全に氷と化した水は落下せずにビーカーの中に留まっている。

これが、『氷』の魔法のお手本だ。


「それでは、アイリ様。同じようにやってみて下さい」

「うん、分かった……頑張るね」


アイリは自分の机の上に置いてある、水の入ったビーカーを両手で包む。

魔王の魔力を完璧に受け継いで生まれたアイリには、魔界最強とも言える魔力が備わっている。

だが、その力が強大すぎる故にコントロールが難しい。

この授業は、魔力を抑えてコントロールするための、基本中の基本。

言ってしまえば、魔界の中学生で習うレベル。

そこまで遡って復習しなければならないアイリの現状に、ディアは危機感をも抱いている。


「もっと力を抜いて、リラックスして大丈夫ですよ」


そう言って、アイリの机の前まで来て優しく微笑みかけてくるディア。

アイリは緊張が解けるどころか、溶けてフニャフニャになってしまう。

ディアの優しさは、逆効果。ディアに恋するアイリにとっては、あらゆる雑念を生んでしまう。


(うぅ……ディア、氷、カッコいい……力を抑えて、氷、こおり……)


もはやディアに対する熱い恋心と、氷の魔法を念じる言葉が脳内でミックスされている。

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