ヒカリサザンカ
天錺パルナ
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あなたは夢の中にいる。
その世界において、あなたの成績は学年トップで、バスケ部のキャプテンと付き合っている。親しい友人から茶化されることもあるけれど、校内の見解として「お似合いなカップル」認定を受けている。
家はシンデレラ城みたいに豪華だった。上品で穏やかな両親と使用人さんと大きな犬がいる。喧嘩なんてしない。近所からは理想の家族像として羨ましがられている。
それが時々、あなたを息苦しくさせる。まるで世間が、自分にたいして模倣的な立ち振る舞いを強いているように感じてしまって。
とはいえ、概ね充実した人生。文武両道に容姿端麗というハイスペックJKのあなたは男女問わず憧れの的、教師からの信頼も厚い。
唯一あなたが納得いかない点は、喧嘩っ早くて男勝りな性格まで忠実に再現されているところ。
(あたしなりに、そういう感情は我慢しているつもりなのに……)
なんて律儀な夢だろう。あなたは鼻息を荒げご立腹モード。しかしまあ、正義感が強くて感受性豊かなところもちゃんと引き継がれている点を考慮し、なんとか心の安定を図れている。
あなたは夢の中で、ばら色の学園生活を謳歌している。非の打ち所なんてない、順風満帆な人生のはず。きっと誰が見てもそう思う。あなた自身もそう思っている。「こんなに恵まれていていいの?」って。
それなのに。
そのはずなのに、あなたの心は充分に満たされていない。ただ漠然と、何かを忘れているような感覚に付き纏われている。正体は何?――分からない。
分からないといえば、彼もそう。最寄り駅のホーム、校門前の花壇、休み時間の美術室、空き教室から眺める放課後の夕陽など、あなたの脳裏を次々とよぎる記憶のピースの数々。
それらの短いイメージの中で、必ず彼がいた。野良猫みたいな寝癖がぴょこんとはねている、フレームのぶ厚い眼鏡をかけた地味な男子。猫背のせいで表情は読み取りにくい。
(君は誰? これは幻なの?)あなたは心のなかで問いかける。返答はない。(あたしの声……聞こえてないの?)
謎の彼は、あなたのイケメンの彼氏とは対照的で、なんだか頼りない、いまいち冴えない人。あなたが嫌いそうな表現で例えちゃうと、陰陽の“陰”側に属するタイプ。
それなのに、彼をイメージしているときのあなたは、不思議と懐かしい安心感を覚える。居心地が良すぎて戸惑うレベル。ちょっと、油断ならない。普段は隠している内面の嫌な部分まで曝けてしまいそうで。
あなたの心配なんてお構いなしに、彼はあなたの隣を歩いている。ぼーっと雲を眺めたり、欠伸をして眠そうに眼をこすったりして。よく見ればワイシャツのボタンもかけ違えている。
(はーあ。君はいいですね、お気楽そうで。こっちの苦労も知らないんでしょ? まったくもう……)
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