第14話 観覧車キスと鬼退治

 お土産屋さんに早めに入って民代さんに何か買ってこうと優平くんは言って、ご当地キャティちゃんでいいかと適当に選んでいた。


「何か欲しいものある?」

 と言われてお金を持ってない私は店内の沢山あるものに目を回す。どれと言われても…。


 すると店内の恋人たちは2人で同じ耳付きの帽子を被っていたので成る程と学習して


「ではあの帽子お揃いで被りたいです!」

 と言うと優平くんは


「おっ!おああ!ハードル高っ!!」

 と言ったが結局折れて買ってくれた。


 それからオヤツもとても甘いパフェというのを食べて卒倒しそうになる!この世にこんな甘いものがあったなんて!!


「鈴さん大丈夫?今度うちでも出すからね!!」

 気をしっかり!と揺さぶられていると店員さんが


「カップル向けのサービスドリンクです!」

 と一本のストローがハート型で吸口が二つ付いてるものを置いていった。


「カップルじゃなくて夫婦だけど…まぁいいですよね」

 と周りを見るとカップルは顔を寄せ合い飲んでいる。よく見るとテーブルの下でモゾモゾ何かして…


「鈴さん!!先に飲んで!!ほらっ!」

 とグキっと顔だけこちらに向かせられる。

 2人で飲むんじゃないのかな?

 と仕方なくチューっと吸うと赤くなる優平くん。残りを渡し彼も飲んだ。やはり赤いまま。


 優平くんは時間を見て


「そろそろ観覧車に乗って帰ろう。ちょっと早くてごめんね?」


「うん、仕方ないよ。夕方には戻るって約束したんだから」

 と私が言うとすまないねと頭を撫でる。

 ……でもデートの定番観覧車!!ドラマでは恋人達は必ずキスしていたから、あそこはもうキスする場所で間違いがない!


 順番が来て優平くんと観覧車に乗り込み隣に座ると


「えっ!!?なんで向こうに座らないの??」

 と言うから


「?ここで合っていないのですか?だってここキスする場所でしょ?」

 と言うとあんぐりとしてハッと正気に戻った優平くん。


「い、いやあの、それはドラマで…!いやあの、それは確かにしてる人も結構いるけど、み、みみ、見えたら嫌なんだけど!そそ、そのほら…!本来は景色とか…」

 と煮えきらない。


「………」

 私はそっと目を閉じて待った。

 ゴクリという音が聞こえ、なんか震える指が唇や後頭部に添えられ


「鈴さん…。あんまり僕を…誘惑しないで…」

 とついに唇は重なる。

 今までで1番上手いキスをされる。

 あんまり上手いから唇が離れたら


「優平くん…。誰かとキスしたの?上手くなってるよ!!?どういう事!?」

 と責めると


「はあ!?す、鈴さんとしかしてないよっ!!バカだね!もう!」

 と少し怒ってコツンと額を指で小突かれた。

 服の裾を持ち上目遣いでもう一回と無言でねだってみると赤くなりつつも要望に応えて優平くんはキスをしてくれた。寄り添いながら観覧車を降りていく私達。優平くんは真っ赤なままだ。

 私は幸せで溶けそう。優平くんのことが好きで堪らない。


「優平くん」


「な、何?」

 とどぎまぎしてる優平くんに聞いてみる。


「帰ったら子作りする?夫婦だから…」


「だっ!だからそういうのはダダダダメ!!!」

 と照れた。


「えー…?ドラマではデートの後…」


「そういうのはドラマを参考にしちゃダメ!!」

 と言われて、少し早い時間に遊園地を出て帰る。この指輪のおかげで角は出なかったし、ほんとに術が効いてるんだと思った。


 しかし…不味いことに帰りの電車に乗ってしばらくして落石事故発生のアナウンスが流れて復旧まで2時間かかると知らされた。


「不味いな…2時間か…。復旧してもバスの時間が…」

 とスマホの時計を見ながら優平くんは焦る。

 このままじゃ電車を降りるころは夕方!夜になるのは早そうだ。


「バスに乗っている時に鬼門が現れたら最悪だ。バスには乗れないか…。くっそ…!落石事故め」

 と言う。私のせいだわ。


「ごめんなさい…。私がデートしたいって言ったから…」


「鈴さんのせいじゃないんだよ…?僕も初めてデートして楽しかったよ…」


「初めて?」


「女の子と行ったの…。デートしたの初めてだよ」

 と照れる優平くん…。嬉しい。

 優平くんは頭を撫でてため息をついて真剣な表情になる。


「これから鬼退治することになる…。鈴さんは僕が守るから!」

 と両手で握られる。車内には人は少ないから見られない角度だった。


「私…どうすれば…」


「大丈夫、君には十二神将の1人を付けておこう。それなら万が一でも鈴さんが狙われた時に対処してくれるから!僕のことは心配しないでね!」

 といつもよりなんか頼もしく感じる。絶叫系では優平くんダメダメだったのに陰陽師モードになると何故かキリっとする。そ、それもカッコいいからいいんだけど。


「怪我しないでくださいね?」

 私にもできることがあればいいのに。ただの鬼娘として人の暮らしをしてきた私は闘い方は知らない。優平くんは訓練すると言ってたけど。


「うん!……あ、そうだ。


 戦闘中、僕ちょっとおかしくなるかもしれないけど…、き、嫌いにならないで欲しいな…出来れば」


「私が優平くんのこと嫌いになんかならない!」

 とそれだけは強く言うと彼はまた照れて


「んっ…。そ、そうか…良かった…」

 とホッとして電車はついに復旧し、動き始めて降りた時は、やはり夜に近い夕方だ。今からバスに乗っても無駄だと判断した優平くんは歩いて帰路に着く。途中で木札を取り出し鬼神の1人を呼び出した。


「天后!鈴さんの護衛を宜しく頼みます!」

 と木札から出てきた鬼は筋肉質で赤いチャイナドレスを着た男?いや…でも化粧してる!?女!?ドラマやバラエティとかにたまに出てくるオネェと言うのに似てる!!


「あらん、こちらがご当主様の愛しのハニーってわけね?よろしくねっ!鈴ちゃん!あたし、天后よ!めんど臭いから天ちゃんて呼んで」


「はい。よろしくお願いします。鈴です」

 と引きつる。こんな格好の男なのか女なのか判らない鬼神もいるのね。


 歩いているうちに陽が沈みだし、夜が訪れた時、私は禍々しい気配を感じた。地の底から何か得体の知れないものが迫りくる感覚。


「来たね…天后、鈴さんを守っていてね」

 するとズズッと地響きがしたと思うと地中から禍々しい瘴気を放つ門が現れた!


「あれが鬼門よぉ」

 と天ちゃんが私を後ろに庇いながら言う。

 優平くんはリュックから2本の剣を持ち出して握る。すると優平くんの雰囲気が変わった!


 鋭い血走ったような目つきになりニヤリと口元を歪めて笑い、


「鬼さんこちら~♪手の鳴る方へ~♪」

 と童歌を歌い、ガチンと剣先を合わせた。

 すると鬼門がギギギと開き、恐ろしい何かが出てくると感じた!!


 扉から出てきたのは赤い鬼だ。いや、鬼と言っていいのかしら?人の形はしていない。ブクブクと醜く膨れ上がった獣みたいな4足歩行の肉の塊で、頭が大きく目が顔いっぱいに一つギョロリとついていて、そして口は身体中にいくつも付いていた。


『ゲラゲラ…土御神ぃぃぃ!!寄越せ寄越せ寄越せその血をっ…身体を…心を…我ものにゲラゲラ…』


「おやおや赤鬼さんか…貪欲の醜い塊め。俺が欲しい?生意気なっ!この俺を欲しがるのは鈴だけで充分だ!」

 と剣を構える。

 えっ!!?


 なっ、何?あの方は一体誰!?


「ふはふ、鈴ちゃんはあっちモードに入った、ご当主様見るの初めてかしら?」


「知りません…あれが優平くんだなんて…普段と全然違う!!」

 とそこで赤鬼がこちらに獣のように走ってきた!!


 薄ら頰を染める優平くんは恍惚になり


「ヒャハハハ!いいね!いいね!欲望!剥き出し!!嫌いじゃない!俺が喰いたいか?喰ってみな?」


『ゲラゲラ!喰いたい喰いたい喰いたい喰いたい!!』

 赤鬼の口から赤い手が何本ともなく出てきてそれを白い輝く剣で優平くんは一振りすると赤い手はボロボロと崩れていく!


『グゲッ!?』


「どうした?俺が欲しいというのに触ることもできないのか?その程度か?俺への想いは?もっと鈴みたいにガツガツこいよ!!ガツガツされるの嫌いじゃないんだ」

 と言う。

 ええっ!?わ、私ってガツガツしてるの!?

 やだ!なんか恥ずかしくなった!


「あらあら鈴ちゃん言われてるわよぉ~?女の子はもっとおしとやかにしなくちゃダメね」


「でも本当にどうして優平くんああなって…」

 するとボコリと私の足を掴む赤い手が地中から現れる!!


「ひえっ!!」


『土御神の血いいいい!!こんなとこにもおおおおお!くれえ!くれえ!俺にくれえええ!!』


「きゃああああ!!」

 しかしそれをあっさりと天ちゃんが爪でバラバラに引き裂き手は無くなっていく。赤い手は消滅する。


「おい、何俺の嫁の足に触ってんだ貴様?俺だってまだ触ったことないんだぞ?この野郎…。俺が欲しいんじゃなかったのか?鈴に入った僅かな俺の血を求めるなんてどこまで貪欲な鬼だ。仕方ないそろそろ鬼ごっこは終わらせてやるか」

 と黒い剣を前に構えて優平くんは人型の紙を何枚か投げてそれは全て優平くんになった。


「あ、し、式神?」


「そうよぉ、本来なら、ああして戦闘用に使うのよ?」

 と天ちゃんが言うと式神の優平くんは赤鬼の身体にしがみついて離れない。


「うわぁ、判るよ。ベトベトしているね、お前の身体…鈴の柔らかい身体とは大違い…」

 と言うから私はまた赤くなる!


「あの…いちいち優平くんが恥ずかしいこと暴露してくるんですけど……」


「あら、愛されてていいじゃない?あの子も思春期ねぇ…。何せあなたが眠ってる間何にも無かったし!!」


『喰いたい!!離せ!!土御神ぃぃぃ!!お前の血が欲しいぃぃぃ!!お前の血があれば!!俺は完璧ににに』


「無理だな…。俺は鈴に全部捧げると決めたんだ。俺が欲しいのは判るけど諦めてくれ…。赤鬼…お前の気持ち…5秒で忘れてやるよ…」

 と優平くんは綺麗な顔で微笑むと呪文を唱え始めた。


【朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍】

 と言うと黒い剣先から空中に大きな網が現れて赤鬼に付いていた式神の優平くんはただの紙切れに戻り剥がれていく。そこに網が落ちて赤鬼を締め付ける。


『ギャアアアア!痛いぃぃぃ!!』

 と赤鬼は叫ぶが優平くんは


「どうしたんだい?縛りプレイは嫌いなの?俺が欲しいのに届かないなんて哀れな…。もう君の顔見たくないね」

 と優平くんは最後に赤鬼の側にスタスタ歩き


【六根清浄急急如律令!!】

 と唱え黒い剣を振り上げて赤鬼を凄い速さで細切れにしていった!

 その際に赤鬼の血は優平くんに浴びるようにかかり、日頃どんな闘いをしてるのかこの時解ってしまった。


 赤鬼は消滅し、鬼門は地中に潜った。

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