第24話 言いたいことが言えない世の中のポイズン
アンチ・ハラスメントやらコンプライアンス問題やら誹謗中傷の抑止強化やら……。もはや当たり障りの無いことしか言えない世の中だ。
ある男はそんな世を危惧した。
「人間には、思いっきり心の毒を吐く場が必要なんだよ!」
その男は、「毒吐き場」と称する秘密の会員制クラブを繁華街の片隅に作った。
そのクラブには、主に社会的地位が高い紳士淑女が集まった。彼ら彼女らは、普段の生活ではとても口にできない暴言・放言・悪口・陰口・差別的な言葉を好き放題に
叫びまくった。客一同はそんな様子にヤンヤの喝采。
叫び終えた者は皆、心が浄化されたかのごとく清らかな顔つきになり、涙を流さんばかりの歓喜に打ち震えて店を後にする。
このクラブは大変に繁盛した。言いたいことを言えるというのは、この時世では最高の快楽なのだな、という事実に人々は気づきつつある。
しばらく店の繁盛は続いたが、繁盛しすぎたのかもしれない。
「毒吐き場」内の毒の総量が限界、臨界点に達した。
毒はどす黒いタールのようなものに物質化された。比喩ではない。タールは醜く臭くただれた様子で、世界中の一般生活圏に垂れ流される。垂れ流されていく。人々への浸食が止まらない。為す術がない。
結果、毒を極めた社会が現出した。醜悪な人間が増え、毒のタールが地球を覆い、全人類はただただ気持ちの悪い集合体へと変貌。
毒を処理するのは、いつでも難しいものだ。
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